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魔法使いになれなかった俺はヘンタイスキルを手に入れた  作者: 美海秋
ヘンタイと旅立つ人たち

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337話

倒れたミライの看病をするために、アイラとシバルが席を離れて、アネさんは一人でセイクリッドのことを処理するために仕事へと戻っていった。

俺とヤミ、バーバル、エメ、エルの五人はミライが目を覚ますまでの間、別室でアイラたちの帰りを待っていた。

部屋の中は静かだった。

理由はわかっている。

ミライが俺の名前を叫んだからだ。

それも宗次が消えるというタイミングで…

ミライのヨチスキルで少し先を視ていたのだろう。

そして、消えるということを視てしまった。

だから、ミライは俺の名前を呼んだ。

そのことに、全員が疑問を感じてしまった。

勇者が消えて、その存在も覚えていないはずだが、疑問を感じてしまった以上は何かを言わないといけない。

どう言葉にすべきなのかと考えていたときだった、エメが口を開く。


「少し前の違和感というべきものを、わたしは感じていました。でも、先ほどの声で、それがなんなのか少しわかった気がします」

「そうなのか?」

「はい、ただしさんとヤミさんの二人だけで、何かわかった様子がしていたのを見て、二人だけにしかわからないことが起こったのだということはわかりました」

「それが何かわかったのか?」

「いえ、それがわたしにはわかりません。違和感というものを感じてはいるのですが、その違和感の正体というものがわからないのです」

「そうか…」

「別に、あんたたち二人で勝手に納得するのはいいけどな。だったら、それこそあたいを使うなよ」


エメに続いて、エルも俺にそう言う。

バーバルの方を見ると、ニコニコと微笑んでいるだけだが、むしろ怖いとさえ感じる笑顔に、俺は話すことを決意する。

まあ、こうやってバレてしまえば隠すようなことでもない。

それに、勇者が消えてしまった理由というものが、本当に合っているのかも含めて説明をしておかないといけないしな。

そう思った俺は話しを始める。


「さっきあったことは、勇者が消えたってだけだ」

「勇者が消えたんですか?」

「ああ、消えた。理由はなんとなくわかるが…」

「待ってください。魔王であるヤミさんは、まだいますよね」

「ここにいるな」

「それなら、どうしてなんですか?」

「勇者が消える理由か…」

「はい」

「あくまで仮説ならある」

「それは、なんでしょうか?」

「まずはヤミがいるってことだな」

「なんなのじゃ?」


急に名前を出されて、注目をうけると、さすがに戸惑ってはいるが、ヤミがいるというのは重要なことだ。

俺が勇者のことを覚えているのは、魔力がないからというので理解はできるが、ヤミが勇者のことを覚えていることがおかしいからだ。

まあ、このことを言ったところで、消えてしまった勇者のことを覚えていないので説明が難しい。

だから、まずは疑問を解消しないとダメだったが、ヤミがいるということだけでは全く説明の意図が理解できなかったようで、不思議そうに言われる。


「ヤミさんがいるっていうのは、何かおかしいことなのでしょうか?」

「少し前に話した内容を覚えているか?」

「前に話した内容ですか?」

「ああ、ヤミに言葉が通じることについてだ」

「えっと、なんのことでしょうか?エルは覚えていますか?」

「エメが覚えていないことをあたいが覚えているはずがないだろ?」


覚えていない?

ということは、あのときに勇者と話した内容すらもよくわかっていないということになる。

全員が覚えていないのか?

