309話
魔力を集中させる。
これをなんとか形にできれば、武器に魔法を上乗せすることができるはずだった。
そうすれば、対抗することができるはずだ。
できないと考えることは簡単なことで、できると考えることは難しいこと。
それはできると言えることが難しいことだからというのを、メイはわかっていた。
「できるって言葉を簡単に口にはできませんでしたが、ここはわたし自身に言い聞かせます。わたしはできます。できないとダメですから!」
そう、できないとは口にしない。
それをしてしまえば、この目の前にいるドラゴンに、どうやっても太刀打ちできないと思ったからだった。
ドラゴンは、メイたちが何をしなくても、その余りある魔力を解放するかのようにして、ドラゴンブレスを放ってくる。
ドラゴンブレスを防ぐのは、風を纏った勇者だ。
金色に輝く風によって、ドラゴンブレスを防いでいる。
ただ、ドラゴンは、あふれる魔力によってドラゴンブレスが途切れることはない。
いくつか防げなくなったドラゴンブレスは、ザンによって斬られたり、ジークのホーリーソードによって防いだりしているが、攻撃が届かなければ、意味はない。
それをわかっているからこそ、メイは魔力を練る。
武器に魔法を乗せるイメージ。
苦無と水の苦無を一体化させるために…
「水よ、我の手に相手を切り裂く剣を作りたまえ、ウォーターブレイド」
魔法を唱える。
「く…」
集中した。
それでも成功しない。
鋭くしすぎた水が逆に手を傷つける。
そのタイミングだった。
「いける…」
そんな声が雷の勇者から聞こえる。
雷の勇者は、その言葉の通り、雷を纏っている。
これまでとは違う雰囲気に驚きながらも、雷の勇者は剣を弓矢のように引き絞る。
それは剣が矢となって弓でも引くかのように…
「雷よ、その力で相手を貫く雷の矢となれ、サンダーアロー」
雷でできた弓矢。
それは剣と一体化していた。
そのまま雷の勇者は引き絞って放つ。
バチバチという音とともにそれは飛んでいく。
放たれたドラゴンブレスを貫通して、真っすぐにドラゴンに向かっていく。
ただ、ドラゴンはそれすらも跳ね返すためのものをもっていた。
ドラゴンは翼を広げると、後ろに飛びながらその尻尾を振ってくる。
ドラゴンテイル。
それは、魔力で強化された尻尾だった。
ガンという音とともに、雷の矢とドラゴンテイルは当たる。
魔力同士がぶつかるということもあって、魔力風というべきなのか、魔力のぶつかりあいでそんなものが生じる。
「なんという魔力のぶつかり合いだよ」
「勇者とドラゴンとはねえ、伝説の存在同士ですからねえ」
「そんなことを呑気に言ってないで、次の手をうたないといけないでしょ?」
「ですが、わたしの正義でもどうしようもないのですが…」
「おい、あれに攻撃が通せるやつはいないのかよ」
「今のでも、ダメですか…」
結局雷の矢は、完全に防がれてしまった。
確かに強力だった、雷の矢ではあったが、ドラゴンもその魔力を尻尾に集中することで防いでしまった。
そして、ドラゴンの魔力は、すぐに回復する。
いや、吹き出るようにして体から溢れている。
今ので無理なら、どうやって攻撃をすればと誰もが思っていた。
ただ、メイは雷の勇者が使った雷の矢で、どうすれば苦無に魔法を乗せられるかがわかった。
両手の苦無すべてでやろうとするからダメだったのだ。
魔法を上乗せするのもイメージが大事なのだから、右手に持った苦無に左手で水の苦無を合体させる。
「水よ、我の手に相手を切り裂く剣を作りたまえ、ウォーターブレイド」
そして、成功する。
完全にドラゴンが魔力をあふれ出す前に、メイはそれを投げた。
ひゅっと音がして、それはドラゴンに向かって飛んでいく。
ドラゴンの鱗に当たるとさらに、魔力を貫通する。
始めての傷をつけた。
「さすがは、党首ということですねえ」
「さすがお姉ちゃん」
それに感心するピエロとレメだった。
ただ、すぐにドラゴンは翼をはためかせる。
空に逃げたと、全員は思った。
メイの攻撃が通ったのだから、ここで畳みかければとここにいた誰もが思った。
ただ、ドラゴンから聞こえたのは悲痛な声だった。
「おぬしら、逃げるのじゃ…」
ヤミが振り絞ってなんとか出した声。
それと同時に、ドラゴンからさらに魔力が膨れ上がる。
まるで、これまでのことが嘘だったかのような魔力と、そして、魔力が膨れ上がると同時にドラゴンから出てきたのは、無数の魔力の玉。
濃密なそれは、黒い。
「あああああああギャギャアアアアアアアアアア」
ヤミの声から、ドラゴンの絶叫へと変わる。
「ちっ、これまではただのお遊びってことかよ」
「逃げてくれ!」
すぐに構える風の勇者と、雷の勇者だったが、それを打ち砕くかのように、黒い魔力の塊は放たれる。
まるで意志を持つかのように各々に向けて…
それぞれが魔力を、スキルを使ってなんとか防ごうとする。
メイも、先ほどと同じように魔法を苦無に乗せると、黒い魔力の玉をそれで斬る。
ただ、そんな簡単なものでもなかった。
多すぎる魔力の玉は、確実にメイの体を傷つける。
まるでわかっているかのように少しずつ削っていく。
それでも、なんとか防ぐことはできた。
でも、そんなメイたちをあざ笑うかのようにドラゴンは次の攻撃を用意している。
口から黒い魔力の塊がでている。
「ゴバァァ」
そしてそれは、口から放たれる。
これまでのものとは完全に違うドラゴンブレス。
ドラゴンの見た目と同じ色をした魔力の塊は、濃密すぎた。
ただ、それを見て、風の勇者は笑う。
「まじかよ…こんなのを見ると、防ぐしかねえよな」
「俺もやる」
その隣には、雷の勇者が立っている。
雷の勇者の後ろには、二人の女性が倒れていて、これを防がないわけにはいかないということなのだろう。
風と雷を纏った二人の勇者はドラゴンブレスに対して魔法を放つ。
「金色の風よ、吹き荒れろ、吹き荒れろ、そしてすべてを断絶する風の盾を作りだせ、ゴールドウィンドシールド」
「雷よ、鳴り響け、鳴り響け、そして目の前のものを破壊する稲妻となれ、サンダーボルト」
ドラゴンブレスに対して、天空より落雷が当たる。
少し弱らせることはできたのかもしれないが、ドラゴンブレスは止まらない。
次に風の城壁にぶつかる。
「うおおおおおお!」
風の勇者が作った城壁によって、なんとか防ぐことはできた。
ただ、それでも相手の攻撃はやまない。
次にドラゴンはまた無数の黒い塊を展開させている。
そして、それは飛んでくる。
今度はわたしたちが…
そう思って、メイなどは前に出るが、飛んでくる無数の黒い塊を完璧に防げることはできない。
「ううううう…」
「くそが…」
「…」
結局立っているのはメイだけになってしまう。
ただ、ドラゴンは再度口を広げている。
ドラゴンブレスをまた放つべく、魔力をためている。
ああ、やられる。
全員がそう思ったときだった。
ゲートが開いたのは…




