369話
「どうしてですか!」
俺の返事を聞いて、彼女は憤慨する。
彼女としては、俺が彼女を倒すことで、この物語を終わらせると思っているのだろう。
そう、彼女と神様というものを入れ替わることで、俺が神様となることで…
ヘンタイ神として、神界に来たこと自体も、そもそもがお姉ちゃん…
綺が考えたことにしては、できすぎていたように思うと、誰かが助言をしていたと考えるべきだ。
それをしたのが、横にいる彼女だというのなら、辻褄もあう。
「自分を犠牲にして、スターのことを救おうっていうのか?」
「それの何がいけないのですか?俺は、生まれたときから、それをしたくてここにいるのですから!」
「どういうことだ?」
「わからないのですか?ただ、俺は最初からそういう存在だったというだけです」
そういう存在だと言われて、俺が思い出すのは、ヤミのことだった。
魔王としてこの世界に生まれた存在。
それも彼女か、もしくはそれ以外の神様たちが作り出した存在ということになるのだろう。
同じだと考えるのであれば、こうなることは最初からわかっていたということになる。
ただ、それでも俺はそうすることを望むことはない。
だからこそ彼女に話しかける。
「なあ…」
「なんでしょうか?」
「今更だけど、名前を聞いてもいいか?」
「俺のですか?」
「ああ、名前がないわけじゃないんだろ?スターの親衛隊みたいな存在だとしてもな」
「親衛隊とは違いますけどね。俺の名前はプレイといいますが、今更名前を聞く必要がありますか?」
「必要か、必要じゃないかなんて、正直なところはよくわからないな」
「だったらどうして聞くんですか?」
「女性の名前を聞くのに、理由がいると思うのか?」
「いるのが当たり前ではないのですか?」
「俺にはいらないな」
「そうですか?それで、俺のしてほしいことはしてもらえるのでしょうか?」
「さっきも言っただろ?ヘンタイだから、嫌だ」
「どういうことですか!」
「どういうことですかって言われてもな、俺のスキルがそういうものだから仕方ないだろ?そもそもだ。女性には暴力を振るう気はないからな」
「だったら、あなたはどうするんですか!」
「どうするか…」
彼女。
プレイがしたいことは先ほどのことでわかっている。
確かに、俺がプレイをここで倒してしまえば、プレイと俺は神様と召喚された勇者と入れ替わることが可能なのだろう。
それは、俺が神様となるのならだ。
だが、俺は別に神様になりたいと思っていない。
だったらどうするのか?
そう考えても答えは出ない。
「いい方法はないのか?」
「ないから、俺がこうやってると思いませんか?」
「そうか…」
プレイに聞いたところで、彼女は覚悟なのか、諦めなのかはわからないが、それを含んだ声で言ってくる。
だからと言って、俺はそれをしたいと思わない。
いや、思えないというべきだろう。
プレイもヤミと同じように最初から役割を決められた存在というのであれば、それを変えたいと思ってしまうし…
結局のところ、俺が何もできないのは、ヘンタイスキルのせいでもあった。
普通であれば、こういう場合。
くそうとでも言いながら、俺は涙を流して神様と入れ替わって、ハッピーエンドのようなものを迎えるはずだ。
だというのに、ヘンタイスキルが女性を傷つけることを全くというほど許すことはない。
そう、ヘンタイスキルをもってしまったからこそ、プレイの要求には応えることができないのだ。
でも、例えばだ、俺がここでヘンタイスキルを変えることができるのであれば、プレイが言っていた要求を行うことができる。
「問題は、今それができるのかわからないってところか…」
「何か思いつきでもしましたか?」
「いや、いい案は特に思いつか…いや…うん?」
「どうかしましたか?」
「ちょっと少し考えさせてくれ…」
俺はそう言葉にすると考える。
先ほどまで考えていた、ヘンタイスキルを消すというものはできたということすらも聞いたことすらなかったので、できないと考える。
でも、今更ながらに俺はこの状況がおかしいということに気が付いた。
そう、俺が神様になれそうという点だ。
どう考えてもおかしい。
パンツを被っているからおかしいというものではなく、こんな簡単に神様となれることがおかしいし、神様となるために、ここにいる神であるプレイを倒さないといけないというのもおかしい。
プレイのことに対して誰かが洗脳でもしたのかと思ってしまうほどだ。
そんなことができるのは誰だと言われれば、プレイと同じ神様だろう。
誰がそれをやったのかまでは正直なところ興味はないが、俺はここまで神様とやらの計画を全部壊してきている。
だったら、今回もできるはずなんだ。
そして、どうやるのか?
それも俺は思いついてしまった。
俺はプレイに向けて自信満々に言ったのだ。
「俺、魔王になる!」




