293話
イルとアイラたちが戦う前に、ただし側でも動きはあった。
「どういうことなのか、説明をしてくれるのですか?」
「僕が言わないといけないということですか?」
「当たり前でしょう、こんなわたしたちすらも裏切るような行為を、あなたがしたのですから!」
「裏切る行為ですか、そう思いますか?」
「ええ、勝手な行動をするのは許しません!」
「そうして、すべてを僕たちに話さないのがいいとおっしゃるのですか?」
「それは、だって…」
二人が話すを俺とエメは眺める。
うーん、せっかく俺が格好良く、お前のことはわかっていたぜと決めるつもりが、先にメイさんが話し始めてしまったせいで、タイミングを逃してしまった。
ただ、二人が言いたいこともなんとなくわかる。
過去に何かがあったのだろう。
俺はまあ、女性が苦手になった理由が過去にあっただけで、それ以上もそれ以下でもないのに対して、二人にも何かあるのだろうというのはわかる。
だから、メイさんが唇をかみしめながらも…
「それでも、わたしは、わたしは…」
そんなことを言ってしまうのも気持ちだけならわかる。
といってもだ、このまま俺を無視されても、それはそれで困る。
だって、腕が痛むからな。
そう、イルがここに来たタイミングで俺の腕は多少の負傷を負った。
それによって、慌てて寄ってきてくれたエメによって簡単な処置はしてもらったが、回復魔法でも使ってもらわないと完治は難しいだろう。
まあ、問題点もあるのだが…
二人が見合っているうちに、俺もエメに話しかける。
「ちょっと、この腕に巻き付いているものはなんですかね?」
「えっと、いい布がなかったのでストッキングを使ってみたのですけど、ダメでしょうか?」
「そんなことはないです」
むしろご褒美ですとは、さすがに言えなかった。
ただ、脱ぎたての服からなのか、それとも血を流しているからなのかはわからないが、腕にはほんのりと温かさを感じる。
それだけで俺のヘンタイスキルが発動するのがわかる。
これで、俺はいけるだろう。
「エメ、ありがとう」
「いえ、そんなこと、わたしはそのしたくてしていることですから…」
「ああ、それで離してくれるか?」
「え?いえ、そのこれはそのですね…」
エメはそう言うが、俺の腕から手を離そうとはしない。
ヘンタイスキルが発動しているからこそ、少しだけ力を強めているというのに、エメの手は振りほどけない力がこもっている。
どういうことだ?
わからないでいる俺に対して、声が頭に響く。
【スキルの影響みたいね】
「(おま、今までどうしてたんだよ!)」
【う、うるさいわね。あたしだってやることがあるのよ…はあはあ…】
「(どうかしたのか?)」
【やることがあるって言ったでしょ】
懐かしい声。
神であるスターのものだった。
息がいつもと違って乱れているのが気にはなるが、姿が見えない以上はどうなっているのかわかるはずもないので、どうしようもない。
今は考えても仕方ない。
そう思った俺はスターに、この現象がどんなスキルで行われていることなのか、聞くことにする。
「(どういうスキルなんだよ)」
【そんなこと、あたしに聞かないで、もっとちゃんと女性を見なさいよね】
「(いや、そんなことを言われても、わかるんだったら苦労はしないだろ?)」
【確かにそうね。ただね、ただしたちが持つスキルは感情が左右するってことだけを教えておいてあげる】
「(はあ?答えになってないだろ?)」
【そうね。だったら、一つ言えることは、勇者すらもあ…】
「(おい、おい!)」
【…】
急に話しかけてきて、急にいなくなるとは、さすがに予想外すぎる行動をするよな神様って…
俺はそんなことを思いながらも、エメのスキルを考える。
結局スキルが何なのか、それはわからなかったが、ヒントのようなものはわかった。
感情が左右するスキルってことだろう。
俺のスキルも自分の中にあるヘンタイの食種が動けば、それだけでスキルが発動する。
今回のようにだ。
ということは、エメの何かがスキルとして発動しているということなのだろう。
でも、それが何なのか?
