335話
「さ、さすがに僕にはそういう趣味はないぞ!」
「いや、俺の言葉がミスだ」
体をかばうようにしながら言う宗次に、俺はすぐに言い訳を返す。
こういうときに限って、毎度のことながら言葉選びを間違えてしまうのは、もはや自分のセンスなのではと思ってしまうくらいだ。
いや、今はそんなことを考えるよりも話をしないといけないよな。
俺は女性たちの大丈夫なのかという表情を見ながらも、宗次に向き直る。
「話したいことは、これからのことについてだ」
「そんなことか?どうせ僕はここで死ぬとか牢屋に閉じ込めるとか、そのあたりのことをやるだけだろ?」
「どうだかな…それは、勇者自身のこれからで決まると思うぞ」
「はは、何を言ってるんだ?僕は結局どこでも成功しない人間だぞ?そんなやつに、声をかけたところで、何もならないってことを知らないのか?」
「そんなことは、そのときにならないとわからないだろ?」
「何を言ってるんだ?実際に、僕はそうなったからこうやって捕まっているんじゃないのか?」
そう言う宗次に、俺は仕方ないとばかりに足の拘束を解こうとする。
「ただし?」
「なんだ?」
「さすがに、足の拘束を取るのはやりすぎじゃないかしら…」
「そうか?別にこれだけの人数がいたら逃げられないし、いいと思うが…」
「そういう問題?これまでのことを考えてもするべきじゃないって言ってるんだけど」
「気持ちはわかるけどな。このままじゃ話しにくいのは確かだろ?」
「そうなんだけど…」
「ま、心配するな。何かあれば俺の右手にあるこいつを再度頭に被せるって脅せばいけるだろ?」
「普通の人なら確かにそうね…」
アイラは納得しながらも、残念そうに俺を見る。
おかしいな…
いいことを言ったはずなのに、どこかバカにされたように感じるのは気のせいだろうか?
いや、気にしても仕方ないな。
俺は、そのまま宗次の足についている拘束を解く。
宗次は逃げ出すということもなく、椅子に座ったままだ。
「逃げなくていいのか?」
「何を言ってるんだ?何をやってもうまくいかなかった僕に、そんなことは無理だろ?」
「卑屈だな…」
「卑屈?卑屈か…その通りだな!本当に、僕自身が笑えるよ!」
宗次はそう言って無理に笑おうとして、涙が頬を伝う。
「ちっ、僕に金が力があったらこんなことになるはずはなかったの、僕は僕は…」
何を言っても仕方ない。
こんな勇者から、話しを聞けるというのだろうか?
俺はそう思ってしまう。
それは、ヤミも同じだったようで、目が合うと少し首を振る。
やっぱり、無理そうだ。
俺はそう思って離れようとした。
ただ、そんな宗次に近づく人物が二人。
そのまま二人は、宗次の頬を勢いよくビンタする。
「は?」
「なんだか、無性に前の私を見ているみたいで、イラっとして」
「わかる。私もそう思ってた」
「何?バカにしてるの?」
「アイラのことはバカにしてないけど。世間知らずだっただけなのは知ってるけど」
「何?」
「なんだと思う?」
呆気にとられているうちに、頬を叩いた二人であるアイラとミライが睨み合う。
ビンタした相手をほったらかして起こった出来事に、さすがに俺はツッコミをいれる。
「いやいやいや、いろいろとおかしいだろ」
「何?こっちは忙しいんだけど」
「そうだよ。さっきは理不尽に怒りを向けられたようなものなんだから、こういうときにしっかりとやっておかないと」
二人はそんなことを言っているが、完全に宗次を置いてけぼりだった。
そんな宗次はというと、目を見開いて驚いている。
まあ、無理はない。
急にビンタされたのだ、そういう反応になるというのも無理はなかった。
ただ、驚きながらも宗次は言葉を発する。
「こういうことか…」
うん?
どういうことなんだ?
変な言葉を言っていないか?
俺はそう思って宗次を見たときには、両頬を抑えながらもうんうんと頷いている。
頬を叩いたせいで、おかしくなったのか?
そう思ってしまうくらいには、急な変わり方に、俺たち全員が驚く。
それは、喧嘩をしていた二人も例外ではなかった。
宗次は、ひとしきり頷いた後に、アイラ達の前に跪く。
何が起こるのか?
俺にはわからないが、ミライの表情が怒りから青い顔になっているところを見て、嫌な予感はしている。
そして、宗次は言うのだった。
「もっと僕を叱ってください!」
そんなバカなことを…
真剣に言う姿を見て、俺は思ったのだ。
なんだろう、よくないことが起きそうな気がすると…




