322話
「ぐは…」
「ただし?さっき私言ったよね?」
「いや、違うんだ。ちょっと口から思わず出ただけで…」
俺は再度後悔した。
アイラに一撃をもらってしまった。
まあ、確かに変なことを口走れば、そうなってしまうのも仕方ない。
でも、今回については当たりだと思った。
どうしてそんなことがわかるのか?
それは、俺がヤミの方を見たときに、すぐに目を逸らされたからだった。
こういう反応をするってことは、確実に何かがあるからだ。
だからこそ、ここは詰めるしかない。
「ヤミはどう思う?」
「何がじゃ?」
「今の話しをだ」
「それはじゃな…なんというか、あり得ない話しじゃないとは思うのじゃ」
「何がだ?」
「だから、わらわもおぬしらと同じような変なスキルがあるということのじゃ」
ただ、思ったよりも簡単にヤミはそれを認める。
「なんでじゃ、わらわは魔王のはずなのじゃ…それなのにスキルがあるというのもおかしいのじゃ」
「確かにおかしいのかもな」
「なんなのじゃ、おぬしは何かわかるのかじゃ」
「いや、ただおかしいところがありすぎたことを思ってな」
「それはなんなのじゃ?」
「魔族とモンスターの存在だ」
「どういうことなのじゃ?」
「いや、ヤミはおかしいと思わないか?魔王が復活したんだぞ?」
「そうじゃな…」
ヤミは今の言葉では気づかなかった。
でも、シバルはすぐにハッとして俺を見る。
「ただしは、魔王が復活したのに、魔族やモンスターたちが集まっていないことを言ってるのですか?」
「ああ、そういうことだ。普通はそんなことがあるのか?」
「魔王が復活したということ自体がボクたちも初めて経験することなので、わからないのですが…」
「それでも、普通なら魔王を復活させるのが魔族たちのやるべきことだと思わないか?」
「確かにそれは思いますね」
「でも、ただし…それよりもおかしいこともあるんじゃないの?」
「アイラは気づいたのか?」
「まあね。私も今の話しで思い返したってわけだからね。魔族とモンスターがそもそも少ないってことに」
「やっぱり、そう思うよな…」
「ふふふ、だったらただしはこういうことを言いたいのかしら、わたくしたちが戦う相手は、そもそもモンスターや魔族ではなくて、人同士なのではないのかしらって」
「ああ…バーバルの言う通りだ」
そうなのだ。
弱すぎる魔王と数が少なすぎる魔王軍。
各地に召喚される勇者。
そのことを考えると、この世界の本当の姿というのは、多くの勇者を仲間にして人同士が争うというものだったと考えてしまう。
ただ、そこで干渉したのが俺という存在で、その俺を転生させたスターだ。
これは、スターに真実を聞いてみるしかないな。
俺がそう考えていたときに、ヤミは俺を見て言う。
「結局、おぬしはわらわに何が言いたいのじゃ?」
「決まってるだろ?神様に一泡吹かせたいんだよ」
「なんじゃその適当な感じは…」
「仕方ないだろ、俺だって今なんとなく神様とやらがやらせたかったことがわかったんだからな」
「人同士で争わせるというやつじゃな」
「そうだ。だから、その神とやらの計画を壊してみたいって思うだろ?」
「なんじゃ、おぬしがやりたいことはそれなのじゃな」
「ああ、それがヤミを救うことにもなるしな」
「なんでじゃ?」
「なんでじゃって、神とやらの計画通りなら、ヤミのことを倒さないといけなくなるけど、いいのか?」
「それは、よくないのじゃ」
「ということだ、今からのやるべきことは決まったな」
そう元気よく言うが、アイラは俺のことをどこか呆れた顔で見る。
「それで?どうやるのか決まってるの?」
「いや、わからん…」
「やっぱりそんなところだと思った」
「やっぱりって言うなよな。いい案ではあっただろ?」
「確かにそうなんだけど、そうやって毎回行き当たりばったりになってるでしょ」
「それについては否定できないな」
アイラに言われた通り、神の計画を否定するというのは、全員が納得することではあるけれど、どうやったらそれができるのかがわからない。
神を否定するためのことは今のところうまくいっている。
例えば、人同士が争うことをなんとかしているとかだ。
そういえば、今思うとついさっきも、たぶん神たちが予想していなかったことが起こったよな。
勇者同士が手を取り合って戦う。
それも、他の人たちを守るという理由で…
勇者という存在なら当たり前だろと思う内容だろうけれど、この世界の勇者は七人いる。
それも、魔王を倒すことで、願いが叶えられるというのに、共闘していたからだ。
となるとだ…
神に一泡吹かせるために必要なことに関係しそうなことは勇者ということになる。
正解がわからない以上は、ほとんどが憶測でしかないが、勇者と話すことができれば、それも変わるような気もする。
俺がそう考えいたところで、背中に衝撃が走る。
「アイラ、痛いな…」
「だって、何か考えこんでるんだもん」
「いや、考えないと答えはでないだろ?」
「それなら、ヤミの答えもさっさとだしなさいよ」
「あ…」
「ただし?もしかして忘れてた?」
「そんなことはないぞ…」
アイラに言われることで、そのことを思い出した。
最初に言っていたこと、ヤミのスキルも俺たちのように何か特別なもの。
まあ、それが露出というものであったとしたらだ…
「うん、脱げばうまくいくような気がするな!がは…」
「だから、何を言ってるのよ」
再度殴られながらも、俺たちはこれからのことを考える。
神がこの世界をどうしたいのかはわからないが、そんな企みをさせないためにも…
変なスキルを持った俺たちはその場を後にすることになった。
下着を装備していない俺は、ヤミのことをおんぶする。
「こんなことをされるとは、恥ずかしいのじゃ…」
「仕方ないだろ、お姫様抱っことかをかっこよくやりたいけど、ヘンタイスキルが発動してないと長時間はキツイんだ」
「なんじゃ、それはわらわが重いということを言いたいのかの?」
「そんなことはないけどな、むしろドラゴンの姿になるだけであれだけの強烈な攻撃ができることに驚いてるくらいだからな」
「なんじゃそれは…」
「そのまんまの意味だ。ドラゴンの姿にならない方が可愛いんだから、そのままでいてくれってことだ」
「か、可愛いじゃと!」
「いや、可愛いだろ?違うのか?」
「急に言われるとさすがに戸惑うのじゃ」
言われなれていない言葉に、さすがのヤミも戸惑っているみたいだった。
だからだろう、ヤミはらしくない言葉をいう。
「悪かったのじゃ」
「どうしたんだ?」
「ほら、おぬしのことを攻撃してしまったのじゃから、謝っておるのじゃ」
「ああ、そのことか…」
「な、なんなのじゃ、そんなこととは…これでも勇気を出して言っておるというのに…」
「うん?」
「なんでもないのじゃ」
言葉の後半が聞こえなくて、聞きなおしたが、そう言われてしまう。
謝ってきたり、怒ったりと忙しいやつだ。
ただ、言えることはある。
「まあ、防げなかった俺が悪いから気にするなよな」
「なんじゃ、結局かっこつけるのじゃな」
「今の俺かっこよかったのか?」
「はあ、自覚がないからこそおぬしは…」
「何か言ったか?」
「ああ、もう黙るのじゃ」
再度俺は聞きなおしていた、
ただ、ヤミは黙れと言う。
そして、次に見えたのは、ヤミの顔だった。
唇に触れる柔らかい感触に戸惑っていると、ヤミは言う。
「わらわを運ぶのだから、ちょっとしたご、ご褒美なのじゃ」
そんなことを…




