291話
アイラたちは戦いを終えて、ただしを追うために城に向かおうとしていた。
ただ、直観的にアイラはあることに気づいた。
そして、すぐに魔法を使う。
「我の前に絶対に通さない聖なる壁を作りたまえ、ホーリーバリア」
「アイラ様?」
「アイラ?」
「来るわよ!」
アイラが言ったことによって、二人も視線を向ける。
そこにいたのは、イルと呼ばれている男。
ただ、三人ともに違和感というものを感じていた。
それは、イルという男がこちらに向かってきていたからだ。
それも先ほどと同じようにイルを閉じめるほど、広範囲のバリアを張ったというのに、イルは両手を前に突き出してバリアに向かっていく。
そして、両手が触れた途端にバリアは消える。
まるでそこに最初からなかったかのように…
これって、どういうこと?
アイラはわからないながらも、シバルとバーバルに目配せをする。
それによって、シバルが前に出て盾を構える。
魔力盾。
これを使うことで何が起こっているのかがわかるからだった。
両手を広げたイルは、そのままの勢いでシバルの盾にその両手をぶつける。
ガンという音が鳴り、魔力を貫通するかのようにシバルの盾にイルの両手が触れる。
魔力がやっぱり無効化されてる?
アイラは、その事実に気づいてバーバルに目配せをする。
バーバルは魔法を唱える。
「火よ、相手を焼き尽くす炎となせ、ファイアー、ファイアー、ファイアー」
三つの炎を出したバーバルは三方向からイルに向かわせる。
イルは、その炎を使っていた両手で無効化するわけでもなく、避けた。
アイラは避けた方向に向かって再度バリアを作る。
ズキッと頭が痛むが構っている場合ではなかった。
「我の前に絶対に通さない聖なる壁を作りたまえ、ホーリーバリア」
ただ、今度はイルによって破壊される。
そこをアイラは見ていた。
「アイラ様!」
「わかってる!」
気づいたのは、アイラだけじゃなかった。
シバルも同じように観察していたみたいで、アイラに声をかける。
でも、そこで疑問があった。
それは、イルのスキルだった。
イルのスキルはブンシンスキル。
ただしもそれは言っていた。
でも、先ほどからしているのは、アイラたちの魔法を魔力を簡単に壊しているということ。
これに似たものをアイラは感じていた。
ムコウカスキル。
あのときは完全に魔力事態が発生できるのかわからない状況になっていたけど、これは違う。
無効化ができるんだったら、さっきのバーバルの攻撃だって簡単に無効化するはず…
それをしなかった理由は?
わからなくて考えるが、答えは簡単にでない。
そんなことを思っているうちに、イルは私たちの方を見ると、三人に分身した。
「アイラ様!」
「わかってる!」
「そんなに僕のことを怖い顔で見られてもですね」
真ん中にいたイルはそう言って申し訳なさそうに頭をかく。
ただ、そこには不気味さが漂っている。
ただしが言っていたように、イルにはブンシンスキルがある。
でも、それ以外のこともできた。
これができるってことは、もしかして何かアイテムを使っているってこと?
訳がわからず混乱する。
アイラがハッキリしないことを見て、イルは声をそろえる。
「「「雷よ、相手を倒す稲妻となせ、サンダー」」」
イルは魔法を唱えた。
それも、あの勇者と同じ魔法を…
アイラは戸惑うことしかできない。
ただ、それを挟み込むようにして、シバルが前に立ち、バーバルが後ろに立つ。
「魔力の盾!」
「土よ、相手を吹き飛ばす土となせ、アース、アース、アース」
バーバルが放った土魔法が雷に当たる。
さすがというべきか、固有属性である雷は、土に当たったところでなくなることはない。
ただ、威力は弱くなった。
三つの雷はシバルの盾によって弾かれる。
それを見た真ん中のイルは頷く。
「これではダメですか。そうですよね」
そう言うイルには余裕がある。
対して三人に余裕があるのか?
