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魔法使いになれなかった俺はヘンタイスキルを手に入れた  作者: 美海秋
ヘンタイと旅立つ人たち

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329話

疑問は魔王というモンスターと言葉を交わせるというところだった。

普通であれば、モンスターと言葉を交わすのが必要ないことだからだ。

それなのに言葉を交わせるということは、会話をすることを前提としているということだ。

最初から敵対させる相手と会話をさせるというのは、正直なところ大丈夫なのかと心配してしまうことではあるが、魔王と戦うということ自体が間違っているのを気づかせるためにあるのではと少し考える。

ただ、それだけだと確信と呼べるのには弱い。

そもそも魔王であるヤミが弱くて、普通の人と最初からその違いをわからなくして、勇者同士に競わせるために同じ言葉を話せるということであれば、わからなくはないが、それだけであれば全員が同じでなくてもいい。

例えば、魔王が町に入るだけであれば、国同士の言葉が違ってもいい。

魔王が使う言葉と、最初に魔王が行く国の言葉が同じであればいいからだ。

だというのに、言葉が同じだということには、会話が重要だというのか?

でも、誰と話すのが正解なんだ?

俺が悩んでいると、雷の勇者が口を開く。


「ただしさん。どうですか?何か思いつきますか?」

「いや、あんまりいい案が思い浮かばないな」

「そうですよね。正直俺は、同じ言葉を話せるから何か理由があるのかというのはわかりませんね」

「俺も同じ言葉が話せるからといって、何かが変わるとは正直思っていないんだよな」

「ただしさんがそうなら、俺たちには余計に理由がわかりませんね」

「そんなことを俺に言って褒められても、別に俺がすごいってわけじゃないからな」

「そうなんでしょうか?」

「そうなんだよ」


そう、毎回のように慕ってくれているのはいいだが、過大評価のしすぎだと思ってしまう。

俺にわからないことでも、誰かがわかるということは多くあると思っている。

だって、俺の考えというのは、結局のところ一人で考えたことにすぎない。

この世界のことを完璧にわかっているような人物ならともかく、この世界に急にやってきた俺のような人物では難しいのではないのかと思ってしまう。

まあ、実際に答えが出ていないということはそれであっているのだろう。


「結局答えはでたの?」

「出ていないな…」


アイラにそう言われて、俺は素直にそう答える。

実際答えはわからないのだから、そうなのだ。

わかったこともあれば、新しい疑問も増えてしまった。

ただ、会って間違いはなかったということだけはわかった。


「ただしさん、それでは俺は失礼していいですか?」

「ああ…長い時間突き合わせて悪かったな」

「いえ、勇者としてこれから何をするのかがわからなくはなっていたので、俺こそ話しができてよかったです」

「そうなのか?」

「はい。俺の願いは変わりましたから…」

「そうなのか?」

「はい、ただしさんも、ここにいるほとんどの人が、俺がやってきたことを知っていますよね」

「まあな」

「そうやって好き勝手して、俺が叶えたかった願いというのは、うまくいっていたころに戻るというものでした」

「そうなのか?」

「はい」


雷の勇者はそう言って頷く。

正直なところは、なんとなくわかってはいた。

雷の勇者にも、そしてその体を乗っ取った神にそのことをなんとなく聞いていたからだった。

ただ、今でもその願いをもっていたと思っていた俺は変わっていることに驚いていたのだ。

だからこそ、勇者に聞いてみる。


「どんな願いになったんだ?」

「俺の今の願いは、この二人と楽しく過ごせるようにするということです」

「なんか、普通だな」

「はい。普通がいいということに気づきましたから」

「そうなのか?」

「はい」


思ったよりも確実に勇者の願いは普通のものだった。

というよりも、それだと思うのはこの世界から出て行かないということになるのではないのか?

俺は思わず雷の勇者の隣にいる二人を見てから、再度雷の勇者を見る。

俺の視線で、なんとなく雷の勇者は言いたいことがわかったのだろう。

照れ笑いを浮かべる。


「確かに元の世界に戻りたい。あの前に戻りたいとも思います。でも、あれがなければ俺はこの世界に来ることはありませんでした」

「俺も同じだな」

「そうですよね。だから、俺はこの世界に来たのは必然だと思っています」

「必然か…」

「はい…だからです、俺はこの世界で何かをやり遂げたいと思っています。それが簡単なことでも、他の人から見ればおかしいと言われるようなことでも…」

「そうか…」

「はい」


雷の勇者は力強く頷く。

成功体験といえばいいのだろうか?

それは必要なことだ。

元の世界で、大きな失敗をしてどん底へと落ちてしまい、その後どう振る舞っていいのかわからなくて、必死で強い自分というものを見せるために好き勝手してしまう。

よくあるダメな勇者の例だ。

それが、変われば、こんなに変わるというのがわかった。

だとすれば、ここから雷の勇者がやることというのは隣にいる二人の女性たちの願いというものを叶えるということなのだろう。


「でも、その願いってなんなんだ?」

「えっと、それは二人に家を建ててあげるというものですね」

「まじかよ…」

「はい、二人にはもう帰る場所がありませんから…」


雷の勇者はそう言って優しく笑う。

言われた彼女たちも嬉しそうだ。

急な惚気話に、何かを言ってやろうとも思うが、さすがにここで何かを言ってしまえばそれは嫉妬以外の何物でもないということはさすがの俺でもわかっていた。

だから、俺も引きつった笑顔を浮かべる。

でも、すぐに俺は思う。


「でも、家を建てたら、そこで終わりじゃないのか?」

「いえ、そこは俺も少し考えています。孤児院のようなものをやりたいと思っています」

「まじかよ。想像ができないな」

「あはは…そうですよね」


あの好き勝手していたときのことがあるから、そんなことを言うとは全く思っていなかった。

となると、必要になるものはお金ということだろう。


「じゃあ、依頼とかこなしてお金を貯めるのが今の目標なのか?」

「はい。そうなりますね」

「そうか、頑張らないとな」

「はい」


雷の勇者は俺にそう言われて嬉しそうだ。

まあ、普通に考えて、殺したと気づいているのかはわからないが、そんな相手に言われているのだから、どうかとも思うのだが…

ただ、これで雷の勇者との話しはできた。

次の勇者と話しをしないといけない。

そう思ったときだった。

雷の勇者は、宿屋から出るタイミングで声をかける。


「ただしさん。それでは」

「ああ、気をつけろ」

「はい。そういえば…」

「なんだ?」

「いえ、俺の名前をそういえば、ちゃんと言ってなかったと思いまして」

「そういえば、そうだったな」


今更ながらにそのことに気づく。

雷の勇者と毎回心の中で呼んでいたことで、それを忘れていた。

今後の野望を聞いたというのに名前を聞いていないというのもおかしい話しだと思った俺は、言葉を待つ。

雷の勇者は、言う。


「俺の元の名前は高橋雷(たかはしらい)…」

「は?」


その言葉を聞いた途端に、俺の目の前から、雷の勇者…

高橋雷は消えたのだった。


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