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魔法使いになれなかった俺はヘンタイスキルを手に入れた  作者: 美海秋
ヘンタイは世界を救う

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358話

壮絶な過去だということを、話しを聞いて思う。


「はは、どう思う?」

「俺には何も言えないことだな」

「やっぱり、そうなるよな」


クロはわかっていた。

こんな経験をしたことは普通じゃないということも、そしてそれをわかってもらうことができないということも…

実際にただしはその話を聞いたところで何も言えなかった。

確かにただし自身も、いろいろな経験をした。

でも、それを受けたのは肉親以外だった。

だからこそ肉親にそれ…

暴力を振るわれるという経験がどれほどのものなのかわからない。

現実世界では虐待と呼ばれてしまうそれを長年されていたということはただし自身、どんな感情になってしまうのかわからなかった。

ただ、クロのその気持ちを全員がわからないというものではなかった。

二人、この中でも同じようなことになったであろう人を知っているからだった。

その二人は少女を連れて、俺たちの近くに寄ってくる。


「なあ、あんた」

「ちょっとエル?」

「いや、いいんだ…それで、なんだ?」


口調の荒いエルのことをエメは注意をしようとしたが、クロは気にした様子はなく。

それを聞いたエルは続ける。


「なんだ…こういうことを言うのは、あたいはがらじゃないからな、言いたくはないけどな。そんなことだ」

「そんなこと?そう思うのか?」

「まあな、あたいは村の全員から無視や陰口を言われるくらいが当たり前だったんだからな、この見た目のせいでな」

「村の全員か…」

「そうだ。エメだって、生まれたその日に殺されるところだったんだぞ」

「それは…確かに俺よりも壮絶な経験だな」


クロはそうしみじみ言葉にする。

そのクロを上から見下ろすようにして続けてエルは言う。


「だから、そんなことでいちいち悩むのがおかしいってんだ」

「こら、エル。そういう言い方はダメだと思うけど…」

「いいんだよ。うじうじ過去にとらわれて、変われなかったのはこの男自身のせいだからな」

「そうなのかもしれないな…」

「ほら、こいつもそう言ってるだろ?」

「そうなのかもしれないけど」


自信満々に言うエルを窘めるエメだが、そこは俺から見てもいつも通りだ。

問題はクロのことだ。

どう考えても先ほどまでとは別人なのではないのかと思ってしまうくらいの変わりようだった。


「さっきまでとは全くの別人だな」

「はは…まあな…俺は俺の憎しみですべてを変えられると思っていた。それを簡単に壊してしまうやつが現れた。だったら、こうなるのも仕方ないだろ?」

「その言い方だと、俺が悪いみたいじゃないか?」

「別に悪いとは言ってないだろ?」

「そうなのか?」

「そうだ。俺が間違っていたことを証明させられたっていうだけだろ?」

「まあ、そうだな…結局のところ、過去にあった憎しみでは俺を倒せなかったもんな」

「そうだな…」

「結局のところ、そんなものでは未来にはつながらなかったということだ」

「言われれば、確かにそうだな。俺は過去を変えるために強くなるってことを、過去の出来事を使って一生懸命にやっていただけだったな」

「そういうことだ。この世界にいるのは今のクロだろ?過去だけの力に頼っているようじゃダメってことじゃないのか?」

「そういうことだったのかもな」


クロはそう言葉にすると、ゆっくりと立ち上がる。

戦っていたときのような憎しみがこもった雰囲気は完全になくなっている。

クロは空を見上げると言う。


「それだと俺はなんのためにここに来たんだ?」

「俺に聞くなよ…」


俺はそう言って、エルたちに助けを求めるようにして視線を送る。

エルは視線が合うと、しょうがないという感じで頭をかく。

そして話しをする。


「それを考えるのが、この世界ですることだったんじゃねえのかよ」

「そう言われれば、確かにそうだ。君たちはどうやってそれを乗り越えたんだ?」

「あたいら?そんなのは簡単なことだっての…あたいらはほかにやることがあって、それをやってるうちにどうでもよくなったってだけ」

「そういうものなのか?」

「当たり前じゃん、そんな過去も忘れるくらい忙しく過ごしてれば、簡単に考えることもないからな」

「その通りだな」

「だったら、その何かを見つけないとな」


エルとクロの会話を聞いて最後に俺はそう言葉にする。

クロは頷くと、答える。


「今まで少し考えて、全くできていなかったことをやりたいな」

「あるのか?」

「ああ…俺は漫画家になりたい」

「漫画?」


エルたちには聞き覚えのない言葉で、戸惑っているようだが、俺はどこか納得した。

クロ自身主人公になりたいという願望があったのだ。

それは漫画を読むことによってできたものだった。

でも、実際に物語の主人公のように活躍できる人というのは一握りなのだということを気づいた。

過去にあったことも含めての経験を、大好きな漫画というものに落とし込むことができればと考えるのは自然のことなのだろう。


「じゃあ、それがやりたいことってことか…」

「ああ…やれるとは全く思ってなかったことだけどな」

「でも、今ならできそうなんだろ?」

「まあな」

「だったら、その感覚を忘れるなよ」

「当たり前だ」


クロはそう言うと、俺に右手を差し出す。


「なんだ?」

「迷惑をかけたからな、握手だ」

「自覚はあったんだな」

「少しはな。それでも俺は、俺の行いが正しくなるものだと思っていたからな」

「そう甘くなかったってことだな」

「そうだ」

「そうか、俺は星界正(せいかいただし)

「俺は、大黒黒夜(おおぐろこくや)だ」


自己紹介をして握手を交わす。


「頑張れよ」

「あ…」


クロはああとでも言いたかったのだろう。

ただ、新しい願いをもったクロは他の勇者と同じように消えていく。

結局勇者たちも全員が何か問題を抱えてたってことか…

俺はそんなことを思う。

そして、思ったのだ。

後は叶だけだと…

だからこそ、エルの方を向く。

エルは面倒くさそうに手を挙げると、ゲートを開いのだった。


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