364話
パイに包まれるというのはこういう気分なのかと思わせてくれるくらいには最高な環境だ。
「どうかしら?」
「最高です」
「うふふ、嫉妬もすべて気持ちいいわね」
バーバルはそんなことを言うが、俺はいろいろな場所に激痛が走るのを、なんとか我慢をする。
どうして激痛が走るのか?
それは、バーバルが俺のことをパイで包んでいるため、それを見たシバル、ヤミ、アイラによっていろいろな場所に攻撃をされているだ。
これもパイに包まれるためにも仕方ないことだと俺自身わかっているから受け止めるしかない。
バーバルは、そんな俺のことを見て、満足そうに口を開く。
「火よ、燃えあがってその姿を龍となって我に付き従う炎となれ、ファイアードラゴン」
バーバルが唱えた魔法によって、炎のドラゴンができあがる。
それも、俺の中から出てくるようにして現れたせいなのか、パイによって無意識にヘンタイスキルが発動しているからかはわからないが、炎のドラゴンは俺の気を纏っている。
「うふふ、愛の結晶ね」
「イダダダダ…」
バーバルが余計なことを言ったせいで、俺の体がさらなるダメージを受ける。
ただ、炎で作り出されたドラゴンを見て、神たちは驚く。
「なんだ、なんなんだこれは!」
「うふふ、魔法よ」
「そんなものは魔力を視ればわかる。そういうことを言いたいんじゃない」
「じゃあ、どういうことを言いたいのかしら?」
「こんな魔法は神たちですら、出せることができないものなんだぞ」
「そうなの?でしたら、この炎のドラゴンがどれほどの強さなのか、味わってみればよろしいでしょう?」
「何を…」
「うふふ、行きなさい!」
バーバルはそう言うと、炎のドラゴンを操作する。
口をあけた炎のドラゴンは、噛みつくようにしてその牙を神たちに向ける。
「神の怒りは負けるわけないんだ、ゴッドレイジ」
一応神も諦めていないようで、先ほどと同じ魔法を唱える。
神の手という神しか使えない魔法は確かに強力だ。
ただ、その魔法を見てもバーバルは動じないどころか、むしろ嬉しそうに笑う。
「うふふ、こんな魔法じゃ足りないわよ」
「それは、この魔法うぃ…」
「何か言ったかしら?」
頭を左右のパイによって挟まれているせいで、少し見えにくくなっているが、それでも炎のドラゴンが一瞬でゴッドレイジという神の怒り…
シバルのときに見たが、黄色の拳が炎のドラゴンに飲み込まれるようにして消えてしまう。
当たり前だが、神が使う魔法なのでかなりの威力があるはずなのだが、簡単に神の魔法を飲み込んでしまうバーバルの魔法は、それだけで神よりも強いものだというのがわかる。
「どうしてだ!神の魔法がこんなに簡単にやられるわけがない。お前ら手伝え!」
それでも、神は諦めていないようで、そう口にする。
ただ、他の神たちはそれに返事を返すことはしない。
一人だけは魔力を高めている状態になったことで、神は後ろを向く。
「どうした?お前たちは、神がこんなことで人間ごときに負けていいのか?」
「はあ…もういいでしょ?」
「なんだと…」
「ここにいるのは、もう神を克服した存在なのよ」
「うるせえ、そんなこと認められないんだよ」
「だったら、その魔法ぐらい一人で消してみせなさい」
仲間割れをしたのか、先頭に立っていた神に、後ろにいた神がそう言葉にする。
先頭にいた神は、悪態をつきながらもさらに魔法を唱えようとする。
その神を見て、バーバルは言う。
「うふふ、ごめんなさい。わたくしは別に弱いものいじめをしたいわけじゃないのよ」
「はあ?」
「うふふ、でしたらわたくしのこのドラゴンを壊してください」
怒る神に対して、バーバルは余裕そうだ。
ただ、神もそこまでバカではない。
先ほどと同じ攻撃をしたところで、炎のドラゴンを破壊できるはずがないことはわかっている。
「どうして、神だと呼ばれているのかをちゃんとわからせる」
そう言って、神は魔法を唱える。
「神の怒りよ、神の怒りよ、わが怒りを神雷となせ、ゴッドサンダー」
バチバチという音とともに、眩い雷が炎のドラゴンに向かっていく。
これはかなりの威力がありそうだ。
そう思ったときに、バーバルが俺を抱きしめる勢いがさらに増す。
パイに溺れるというのはこういうことを言うのだろうと思ってしまうくらいには、息もしにくくなるくらいだ。
そして感じる。
バーバルの魔力がさらに上がっているというのを…
「うふふ、いい…いい!」
「壊れろおおおおおおおおお!」
どっちが神なのかわからないこの展開に大丈夫なのかと思ってしまう。
そして、案の定というべきか炎のドラゴンはその場にとどまったままで、神が放った魔法であるゴッドサンダーでは、壊すことができなかった。
「なんだと…」
「うふふ、良い攻撃ね」
「いい攻撃だと、神の一撃なんだぞ!」
「でも、それがわたくしたちよりも強い攻撃になるということはありませんよ」
「そんなことが、そんなことが…」
先頭にいた神は信じられないかのように、そう口にする。
もうさすがに戦えないだろう。
勇者でもない、ただのと言っていいのかわからないけれど、パンツを被った女性二人によって神の魔法とやらは完全に無力とわかったのだから…
俺も、神様とやらになって、目の前に来た勇者たちがこんなんだったら発狂する自身はあるな…
そんなことを思いっていると、ようやくというべきか、俺はバーバルから解放される。
先頭にいた神は、後ろにいた神に手を引っ張られる。
「ごめんなさいね、迷惑をかけて…」
「いや、こっちこそタイミングが悪かったか?」
「そんなことはないわよ。こうなることは、わかってたの。スターのことお願いね。行くわよ」
そう言葉にすると、彼と呼んでいいのか彼女と呼んだほうがいいのかわからない男は、一番前の神を引きずるようにして他の神たちを連れて去って行く。
「あ…」
叶が何かを言いかけたが、引きずった男は一瞬だけ聞こえたその声に手を振るだけで終わる。
何かあったのだろうというのは、この後に聞くしかないだろう。
俺はそう思いながらも、神たちとの戦いが一応の決着がついたことに安堵するのだった。




