361話
俺はまさしくゲートをくぐるものだと思っていたが、その前にヤミの恰好をしっかりと目に焼き付けておこうと必死に見ることにした。
さすがにというべきか、ヤミはその視線にすぐに気が付いて言ってくる。
「なんじゃ?」
「いや、その恰好でずっといるのかなって思ってな」
「悪いのかじゃ」
「いや、俺としては嬉しいけどな」
「なんじゃ、ずっと見られるのはさすがに恥ずかしいのじゃ」
「そう言われてもな、俺のヘンタイスキルが視ろと言ってるからな」
「そういうところだけは、スキルのせいにするとは都合がよすぎるのじゃ」
「仕方ないだろ?スキルとはそういうもんだろ?」
「くう、都合がよいのじゃ、おぬしに見られるのは癪なのじゃ、少し後ろを向くのじゃ」
「へいへい」
俺は、後ろを向くと、後ろに感触があった。
何が起こっているのだろうかは見えていないため、本当のことかはわからないけれど、背中に当たる感触だけでおんぶの形で乗ってきたのだろうと推測する。
背中に感触があるというだけで、ヘンタイスキルが強くなる。
「これは、どういう状況なんだ?」
「見られるのは癪に障るのじゃ。だからこうやっていれば見られることがなくなるじゃろ?」
そうかもしれないけど、むしろ恥ずかしくないのかと思ったが、この感触を感じられるなら野暮なことは言わない。
そんな俺たちを見て呆れるエルを見ながらも、俺たちは順番にゲートをくぐっていくはずだった。
急な出来事であり、エメも魔法によって未来を視ていなかったからか、気づかなかったことだった。
そう、俺たちは光に包まれたのだった。
※
「やっぱり、そんなに長くはもたないのか」
「諦めるのですか?」
「諦めてはないけど。逃げ回っても仕方ないことでしょ?」
「そうなのかもしれませんけど、後少しだと思いますよ」
「はあ…何が見えているのかは知らないけど、ムウ…あんたが何を考えているのか、あたしにはわからないよ」
「そうですね。スター…あなたの好きな人に会えるかもしれませんよ」
「そんなことあるはずないけど?」
スターはそう口にする。
そう思うのも仕方ないことだった。
スターたちがいる場所が神界だったからだ。
そう、スターとただしでは文字通り住む世界が違う。
この神界に来るためにはあの世界にいる魔王を倒さないといけない。
ただしがやろうとしていることである、勇者たちを満足させて送り返す。
それによって、神界にいるスターたちに願いを叶えてもらうことができる。
もし、神界に来るというのであれば、そのタイミングだろうと思っていた。
だから、ムウが言うことは信じられなかった。
そもそも、ムウが来るタイミングというのもおかしかった。
スターが、困っていたタイミングでそこにいた。
まるで、そこに来るのがわかっていたかのようにいて、スターもビックリした。
お姉ちゃんと呼ばれていた彼女が、神様を逆に組み伏せるようにして神界にやってきたと聞いたときにはビックリはしたけれど、ただしを悪い意味でも、良い意味でも苦しめていた彼女であれば、それくらいのことは行うことができるだろうとは思ってしまった。
ただ、そのお姉ちゃんも長時間スターを守ることはできなかった。
それもそのはずだった。
仮にも相手は神たち、魔力は当たり前のように勇者と同じかそれ以上にある。
そして人数も七人はいることも考えても、一人しかいないお姉ちゃんでは防ぎようがなかった。
魔力と魔力のぶつかり合いでは、当たり前だけど、魔力が高い方が勝つ。
人数の差によって、簡単にスターを逃がすことに自分を犠牲にしたお姉ちゃんと呼ばれた彼女。
そして、いなくなったからこそ、スターは逃げていた。
神界にとどまれなくなった彼女は、世界に戻って何をするのだろうか?
ただしと、今度こそは仲直りできるのだろうか?
最後まで逃げられるかわからないけど、いけるところまでと思って足を進めた先にあったのは、父親と本当に昔に神界で過ごした場所。
そこにたどり着いたときに、いたのがムウだった。
神界に戻ったときに唯一声をかけてきた相手であり、スターから見ても変わり者だった男だった。
そんな男が、変なことを言うのはよくあることなのだろうけれど、それがただしが神界にやってくるというものだというのであれば、さすがに嘘だとわかっていた。
スターだって、確かにそんなことが起これば、いいのだろう。
でも現実的ではない。
そして、そんなスターたちの前には他の神たちがいる。
そこには、スターを最初は匿っていた神もいた。
「うふふ、ごめんなさいね」
「わかっていたからいい」
「そうなのね」
彼…
彼女のような神との簡単な会話も終わり、神たちはムウに向き直る。
「さあどうするよ、ムウ。最初から反対していたお前だけが最後にやっぱり残るんだな」
「どういうこと?」
「わからないか?お前をだしにして、勇者召喚をしたのは俺たち神だが、その中で唯一反対をしていたのが、ムウだったってだけだ」
その言葉を聞いて、スターはムウを見る。
ムウは、頭をかきながら言う。
「まあ、親父さんに頼まれたことですから…」
そして構えを取る。
ただ、それを見ても、六人の神たちは余裕そうに笑うだけだった。
そんな神たちを見て、ムウは言う。
「余裕そうですね。そんな余裕でいいのですか?」
「当たり前だ。人数はこっちが上なんだからな!」
そう、当たり前のことのように言って、他の神たちは魔力を高める。
「魔法なんてものは、この人数ならもはや不要だな!」
神たちがやろうとしていること、それは魔力の塊をスターたちにぶつけるという単純な攻撃だった。
圧倒的な人数の差。
そして、合わさった魔力の差。
だというのに、ムウは構えを解かない。
むしろ少し笑っている。
この雰囲気に、スターはどこかただしと似たものを感じたときだった。
「終わりだ!」
その言葉とともに、魔力の塊が放たれる。
スターたちは、その魔力に飲み込まれる。
というわけにはならなかった。
それは、目の前にたくさんの光が現れたからだった。




