299話
ラグナロクメンバーによる、五人の攻撃はうまくいっていない。
それは、ムコウカスキルによるものが大きい。
さらには、ザンスキルによって、ある程度の攻撃も斬ってしまうということができるのが、さらに強さを増している。
「ちぃ、ワシのスキルを…」
「くくく、わかりやすいスキルはこういうことが起こるので大変ですねえ」
「仕方ないだろ、強力なものなんだからな」
「確かにそうですねえ。でも悪用されていれば、意味ありませんからねえ」
「痛いところをつくなあ」
「仕方ありませんよねえ。エルもそう思うでしょう?」
「ごめん、あたいのもパクられてる」
「なるほど、それはイルの頭がよかったと思うべきですかねえ」
「おいおい、ワシのときと対応がまるっきり違うじゃないかよ」
「仕方ありませんねえ。どう考えても、エルの方がスキルが複雑に思えたのでねえ」
「確かにそうなのかもしれねえが、もう少し言葉というものを選べよ」
「仕方ありませんねえ。わたくしめはそういうものが苦手ですからねえ」
三人が仲良さそうにそう会話をする。
それに対して、メイさんと、ジークはやれやれという感じで三人を見ている。
なんというべきか、しっかりと役割分担ができているんだなと思ってしまう。
ただ、五人がいても、その攻撃はほとんどが魔力によるもののせいで、男には防がれてしまっている。
このままではキツイと思っていたときだった。
メイさんが、ポケットからあるものを取り出す。
それを見ても、ピエロ以外はぽかんとしていたが、ピエロだけは、それが何かがわかったようで驚いてメイさんに声をかける。
「エンド、それを使うということは…」
「ええ、そうよ。秘密兵器をこんなタイミングでは確かに使いたくはないけれど。相手は神と同化したような存在なのだから、これが本当に使えるのかという実験にもなると思いますよ」
「確かにそうなのですがねえ」
どこか不安そうなピエロと違い、メイさんが自信をもって握っている武器は、ただの金属の棒に見える。
何か違うところがあるというのだろうか?
それはどうやら相手も同じだったようだ。
男…
いい加減に面倒くさくなってきたので、イル神とでもしておこう。
イル神はそれを見て、不思議そうにしている。
「はは、なんだろうな。その武器は、我でも見たことがないものだな」
「だったら、素直に攻撃をもらってはいただけないでしょうか?」
「嫌だと言ったら、どうする?」
「だったら、わたしが攻撃を当てるだけです。援護していただけますか?」
「仕方ありませんねえ」
「当たり前だ」
「正義のためなら」
「あたいには、そんなに期待すんなよ」
四人の言葉を聞いて、メイさんはイル神に向かっていく。
「どういうものかわからない。でも、攻撃をさせなければよいでしょ?」
ただ、イル神は落ち着いて分身を作り出す。
ブンシンスキル。
力が分散して弱くなるはずだ。
これはチャンスだと思いながらも、俺は立ち上がっていた。
「ただし?」
「アイラ、この攻撃が終わる前に、俺も行く!」
「でも傷口が!」
「大丈夫だ!俺にはこれがあるからな」
そう言って、俺は頭にかぶっているパンツを指さす。
格好よく決まったはずなのに、アイラはその頭を叩いた。
「いて…」
「叩かれるって、わざとやってるでしょ!」
「わざとではないからな」
「だったら、どうしてほかの人のパンツを被って自慢げにしているのよ!」
「仕方ないだろ、今はこれしかないんだからな」
俺がそう言ったときに、アイラの後ろから二つのパンツが差し出される。
「ただし、ボクも一緒に行きます。あとはこれを使ってください」
「ふふふ、ただし。わたくしのももっていきなさい。後ろは任せてね」
「シバル、バーバル…」
俺は有難く二人のパンツを受け取った。
「もう、バカバカ!」
「いて…」
「私のももっていきなさいよ!」
叩かれながらも、アイラからパンツを受け取った。
三つのパンツを頭にうまく装着する。
