350話
風の勇者の名前を聞いた俺は、予想通りというべき名前に驚きながらも納得した。
金色風魔と言われたら、アニメであるゴールドウィンド。
風を扱うことができた男は、傷つけることで相手を倒してきたのだが、一度の敗北から乗り越えることで金色の風になった男が、すべての攻撃を防いでいくことによって敵さえも守ってしまうという話しだ。
昨日の敵は今日の友といえばいいのか、そういう展開をふんだんに盛り込んでくる話しによってなかなか面白かったのもあったが、守る相手というものは、自分が守っているのではなくて、お互いに守りあっているものだという風に聞いて驚きながらも納得したのを覚えている。
俺は先ほどの言葉と、名前を聞いて拳を固める。
自分自身も忘れていたからだった。
お互いに助け合うということができれば、クロの魔法もなんとかできるのではないのか?
そんなことを思う。
ただ、そんな俺たちの雰囲気を感じ取ったのか、クロは怒りをあらわにする。
「何をやっても無駄だ!黒炎よ、槍となって跡形もなく相手を燃やし尽くせ、ブラックジャベリンフレイム」
すぐに魔法を唱えたクロは黒い槍を作り出す。
先ほど、気を纏った拳を幾つも飛ばすことによって防げたはずの槍は、さらに禍々しくなっている。
俺は気を纏った拳を構える。
防げるのかわからないが、やるしかない。
そう思っていたときだった、金色の風が俺の拳に纏われた気がした。
「カイセイ流、二の拳、シューティングスター」
「金色の風よ、風で仲間の攻撃を包め、ゴールドウィンドインヴァルヴ」
風魔から唱えられた魔法によって、拳から放たれた気が包まれる。
その拳はクロが出した黒い槍を簡単に相殺してしまう。
「まじかよ…」
「どうしてだ!」
驚く俺とクロとは違い、風魔は落ち着いたように言う。
「今の風なら、オレはすべてを守ることができるってことだな」
「何を、何を言ってるんだ!俺はそんなことは認めない!」
クロは怒る。
そして、すぐに何かに気づいたかのように魔力を高める。
「ああ、そうだ。今からここをすべて破壊すればいいんだな」
その言葉を聞いて、舌打ちしたいのをなんとかこらえる。
気づいたということだろう。
俺はすぐに風魔に言う。
「範囲攻撃が来るぞ!」
「ああ?どういうことだ?」
「いいから、全部を守ることを考えろ!」
わけがわかっていなかった風魔に対して、俺はどうすればいいのかを考える。
先ほどのように俺の気を纏わせた拳と、覚醒している風魔の魔法を合わせることができれば、防げるだろう。
ただ、俺ができることが、多くをカバーできるものではない以上は、範囲攻撃をされてしまえば終わりだということを風魔は気づいていない。
その範囲攻撃が可能だということも…
「はは!気づいても遅い、自分たちは守れても、全員を守れるかな?なあ、なあ!」
クロはそんな言葉を発してから、黒い何かを解放する。
時間はまだ暗くないはずなのに、黒い何かで覆われてしまい、暗く感じるようになってしまう。
その範囲に、さすがの風魔もおかしいことに気づく。
「あの規模は、オレでもできるの…いや、できる!オレなら!おい、ヘンタイ!」
「できるわけないだろ!全部つぶれちゃえよ!黒炎よ、黒く黒く相手を燃やす鞭を作れ、ブラックウィップフレイム」
クロのその言葉によって作り出されたのは鞭。
ただ、鞭と呼ぶには大きすぎるものであり、そして禍々しすぎた。
風魔は俺に何かを口パクで言う。
俺は、すぐに理解するとその場から駆け抜けた。
そして、四人の前に来て拳を突き立てる。
風魔の声が聞こえる。
俺たちはなんとかその攻撃を防ぎ切った。
一人、風魔を除いて…
金色の風に包まれていたからこそ、立ってはいるがそれがやっとという感じだった。
俺が言われたのは、壁を作ることだった。
気を思い切り込めた拳によって、地面にも気を流し強固な壁を作る。
それに風魔は風を纏わせてくれた。
だからこそ、防ぐことはできた。
でも、とうの風魔はボロボロだった。
それに気づいた彼女が近寄ろうとしたところで、風魔の声がする。
「来るな!」
「でも!」
「オレは、大丈夫だ!」
「兄ちゃん…」
何か言いたげな彼女にそれだけを言うと、風魔は俺に声をかける。
「ヘンタイでも、オレの言うことはしっかりできるじゃねえかよ」
「俺は別にヘンタイじゃないけどな」
「くく、確かにそうだな。まあ、オレも機嫌がいい。やることができたんだしな。大切なものを守るってことをよ。大切なものが何かということもわかったしな」
「そういうものなのか?」
「ああ…あとは頼むことになりだが、最後まで守ってくれ、金色の風よ、仲間に風を与えよ、ゴールドウィンドゾーン。じゃあな」
その言葉とともに、消えるとわかっていたかのように、風魔は消えていく。
「兄ちゃん!」
彼女のそんな絶叫だけを残して…
ただ、ここにいる人の記憶からすぐに消えていく。
そのことに怒りを覚えながらも、目の前にいるクロと対峙する。
「はは!何かがあった気がするが、邪魔者がいなくなっただけだよな。俺が覚えていなくてもいいことだ!」
「黙れ!」
俺は先ほどのことによる怒りを覚えながら、クロに近づいてその拳を振るう。
そして、そのまま黒い何かごとクロを殴りつけたのだった。




