334話
勇者として、世界に召喚された宗次は、すぐに試練というものが行われていることを知った。
ただ、急な異世界だ。
自由に欲望を満たせと言われたところで、宗次は欲望を満たすすべというのをなんとなく理解していた。
それはお金だ。
最初に望んだものは金。
ただ、知っているお金というのは現実世界のものだ。
それが、異世界で使えるのかもわからないため、金と言っても紙のように価値があるのかわからないものを作るのはダメだというのはわかっていた。
だからこそ、金を作り出す。
見た目は、神に召喚される際に見せてもらったものだった。
それを頭で創造して作りだす。
神に自分自身のスキルを聞いていたから、簡単にこなせた。
チートみたいなスキルを手に入れた。
宗次はそう思っていた。
なんでもある程度はうまくいったからだ。
頭のねじがあるのかすらもわからない男、クロを除いて…
おかしなやつがいることは予想外の出来事ではあったが、それでも、スキルをうまく使うことができれば何でもできるということがわかった。
それがモンスターを作るということにもつながり、宗次は現実世界でやってしまったことを取り戻すかのようにこの世界では失敗しないようにしていた。
うまくいくはずだったのに、宗次は簡単に倒されてしまう。
下着を被った馬鹿げたやつに…
その後に感じたのは、暗闇だった。
ただ、暗闇は終わる。
「まぶしい…」
宗次はそう言葉にすると、すぐに目の上のあたりに手をかざす。
ただ、すぐに目の前にいた俺と目が合う。
「おおう…って、見たことがあるような顔だな…」
「そうか?俺は知らないな」
すぐにとぼけてみせる。
下着を被っていたことで、宗次自身を倒した相手だということをわかっていないのだろう。
それでも、宗次はすぐに思い出したかのように状況を理解して、動こうとする。
ただ、動かない。
逃げられるとさすがに話しもできなくなってしまうので、足については椅子に固定しているからだった。
でも、手を使えばスキルを使える。
そうなれば、逃げれるはずだった。
ただ、スキルも発動することはない。
「何?僕のスキルが発動しない?」
「みたいだな」
「何が起こっているんだ?」
「手に付けてるもののせいかもな」
「なんだと?」
宗次はそう言いながらも自分の手に目線を向ける。
手にはめられていたのは、ただの手袋だった。
「手袋?こんなもので僕のスキルが防げるっていうのか?」
「どうだろうな、試してみればいいだろう?スキルは発動できるのか?」
俺は宗次にそう言う。
宗次は手の方を忌々しくみている。
その表情で、スキルが発動できていないというのがわかった。
ただの手袋。
確かにそうだ。
でも、宗次のスキルを考えるとこれだけで防げるのではないのかというのは、なんとなくわかっていたし、実際に下着を取る前に試していたので、こうなることはわかっていた。
宗次のスキル。
ソウゾウスキルは確かに強いスキルだった。
それでも欠点がないわけじゃなかった。
それは、スキルを使うためには、手が露出していないといけないということだ。
これはどんなスキルでもある、スキルの発動条件というものだと思っている。
スキルは調べると出てくるものや、俺たちのように表示されないスキルなどがあるが、どれに対しても共通しているのは、発動するためには必要なことがあるということだろう。
魔法に関するものであれば、魔法を放つことでしかスキルが発動しない。
そんな感じで、スキルには発動条件というものがあると俺は思っている。
だから宗次にも試して、それが手を露出しているという条件だった。
それがわかったからこそ、手袋を被せることによってスキルを使えなくしたというものだ。
宗次も思っただろう、そんなことでと…
でも、すぐにスキルが発動できないということに気づいたようで、スキルを発動するためにあげていた手を下す。
「こんなことで、僕のスキルが発動できなくなるなんて…」
「ま、ちゃんとスキルのことは確認しておかないといけないってことだな」
「慢心していたというのか、この僕が…」
「どうだかな、俺にそんなことを言われてもな」
「確かにそうだ。敵である君たちに僕は何を言ったんだろうな」
「さあな」
「それで、僕はこれからどうなるんだ?」
「それについては、今から話して決めるつもりだ」
「はは、結局はこんなスキルを手に入れても、何もうまくいかなかったな」
「そうなのか?」
「当たり前だ」
宗次はそう言ってから項垂れるようにしてあげていた顔を下す。
この世界にやってきた後の宗次のことも知らないし、元の世界ですら大学生の時しか知らない相手だ。
俺にそんなことを言われたところで、何かを言えるわけじゃない。
ただ、大学生のときに会った宗次は、父親が社長であり、多くの金をもっていた。
良くも悪くも高校生のとき、お姉ちゃんのことで少しの注目を浴びていた俺は、そんな宗次に目の敵にされた。
金をもって目立っていくはずの宗次に対して、金ももたずに目立つことができている俺に怒りがあったのだろう。
それを知ったのも、かなり後になってからというのもあった。
ああ、そういえば…
そこで思い出した。
宗次のことは、大学の時にいた知り合いから、少し話しを聞いていたのだ。
確か…
「僕は、僕は…失敗を、後悔を取り戻すために来たはずなんだ…なのに、どうして…会社が倒産して、異世界に来てやったことは、何もない。はは、笑えるな…」
そんな言葉が聞こえる。
そうだ、確か父親の会社が倒産したというのを聞いた気がする。
宗次がこの世界に来て、願ったこと。
それがわかった気がする。
でも、俺が聞きたいのはそこじゃない。
項垂れる宗次に俺は話しかける。
「なあ、そんなことよりいいことを考えないか?」
「はあ?」
まあ、いつものように言葉選びには失敗してしまうのだが…