そう思っていたときだった。


「大丈夫です。わたくしは覚えていますよ」


バーバルからそんな声が聞こえる。


「まじかよ」

「はい。ただしは知っているはずですよ。わたくしが多くのアイテムを持っていることをね」

「確かにそうだったな」


メイニアとジーニアスが作ったいくつもあったアイテムの中にあったものだろう。

俺ですら、効果がわからないものをいくつか持っているから、その一つを使ったということだと思うのだが…

わかっていたのなら、何かを言ってほしかったのは事実だった。

先ほどの無言の圧力が怖くて、余計にそう思っていた。


「勇者が消えたというのも、少しだけはわかりますから…」

「だったら、どうして言ってくれなかったんだ?」

「わたくしには、その理由がわかりませんから」

「どういうことだ?」

「ただしのように理由がなんとなくわかれば、言ってもよいのでしょうが、理由がわからなくて適当なことを言ってしまうと余計に場をかき乱すことになるでしょう?」

「確かにそうだな…」


さすがの余裕に驚きながらも納得する。


「聞かせてもらってもいいのでしょうか?ヤミちゃんがいたから消えた理由を…」

「ああ、それは意思の疎通だ」

「意思の疎通だ?そんなことで変わるのか?」

「ちょっと、エメ?」

「いや、だって言葉が通じるだけで何か変わるのかっていう話しだろ?」


エルはそう言う。

確かにそうだ。

意味がないことだと思ってしまう。

でも、違う点がある。

それが…


「勇者と魔王の意思が繋がるってところだ」

「どういうことでしょうか?」

「例えば、勇者と魔王の考えが通じ合って、魔王を倒さないと勇者が言った場合どうする?」

「そうなってしまえば、魔王が世界にずっといることになりますね」

「まあ、そうなんだよな。魔王がずっといるっていうことがおかしいんだ」

「ただしは、勇者が魔王を倒すのが当たり前と考えているのかしら?」

「ああ、そう考えている。だって、魔王を倒すことで勇者は願いを叶えてもらえるんだぞ?それなのに、この世界にいてもいいと勇者が言い出して、魔王を倒さないなんてことになれば、神様の思い通りにはならないと思わないか?」

「確かにそうですね」

「言われてみれば…」

「本当ね…」

「確かになのじゃ…」


ヤミはわかっていてほしかったが、全員が納得したところで、勇者が消えた理由を話す。


「だから、勇者が消えた理由というのは、たぶん魔王を倒さない理由ができてしまって、それを魔王に言うってことじゃないのか?」

「それは、そうですね」

「ただし、ちょっとあたいにはわかんないんだけど…勇者全員がここにいるヤミのことを魔王だとは知らないのにそんなことが起こるっていうのか?」

「確かにそうね。ただしはそこについてはどう思うのかしら?」

「そこについては、今一つこれだっていうのはわからないが、名前だと思っている」

「どういうことだ?」

「勇者が消えるタイミングっていうのが、今のところこの世界でやりたいこと、そして本当の名前を言ったときなんだ」

「そうなんですか?でも、そこに何が関係してくるんでしょうか?」

「そこで、再度ヤミだ」

「またなのじゃ?」


ヤミは再度名前を呼ばれて戸惑っている。

でも、ヤミが認識していることが重要だということはなんとなくわかっている。


「ヤミのことがおかしいという話しは覚えているか?」

「ふふ、わたくしは覚えてるわよ。ヤミちゃんが普通だと魔王にしては弱すぎるとか、話しが通じるのがおかしいということよね?」

「ああ、それだ」

「それに何が関わってくるのでしょうか?」

「いや、ヤミは弱い。そんな弱いヤミを倒さないようにする勇者はいるのかという話しだ」

「はあ?ただしは、勇者はいらなくなったからいなくなったと思うのかよ」

「エル、そういうことだ。今のヤミだとかなり強いのは確かだけど、それまでのヤミだったら当たり前に勝てるだろ?そんな魔王を相手しないってことを考えると、むしろそんな勇者いるのかって考えるのが普通じゃないのか?」

「確かにそうだけど…だったら、神様ってやつは最低だな!」

「エルが怒るのわかりますが、逆に考えれば、これは神様の思い通りにいっていないということですよね」

「そうなるな。考えがあってればな」


そこまで言ったところで、沈黙が部屋を包む。

勇者が消える。

それがいいことなのか、悪いことなのかがわからない以上は正しいことなのかわからない。

だから、これを続けるのかどうするのかを誰も言わない。

いや、言えないというところだろう。

ただ、そんなときだった、部屋の扉が開いて、アイラとシバルが倒れる。

沈黙していたタイミングだっただけに、全員が注目する。

そんな中アイラは、すぐに何事もないように立ち上がると言うのだった。


「だったら、私が勇者になってみせるんだから!」


馬鹿げたセリフ。

聞いた瞬間はそう思った言葉だった。

だからこそ、みんなは苦笑いだった。


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