362話
「まじかよ!」
「なんなのじゃ?」
「シバル!」
「任せてください、アイラ様」
急に呼び出された俺たちとは違って、状況が理解できているのか、アイラの声とシバルの声がした。
そして、光が収まってくると、声がしていたからこそ、わかってはいたがシバルが盾を構えて前にいた。
さらには迫る魔力の塊が見えた。
「ふへふへ、ふへへへへ、この魔力は受け止めがいがありそうです」
確かに受け止めがいはありそうなのかもしれない。
ただ、感じる魔力からシバルが受け止められるのかどうかも正直なところはわからない。
シバルはしっかりと盾を構えて、待っている。
考えていたとき、足に衝撃があった。
見なくても蹴られたというのはわかったが、問題は誰に蹴られたのかはわからないというところだろう。
ただ、そのせいもあって俺は前に出てしまう。
油断していたということもあるが、予想外のことに対処できていなかった俺は、そのままシバルの背中を手でたたくような形になってしまった。
完全なる不可抗力ではあったが、そこはシバル。
「ふへ…」
「す、すまない」
「いいえ、ただし!むしろもっとやってほしいくらいです。ボクの背中にいいものをください」
シバルはそんなことを言う。
さ、さすがはドエムだなとは思いながらも、さすがにそんなことをできるはずもない俺は、どうすればいいのだろうかと考えながらも、なんとなくいい案を思いついた。
迫りくる魔力の塊に対して何をしているのかと思われるかもしれないが、俺は気を纏わせた手でシバルの背中に触る。
「た、ただし、その叩いて…」
「この状況でそんなことできるか!これで我慢しろ!」
「こ、これはすごいです。ふひふひ…」
そう気をシバルに流し込んだ。
ヤミの魔力に俺の気を纏わすことができたのだから、今度はそれをシバルの体に施した。
それが正解なのかはわからないけれど、両手に盾を構えていたシバルは、後ろから見てもわかるくらいには、気持ち悪い笑顔を浮かべているようだ。
「ふひふへへへ、ただしからもらったこの力でボクは確実に防いでみせます」
そう言葉にすると、シバルの体から魔力があふれ出す。
そして、それはそのまま盾を覆う。
魔力の盾。
迫りくる魔力の塊よりもシバルが作り出した盾に込められた魔力は弱い。
だからだろう、神たちは言う。
「そんな弱い魔力の盾で何ができるというんだ?」
弱い盾。
確かにそう見えるのかもしれない。
でも、見えるだけだ。
魔力の塊は、シバルが作り出した盾にぶつかった。
「ただし!」
「なんだ?」
「これは、防ぎがいのある魔力ですよ!」
「そ、そうか…」
急に何を言うのかと思ったら、そんなことを口走る。
そして、案の定というべきか、シバルは押される。
「ふへへへへ…」
ただ、相手が放った魔力の塊に押されながらも笑っているのがわかる。
そして、体から出る魔力が増えていることも…
「何が起こっている?」
神は驚いているが、俺たちには普通のこと。
攻撃によって少しのダメージをもらうことによって、さらにドエムスキルが発動したシバルは、盾にさらなる魔力を注ぎ込んでいく。
「なんだ、この魔力は…」
「ボクの中の魔力が強くなるほど、感じます。ただしに突っ込まれたこの、感覚。何かを無理やり入れられたこの感覚がいいんです。ふひひひひ」
完全に誤解を招くようなことを言葉にしながらも、シバルは魔力の盾を強化する。
両手に持ったいた盾は、魔力によって巨大になったように感じるほどだった。
そして、押されていたシバルは、完全に足を止めた。
「こんな攻撃をボクは防いでみたかったんですよ!ふひひひひ!」
シバルのそんな声とともに、神が放った魔力の塊は、両手の盾にはさまれるようにして消えてしまう。
「嘘だろ?」
防げると思っていなかった神は、驚きそんな言葉を口にするが、俺たちはそこまで驚いていなかった。
シバルならやってくれると思っていたからだった。
防ぐことに成功したシバルはというと俺の方を見る。
「どうですか、ただし?」
「さすがはシバルだな」
「はい。頑張ったので、ご褒美をください!」
「え、あ、そうだな」
攻撃を防いでくれたということもあり、俺は断ることもできず、そう返事をする。
シバルのことなので、ここでのご褒美といえば、ぶってほしいなどと言い出す気がしてはいたが、さすがに人が見ているということも考えて、頭をなでるということだけにしておいた。
背中に少しの激痛を味わいながらも、俺はこの状況がなんなのかを考えるのだった。




