336話
宗次の周りにいた人たち、それはすべて他人だった。
他人といえば、血が繋がっている人以外がそうだと思うかもしれないが、宗次は家族すらも他人だと感じていた。
すべては、お金で繋がっている人たちという認識だった。
父は社長ということで、お金を稼ぐことに必死になり、お金で欲求を満たす。
母も同じように父からもらったお金で贅沢をしていた。
兄妹である妹も、何かあるたびにお金をもらい、ないときはその見た目にお金をかけることで、父の知り合いの社長と仲良くなってお金をもらったりしていた。
宗次自身も、会社を継ぐことが決まっていたからこそ、そのお金で友達や恋人を作っていた。
お金があれば寄ってきて、お金がないと離れていく。
だからこそ不思議だった。
大学生のときに出会った男に…
お金もそんなにない。
高校生で、よくわからない事件を起こしてそんなことを隠すこともできないような貧乏な男。
惨めなやつだと思っていたのに、その男は自分のことをわかっているかのようにやるべきことをやっている。
それが目について仕方なかった。
そのときはどうしてなのか理由はわからなかった。
ただ、すぐに何なのかわかる。
僕は父の跡を継ぐために会社で働きだした。
会社であったのはいつもと同じように、お金と、そして地位で相手を判断するというものだった。
二つのものを併せ持ったことによって、僕に何かを言ってくる人というのはいなくなった。
だからこそ、天狗になり、気づけば何もかもなくなっていた。
父が騙されて会社が売却。
地位も金もなくなった僕は何にも残らなかったのだ。
残ったものは本当に、何も残らなかったという事実だけ…
だから、今の状況を僕は待ち望んでいた。
問答無用で、叱ってくれる存在。
そう、僕のことをお金以外で見てくれる存在というものに…
だから、気づけば先ほどのことを口にしていた。
宗次自身がおかしいということに気づいたのは、女性たちの表情を見てからだろう。
「あ、いや、これは…」
間違えたからといって、言いなおそうと宗次はする。
何か葛藤があったのだろうというのはわかっていた。
俺はため息をつく。
「あれだな。こういうことが初めてだったのか?」
「いや、それは…そうだな。どうしてわかったんだ?」
「あんな顔をしていればな…ミライもわかってただろ?」
「もちろん、それはそうなんだけど。本当に言葉にするとは思わないじゃない?」
「確かに、俺もそれは思うが、こういうのは気づけば出ちゃうもんなんだ。仕方ないことだろ」
「それはそうかもね。ただしが言えば説得力があるわね」
ミライにそう言われて、さすがの俺も悲しい気持ちになる。
俺なら、そんな失言を簡単にすると思われているというのだからだ。
まあ、少し前にしたからこそ、反論はできないが…
そんな関係のないことを考えていたときに、アイラは宗次にぶっきらぼうに声をかける。
「それで?どうしたいの?」
「僕は、叱られたい。いや、そういう相手が欲しかったということに今更ながらに気づいたってところだな」
「何?ただしはどういうことなのかわかるの?」
「俺に聞くなよ。言われてるのはアイラだろ?それに、アイラなら何かわかるんじゃないのか?」
「それは、その…」
アイラはそう口ごもる。
アイラ自身もセイクリッドで、悩んでいたところを、俺やミライに置いていかれるという経験をしたのだ。
だから、アイラであれば俺は何かいいアドバイスができるのじゃないのかと思ってそう言ったのだ。
アイラは、何かを考えた後に言う。
「そうね。叱られたいと考えてる人に何を言うかって考えても私はうまくわかんないけど…あえて言うんだったら、やりたいことをやれってことかな?」
「そんなことなのか?」
「何?悪い?」
「いや、悪くはないが…」
宗次にそんな言葉は届くのかという疑問があった。
やりたいことをやれという言葉に対して、俺が見て来た宗次はやりたいことをやっていたと思ったからだ。
大学の時に、好き勝手やっていたはずだったからだ。
だからこそ、その言葉を聞いても何も響かないと思っていた。
でも、宗次はその言葉を繰り返すかのようにして、言葉にする。
「やりたいこと、やりたいことか…」
「何かあったのか?」
「まあ、そうだな。僕がやりたかったのはゲームを作りたかった」
「ゲーム?」
「そうだ。この世界ではないものかもしれないけど、そこには僕が予想していない世界で広がっていて、それに何にだってなれるからな」
宗次はそう言って笑った。
その表情は、イケメンなのはまあムカつくことなので、スルーするとして、スッキリしていた。
それにだ…
思っていた宗次とはかけ離れたものだった。
お金に厳しく、お金をばら撒く。
それが宗次だと大学のときは思っていたからだ。
何でもお金があればできるものだと思って行動していた。
でも、本当に欲しかったものというのはそうじゃなかったということだろう。
宗次の願い事は聞いた。
俺はヤミの方を見て頷く。
ヤミも頷いた。
落ち着いた表情を見せる宗次に俺は手を差し出す。
「今更だけど、勇者のことがわかった気がする」
「いや、僕が間違っていただけというのに気が付かされた。いつだって僕がほしいものは、僕自身が手にしないといけないってことか…」
「それに気づいただけよかったってことじゃないのか?」
「はは、確かにな。僕が気づくのが遅かっただけだってことか…」
そう言葉にして、宗次は俺の手を握る。
「俺はただし」
「はは、僕は大金宗次…」
「ただし!」
そして、宗次は名前を俺に言って消えていた。
俺とヤミ以外は誰も気づかない。
そのはずだったのに、叫んだのはミライだった。
ただ、そのミライも伸ばした手が何かを掴むことはなく、頭に多くの情報が流れ込んだかのように倒れるのだった。
アイラ達は、何が起こったのかもわからずぽかんとしていた。