シバルの実は白色のパンツといい、バーバルの少し透けた赤いパンツ、そして恥ずかしながらも黒のレースがついたパンツのアイラ。
最初から被っていたエメのものを含めると、四つのパンツにはしっかりと個性が詰まっており、そんな個性いっぱいのパンツを被った俺は、すべてのヘンタイを満たしているのかもしれない。
「行くぞ!」
「その恰好で格好つけなくてもいいわよ」
「いえ、どんな格好でも、ただしはただしですよ」
「そうよね。良くも悪くも、ただしのそこがいいところよね」
そんなことを言われながらも、俺は体に力を込める。
スキルのせいだろうか、しっかりと治っていない傷口から血がにじんでいるが、そんなことは気にしていられない。
タイミングを見計らっているときだった、背中をゆっくりと押される。
「ただしさん、気を付けて」
「ああ、エメ。ありがとうな」
魔法で未来を視たのだろう、エメに背中を押された俺はイル神に向かっていく。
アイラとシバルは俺の少し後ろをついてくる。
そのタイミングで、ラグナロクの攻撃は開始される。
「はああああああ」
「ザンスキルは、我も使えますよ」
「くそ、手なんかで防ぎやがって」
ザンの攻撃は、分身の一体によって防がれる。
「聖騎士剣術、奥義、ホーリーソード」
「無駄ですよ!」
「わたしの正義は、負けません。今度こそ!」
「だから、魔力は意味ないですよ」
ジークの光の剣は、ムコウカスキルによって消される。
「エル!」
「わかってるっての!」
「さあ、種も仕掛けもありますよ」
ピエロはその言葉とともに、手に一つの爆弾のようなものを一つだしたと思ったら、手を下に向ける。
すると、手から大量の爆弾が出てくる。
相変わらず、見ても種も仕掛けもわからない。
ただ、それは地面に作りだされた、複数のゲートに吸い込まれていく。
そして、分身しているイル神たちにゲートが開いて攻撃をしようとするはずだった。
「くそ、ゲートが消しやがるのかよ」
「いえ、あれはゲートの下にすぐ別のゲートを作っていますねえ」
「ちっ、あたいのゲートが意味ないってことには変わりないでしょ!」
「そうですねえ」
「少しは庇うってことを知らねえのかよ」
「本当のことですから、仕方ありませんねえ」
そう、ゲートから爆弾が落ちる前に違うゲートに爆弾たちは吸い込まれていく。
これではいくらゲートに爆弾を吸い込ませたところで意味がないだろう。
ただ、そうしながらもメイさんは近づいていく。
「メイドとして、ラグナロクをまとめるものとして、後片付けはしないといけません」
「やってみたらいい!」
「やあああああああ!」
メイさんはその武器をイル神に向かって叩きつける。
決まった。
メイさんはそう思ったはずだった。
ただ、俺は視えていた。
「なるほど、魔力の反比例武器ですか」
「そんな!」
メイさんは驚いている。
それもそのはずだった。
その武器は相手が魔力を多く使っているほど、相手にダメージを与えられるというものだというのは、攻撃が当たる前に視えていてわかった。
でも、イル神は余裕そうだ。
それもそのはずだった。
イル神は当たるその一瞬前に、攻撃が当たるところからすべての魔力を取り除いていた。
攻撃を防いだ腕の部分にだけ魔力が通っていない。
まさに神業と呼べるものだった。
それを自慢気にイル神は言う。
「神でも、一部だけが使える、魔力操作ですよ」
「そんな、そんなことが!」
「はは、だから神には無駄だと…」
「だったら、俺の拳は防げるか?」
「何?」
「おら!」
「がは…」
イル神は、ここまでのことがうまくいっていた。
だからこそ、油断をした。
俺はその隙に拳を叩き込んだ。
そして、吹っ飛ぶイル神は驚いたように言う。
「なるほど、油断も何もないということか」
「ああ、だから俺の全力を行くぞ!」
「ただし、私たちだからね!」
「はい、そうですね、アイラ様」
「ふふふ、楽しくなってきたわね」
そして、俺たちはこの戦いを終わらせるべく、イル神に向かっていくのだった。




