306話
「動きを止めてくれた人に感謝しないといけませんね」
「それは、確かにそうですねえ。わたくしめたちでは追いつけるかわかりませんでしたからねえ」
「ワシの斬撃が届けばなんとかなったがな」
「無理なものは、無理じゃないの?」
「いえ、信じれば大丈夫です。わたしの正義がそう言っています」
そこから現れたのは、ラグナロクのメンバーたちだった。
違うのは、エルがこの場にいなくて、変わりにレメがいるところだろうか?
それは、ピエロも思っていたようで、レメに言う。
「うーん、どうしてあなたがここにいるんですかねえ?」
「それはいいでしょ?レメだって、そろそろラグナロクのメンバーとして活躍したい」
「そうは言われましてもねえ。レメはラグナロクのメンバーじゃありませんからねえ」
「もうなったの!今なったの!」
「そういうものなんですかねえ」
自信満々に言う、レメにピエロはやれやれといった感じで首を振る。
それを見ていたザンは驚いたように言う。
「普段はからかうお前も、こういうところは負けるんだな」
その言葉に、メイはクスっと笑いながらも、敵を見る。
真っ黒な大きなドラゴン。
そして、それに対抗しているのは、雷を使っていた勇者と、戦闘が大好きだった勇者。
ドラゴンの方を向いていることを考えると、戦っていたのは、この二人だということがわかる。
メイたちはそれぞれの武器を構える。
それを見た戦闘が大好きだった勇者。
今は風を纏っているので、風の勇者はメイたちに声をかける。
「あのドラゴンに攻撃を与えることができるか?」
「防御はどうするのでしょうか?」
「それは、オレがやる!」
「信用しても大丈夫なのでしょうか?」
さすがに確証をもてなくて声をかけると、魔力を高めている雷の勇者が言う。
「ええ、これまでの攻撃をほぼすべて防いでいましたから…」
この雷の勇者については、どこまで信用していいのかわからなかったが、それでもただしにやられてから改心してことをしているということをラグナロクのメンバーは知っている。
その言葉に信用するしかないと考えたメイたちはドラゴンになってしまったヤミに向き直る。
感じる圧はかなりのものだというのは、全員が理解している。
「行きますよ」
「まずはワシが行く」
その言葉とともに、ザンが先行する。
ドラゴンはその爪を振るう。
「うおおおおおお」
ザンの振るった刀が爪と衝突して弾かれる。
当たり前のようにザンスキルで斬れないほどの濃密な魔力を纏わせているドラゴンの爪に驚きながらも、攻撃をする。
持っていた苦無に魔法をかける。
これまでであれば、武器に水魔法を上乗せする、ウォーターウエポンを使っていた。
でも、あの戦いで周りの戦いを見ていたメイは新しい魔法の使い方を思いついていた。
「水よ、我の手に相手を切り裂く剣を作りたまえ、ウォーターブレイド」
魔法を唱える。
武器に魔力を上乗せる、ウエポンではなくて、武器に魔法そのものを上乗せするはずのブレイドで、苦無に水の苦無を纏わせる。
といっても、完成したのは不格好なものであり、半分も成功していない。
「簡単にできることではないってことですね」
そう言葉にしながら、メイは苦無をドラゴンに向けて投げる。
ただ、当たり前のことだけれど、うまくいっていない魔法は魔力を帯びたドラゴンの鱗に簡単にはじかれてしまう。
生半可な攻撃じゃダメージにすらならないということがメイたちにもすぐわかる。
だからといって、この場で攻撃として一番の威力をもっているのはザンだろう。
ザンスキルを使うことができれば、あのドラゴンの鱗にダメージを与えることができるかもしれないとメイは考えるが、ただ、ザンの攻撃に合わせるように爪で攻撃されたことを見るに、ヤミがドラゴンとしてどういう状況でこれになっているのかわからない以上、ドラゴンにこちらの手の内がバレている可能性が高いと思ってしまう。
「だったら、やっぱりわたしたちがやるしかないということですね」
メイのその言葉のタイミングで隣にジークが来る。
手にはしっかりと剣が握られていた。
「ここでの正義は、このドラゴンを食い止めること…今の正義は、わたしの思いと、周りの人が思っているものが完全に一致している。だからこそ、この正義を実行しないといけない」
ジークの体には、これまで感じたことのない魔力が流れていた。
セイギスキルが発動したジークは剣に魔力を込める。
「騎士剣術、奥義、ホーリーソード」
その言葉とともに、光の剣がドラゴンに向かって飛んでいく。
濃密な魔力。
ドラゴンもそれに気づいたようで、翼を羽ばたかせる。
そして、それを迎撃するようにして、ドラゴンはブレスを放つ。
ゴオという音とともに、ドラゴンからはブレスが放たれて、ホーリーソードと当たる。
二つは当たって相殺される。
それに驚いたのは、雷の勇者だった。
「やっぱり、魔力が上がっているのか?」
驚きとも、とれる言葉だったが、その後に雷の勇者は集中するかのようにして目を閉じる。
それを横目で見ながらも、ラグナロクのメンバーもすぐに手詰まりだということがわかってしまった。
それだけ相手が強い。
ほんのさっきまで戦っていた神のように、倒せないと思うような相手。
でも、そこでメイは考える。
ここにあの人がいたならと…
そして、笑う。
「ふふ、いなくても誰かの背中を押してくれるなんて、さすがのヘンタイさんということでしょうか?」
メイは笑いながらも、先ほどうまくいかなかった苦無に魔法を乗せるために集中するのだった。