アイラ自身は余裕をなくしていた。
いつものように、ただしのことを頭で考える。
どうしたら、ただしのようにできるのか、ただしならどうするだろうと…
そのときだった。
「アイラ様!」
「アイラ!」
前後から声が聞こえて、ただしのことを考えるのをやめた。
私はちゃんと前を見た。
ここにはただしはいない。
アイラ自身、そのことをわかっているはずだったのに、いつものように探していた。
それは、たぶんアイラ自身が初めて好きになった人だったことで、いつの間にか考えるという癖になっていたのだろう。
でも、それは戦いの場合では邪魔になることだというのを、ちゃんとした戦う訓練をしたことがないアイラはわかったつもりでわかっていなかった。
わがままを通す。
アイラはそれをケッペキスキルで知ったはずだというのに、できていなかった。
ただ、二人の声で思い出した。
ケッペキスキルが発動する。
そう、わからないことによるケッペキスキルだった。
わからないということは拒絶を起こす。
ケッペキとして、わからないことは嫌だ。
ちゃんと理解していないということはそれだけで少しの嫌悪感を自分に残す。
アイラは自分の中にスキルが発動しているのを感じながら、二人に声をかける。
「シバル、バーバル…やるわよ!」
「はい。すべてはボクが受け止めてみせます」
「ええ、わたくしが全部壊して、あ・げ・る」
二人の頼もしい声を聞きながらも、アイラは魔法を使う。
「我の周りに聖なる光にて異常を治す力を、ホーリーキュア」
アイラも初めて発動した魔法。
イルも聞いたことがない魔法に戸惑う。
「それは、どういう魔法ですか?」
「わからないなら、味わってみたらどう?」
「はは、面白いことを言いますね。僕は弱いんですから、少しは手加減が欲しいんですがね」
「だったら、私たちにさっさと倒されなさい!」
「痛くないのであれば、それもありですかね」
イルはそう言って、警戒しながらも前に向かってくる。
といっても、右にいた一人だけだ。
様子を見るという意味があるのだろう。
シバルが盾を構えるが、アイラは押しのけるようにして前に出る。
「アイラ様?」
「任せて!」
手には金属の棒を構える。
そして、力任せに投げつけた。
「え?」
「は?」
誰も予測がつかない行動に、シバルもイルも行動が間に合わない。
両手を前にやるがそれはアイラが展開していた魔法を無効化するだけで金属の棒を防ぐことはできない。
よって、金属の棒はイルに吸い込まれるようにして、当たる。
「がはああああ…」
そんな言葉とともに、イルの分身が一つ消えた。
「そ、そんな攻撃をしてくるなんて、怖いですね」
「そんなことないわよ。普通だから」
「ア、アイラ様。今のが普通なんですか?」
「当たり前でしょ。私的には普通の攻撃なの!」
「えっと、ちなみに今の魔法は、意味があったのでしょうか?」
「もちろん、相手を油断させるためにね」
「えええええ!アイラ様、それで魔法を使うなんて!」
「仕方ないでしょ、相手は今ですら、複数の魔法を使う相手なんだからね」
「そうですが…」
アイラとシバルが言い合っていたとき、バーバルが思わず吹き出す。
「ぷ、ふ、ふふふふふふふ…」
「どうしたのよ、バーバル?」
「いいえ、楽しくなってきたと思って」
「そんなに楽しいことをした覚えはないんだけど」
「そうね。アイラらしくていいわねってことね。わたくしもちょっとやりたいことできちゃった」
「そうなの?あんたこそ、性格変わったように思うけど」
「そんなこと、ないわよ。ちょっと遊んでみるだけよ」
バーバルはそう言って笑う。
実際にアイラが言ったことは正しい。
バーバルは性格が変わっていないというが、うちにあったものが出てきたといった方が正しい。
もともとバーバルは操られていた。
それは、アイラたちと最初に出会ったときである、サキュバスと戦ったときからでもそうだった。
そして、戦った後も…
操られていたからこその、性格だったが、それが解放された今、自分の中で眠っていた性格がでていた。
魔法を放つのが楽しい。
魔法を試すのが楽しい。
相手をいたぶるのが楽しい!
妖艶にほほ笑みながら、バーバルは魔法を放つのだった。




