353話
お互いに拳がぶつかり合ったが、すぐに俺は力が若干押されていることに気づいて、力を抜く。
それによって、俺の拳はすぐに押し負ける。
相手の攻撃の勢いを生かすようにして、後ろに飛ぶ。
ただ、相手もそんな俺の行動を予測しているかのように、突き出していた拳をすぐに引き絞る。
「シンカイ流、二の拳、シューティングゴッド」
そんな言葉とともに、黒い魔力を飛ばしてくる。
俺は、足に気をためることでそれを躱す。
さっきの攻撃と今の攻撃は、どちらも自分自身で使っている攻撃と似ていた。
そして、言葉からわかることは…
「神がクロの中に入ったってことだよな」
俺のその言葉で、男は笑う。
「くくく、くくく…やっぱりそうですよね。わかってしまいますよね」
「わかるに決まってるだろ。何度かお前らとは戦っているわけだしな」
「くくく、確かにその通りですね。まあ同じ神としてもあいつらは俺と違ってあの事件が起こった後に俺と同じ立ち位置の神になったものたちですからね」
「あの事件?」
「知っているでしょ?俺たちの世界にいる女性を連れて行ったという話しですよ」
「それか…」
確かニオイスキルという、非常に危険というべきかよくないスキルを持った男が魔王を倒したあとに願ったことが、魔王を倒すまでにできなかったことである、ハーレムを作るということだった。
男の誰もが憧れるものというのが、魔王を倒した存在ではあったがニオイスキルのせいで誰も仲間にならなくてそれができなかった。
だから、魔王を倒した後にそれを願った。
その事件のことを言っているのだろう。
今クロに乗り移っている神というのが、その事件が起こる前から神となって収めていた存在だということなのだろう。
でも、それの何が違うのだろうか?
そう思っていると、男は言う。
「わかってないのですよ!神としての戦い方というのもね」
「どういうことだ?」
「ほら、わかりますよね。俺とあなたの攻撃が似ているということが…」
「それは確かに思ってたな」
「そうでしょう?それは、俺とあなたが同じ師をもったからということですよ」
「そうなのか?」
「はい。これまで戦った神たちはどうでしたか?スキルを神が憑依することで増えた魔力を使ってただ発動しているだけでしたよね」
そう言われて思い出すと、確かにそうだった。
これまでの勇者に乗り移った神たちは、勇者に選ばれるべくして選ばれたそのスキルを使って戦うというのが確かに一般的だった。
むしろそれが違うのが目の前にいるだけの男だけだった。
「わかりましたか?俺が他の人とは違うということがね」
「ああ、少しだけな」
「少しだけですか?だったら、すぐに違うということを教えてさしあげますよ」
その言葉とともに、黒い神は拳を構える。
拳に黒い魔力を纏わせて再度放つ。
「シンカイ流、二の拳、シューティングゴッド」
「ちっ…」
「一発だけではありませんよ。シューティングゴッド、シューティングゴッド!」
「カイセイ流、三の拳、ライトニングスタ―」
気を纏わせてよけようとしたところで、それを読んだかのようにさらにたくさんの魔力の拳を俺に向かって飛ばしてくる。
俺は力強く地面を蹴ってそのままの勢いで駆け抜ける。
この際、攻撃よりも先に避けることが先決だった。
「逃げてばかりですか?」
「ああ、俺はな…」
「?」
「ドラゴンネイルなのじゃ!」
そう、俺は避ける。
黒い神は俺のことしか見ていない。
同じ技を使うということで因縁があるということなのだろう。
でも、ここには俺以外にも強いやつがいる。
魔王であるヤミという存在が…
ヤミが放ったドラゴンの手は黒い神に向かってくる。
「いいですね!シンカイ流、一の拳、トルネードゴッド」
「防がれてしまったのじゃ!」
「不意打ちだったのにな…」
俺はそう言いながらもヤミの隣に立つ。
黒い神はそんな俺たちを見ながら言う。
「なるほどなるほど…今回の世界は魔王と俺と同じ技をもつ男が手を組むということですか」
「だったらどうなんだよ」
「相手にとって不足はないということですよ。さあ神である俺を倒すことができないと、魔王を倒されてしまいますよ!」
「そんなことは、最初からわかってる」
「でしたら、俺を満足させるくらい頑張ってくださいね!シンカイ流、二の拳、シューティングゴッド」
黒い魔力の拳が飛んでくる。
俺は隣のヤミをしっかりと視界に捉えると拳を握りしめる。
「カイセイ流、二の拳、シューティングスター」
黒い神が飛ばした黒い拳と俺が飛ばした気を纏った拳がぶつかる。
そして、お互いの拳は相殺しあったのだった。