こういうときは質問するのがいいだろう。
「えっと、エメ?」
「はい。なんでしょうか?」
「どうして腕をつかむんだ?」
「それは、せっかく繋ぐことができたので、離れたくないといえばいいのでしょうか…それとも離したくないと思ってしまうからでしょうか?」
「俺に聞かれてもわからないがな…」
「でも、ただしさんとこうなったからには誰にも渡したくないと考えてしまうのです。変なのでしょうか?」
エメは不思議そうにそう口にする。
その言葉で、俺はどういうスキルなのかというのをもしかしてと考える。
といっても、俺が自意識過剰でなければになるが…
これはもしかして、嫉妬されていると考えるのがいいだろう。
感情が動くスキルと考えれば、なるほどと思ってしまうものだ。
女性に嫉妬される。
それも、さっきから腕に柔らかい感触も少し伝わったりしていたりいなかったりしているのを感じると余計に嬉しい。
でも、このままではいけない。
嫉妬していると仮定するのであれば、ここは話しをするしかない。
俺は握られている逆の手で、エメの手に手を重ねる。
一瞬ビクッとエメの体がはねる。
そんなエメの顔を、目をしっかりと見て俺は言う。
「大丈夫だ」
「はい!」
すると、嬉しそうにエメは頷いて手を離してくれた。
なんとかなったことに安堵しながらも、俺はエロゲーや恋愛漫画の知識もバカにはできないと感じるのだった。
まあ、童貞の知識なので、この後が怖い気もするのだが…
今は考えないようにした。
そして、見合っている二人に近づく。
ただ、予想はしたが、俺のことは眼中にないようで二人は睨み合っている。
だから俺は、目の前を横切った。
二人の体がビクッとする。
「落ち着いたか?」
「ええ、ごめんなさい」
「今のタイミングで、僕たちに攻撃をしないんですね」
「まあな。ちゃんと理由を知らないうちは攻撃をしないって決めているからな」
「そういうものですか」
「ああ、そういうものだ」
「でも、そう簡単に僕が話すとでも?」
「そうだな。だったら、イルのスキルが何かを答えられたらいいか?」
「わかりますか?僕のスキルが…」
「ああ、他人のスキルを使うことができるってところだろ?」
俺がそう言ったところで、イルはびっくりした表情をする。
「どうしてそう思うのでしょうか?」
「簡単なことだ。能力がおかしいからな」
「意味がわかりませんが…」
「そうか?意味がわからないのか?」
「はい。全くわかりませんね」
「だったら、言っておくがスキルの違和感は最初からあった」
「どういう意味でしょうか?」
「それは、わたしも聞きたいのですが…」
俺の言葉に疑問をもったのは、イルだけじゃない。
メイさんも、わけがわからないようで、俺に聞いてくるが俺はその違和感を説明する。
「能力。イルが持っているスキルが分身する能力だとして、自分だけを分身させるという、それだけというのがまずおかしい」
「ただしさん、どういうことですか?」
「スキルというのは、俺が知る限りでは、二つ以上の能力をもっていると思ってるからな」
「二つ以上ですか?」
「ああ、例えばメイさんのスキルはメイドスキルでいいんよな?」
「はい、そうですが…」
「そのスキルは、能力として二つ以上の効果を与えられてるだろ?」
「効果ですか…」
「そうだな。メイド服を着ることで能力の向上と、何かほかにもあるだろ?」
ただしに言われて、メイにも心当たりがあった。
メイがメイド道具と言っていいのかはわからないけど、それを使うとき、普通とは違うことが起こる。
そこでメイも気づいた。
「もしかして、イルの能力はコピーや模範をしている?だから能力が一つしか使えないということでしょうか?」
「そういうことだと思うぞ」
「ふ、ははは、すぐにバレるとはさすがは神たちが恐れる相手だということですか!」
「どういうことだ?」
「それについては、教えてあげましょう。そうしないとただしさんあなたは戦えないとまた言うでしょうしね。僕が何故こうなったのかを、聞いてもらいましょうか、メイさんあなたにもね」
「ええ、聞かせてもらいますか?」
そして、俺たちはイルが語る言葉を聞くのだった。




