347話
「黒炎よ、黒く黒く相手を燃やす鞭を作れ、ブラックウィップフレイム」
その言葉とともに生み出されたのは禍々しい黒い鞭。
その鞭は地面につくと、当たった場所は黒く焦げる。
すべてを焼き焦がしてしまうような鞭の存在に驚くが、クロは楽しそうだ。
「近距離の戦いだからな。俺もこういう武器をもっておかないといけないよな」
そんなことを言いながらも、クロはそれを振り回す。
当たったらやばいだろうという事実だけはわかる鞭の存在に、俺はどう立ち向かうべきかと考える。
ただ、強すぎる武器というものに対抗するためには…
「当たらなければいいってことだよな!」
「跳ね返してもいいんだぞ!」
クロはそんな言葉とともに鞭を振るう。
大振りな攻撃を俺は避ける。
クロの魔力と関係しているからか、鞭は大きく、扱いづらそうに見える。
だからこそ、近づく。
大振りの攻撃には近づくことによって、避けることができるからだ。
足に気を込める。
「カイセイ流、三の拳、ライトニングスター」
気を込めて地面を蹴ることによって、加速する。
これによって、かなりの勢いが出る。
クロが鞭を振るうよりも速く、その懐に入るようにして向かっていく。
ただ、クロの近づいたタイミングで嫌な予感がして横っ飛びをする。
そしてすぐに俺は態勢を立て直して通ったであろう場所を見た。
すると、そこは黒く焦げていた。
「さすがだ。俺の攻撃を完璧に読んでるなんてな。やっぱり戦闘は楽しいな!」
「楽しいかはわからないけどな」
楽しそうなクロとは違って、俺は頬に汗が流れるのを感じた。
面倒くさい相手と感じながらも、さすがの強さだった。
今のも、鞭で最初に大振りの攻撃を見せておいて、俺を突っ込ませたところで、次にそこに鞭で作った設置型の攻撃を置いておく。
後は、俺が突っ込むのを待つだけだ。
それも気づいたことによって、躱すことができたが、やっぱり禍々しい黒い炎は当たりたいとすらも思わない。
気を使って少しは跳ね返すことができはしたが、それでも結局のところは一発に対して多くの気をぶつけないといけなくなっている。
それほどまでに、相手の禍々しい黒い炎が強力だということだ。
俺は再度拳を固める。
それを見たクロは、鞭を消す。
「鞭を使わないのか?」
「初見で攻略されてしまうものを再度使うというのはバカすることだろ?」
「その意見はわかるが、鞭自体の使い方はまだあるはずだろ?」
「確かにあるな。ただ、俺はそこまで鞭で戦い方を思いついたりしないんだよ」
「どういうことだ?」
「わかるだろ?多くのゲームでは、やっぱり剣だ。剣で戦うのがいい!剣を使って、困難を跳ね返す!それがやっぱり醍醐味だと思わないか?」
「そんなこと言われても、俺には使えないからな」
「なんだ?俺のライバルなのに、剣を使ったりと考えなかったのか?どうやったらうまく対処できるのかも含めてな!」
「やったことはないな」
「だったら、俺が見せてやるよ。黒炎よ、黒く黒く燃えて一本の燃やし尽くす剣を作れ、ブラックソードフレイム」
そう言葉にして、クロは剣を作り出す。
俺は打ち合う覚悟をして拳に気を纏わせる。
「行くぞ、行くぞ!」
「ちっ!」
意味不明な構えをしたクロは、その剣を振るう。
大振りの斬り上げ。
簡単に避けた俺は、気を込めた拳をクロに叩きつけるつもりだったが、クロから放たれる黒い何かが大きさを増したと思うと、斬り上げていた剣が上から降ってくるようにして向かってくる。
チラッと剣を確認すると、黒い剣は振り上げたときと違い大きくなっている。
もしかしなくても、それは魔力によって黒い剣が大きくなったものだった。
先ほどの鞭でさえも、形状をうまく変えることで、俺の予測を防いでいたというのに、今回は失念していた。
俺は拳を大剣を弾くようにして振るう。
それでも、大剣は俺に当たるようにして向かってくる。
「黄金の風よ、吹き荒れろ、吹き荒れろ、そしてすべてを断絶する風の盾を作り出せ、ゴールドウィンドシールド」
ただ、それは魔法によって作り出された盾によって防がれる。
唱えたのは、風の勇者だ。
「助かる!」
俺はそう言いながらも、少し距離を取る。
本当のところは拳を振るいたかったが、そうできない理由があった。
クロの剣は気づけば元に戻っていたというのもあるが、一番の理由はそれではなかった。
「あーあ…俺を邪魔したな?俺を邪魔したな?またか、またか!またなんだな!俺のゲームを、俺のことを邪魔ばっかりしやがって、俺のゲームを邪魔していいのは、ただしだけだ!俺のことを気づいてくれたただしだけなんだ!他の奴が俺のことを邪魔するな!邪魔するな!ああ、だからすぐ憎く、憎くなるんだよ!」
クロは髪の毛をかきながら、そんなことを口にする。
先ほどまであった笑顔はなくなり、黒い何かはさらにクロの体を包むようにして広がる。
「んだよ、あれはよ!」
「そんなこと、俺にもわからねえよ」
まるで何かに憑りつかれているようにして、言葉を繰り返したクロの姿は、後ろが完全に黒い何かと同化していた。
嫌な予感しかしないながらも、俺は再度拳を構える。
ただ、クロはこれまでとは違う。
黒い何かを右手に纏わせて魔法を唱える。
「黒炎よ、ただ相手を焼き尽くせ、ブラックフレイム」
黒い炎は、俺ではなく風の勇者に向かっていく。
俺は拳を握りしめて拳を放つ。
「カイセイ流、二の拳、シューティングスター」
気を放った拳は、黒い炎に飲み込まれる。
先ほどは防げた攻撃だったが、今回は防げない。
これも黒い何かの影響ということなのだろうか?
俺は風の勇者に声をかける。
「気をつけろ!」
「自分のことくらいは守れる。黄金の風よ、吹き荒れろ、吹き荒れろ、そしてすべてを断絶する風の盾を作り出せ、ゴールドウィンドシールド」
風の勇者は再度風の盾を作りだす。
そこに黒い炎は当たるとともに、燃えだす。
違和感を感じ取った風の勇者は魔法から離れる。
すると、風の盾は黒い炎によって燃える。
「おいおい、どうなってんだよ…」
風の勇者は驚きながらも、黒い炎は防ぐことができた。
それに対して、クロはまた怒る。
「防ぐなよ、また俺の邪魔をするんだからな!」
そう言葉にする。
さらに黒い何かはクロを纏う。
これでわかる。
クロのスキルというものは、憎悪スキル、もしくは激怒スキルだろう。
どうすれば勝てるのかわからない俺は、拳を握りしめることしかできなかった。




