287話
「レメには何ができるんですかねえ」
「ラグナロクで調べて、それくらいは知ってるんじゃないの?」
「わかりませんからねえ。人というものは、急激に成長するものですからねえ」
「誰のことを言ってるのかわからないけど、なんとなく兄さんの言いたいことはわかります」
「だからこそ、警戒はしないといけませんねえ」
その言葉とともに、レメが動く。
もっていた服を変身させる。
それによって、服の剣に変わる。
「はああああああ!」
「うん、甘いですねえ」
「く!」
レメの攻撃は、ピエロがいつの間にか出していた壁によって防がれている。
透明な壁、いつからあったのかわからないそれによって、レメは攻撃を防がれる。
まずいと思って後ろに下がろうとしたところで、違和感を感じて服を変身させて体を防御する。
何かが服に当たる感覚をレメは持つ。
これは何かが設置されていたということで間違いない。
「察しがいいですねえ」
「兄さんのスキルを、少しはわかってるからね」
「確かにそうですねえ。レメはスキルの使い方がうまくなりましたねえ」
「少しは成長してるってことがわかってくれた?」
「わかりますねえ。だからこそ、戦う意味があるのですかねえ」
「あるに決まってるでしょ、レメの手下になってもらうためには必要なことだからね」
「そうでしたねえ」
「まだ、レメはやる気があるしね」
そして、レメは再度服を剣に変えるとピエロに向かっていく。
レメのヘンシンスキルはできることが限られている。
一つは自分の見た目を変身できるもの、二つ目は持っているものを作り変えるように変身できるというもの。
この二つ目は、持っているものを変身させるもので、剣であれば服の繊維を密度を高めてそれを作り出している。
ただ、ヘンシンスキルは大きな欠点がある。
それは、変身させられるものは、一つずつしかできないというものだった。
だからこそ、守るとき、攻撃するときと完全に分けて使うしかない。
「はああああああ」
「いい剣ですねえ」
「そう思うのなら、防がないでよ」
「それは、わたくしめとしても、ラグナロクのメンバーが簡単に負けるわけにはいけませんからねえ」
その言葉とともに、一撃を防いだピエロが動く。
手を広げる。
何かが起こる、レメはそう思ったときには服を再度防御に回す。
ただ、それを貫通するようにして体に傷が入る。
「く…」
「簡単には崩せませんねえ」
「こう見えても、少しは戦えるようになってるからね」
「そうですかねえ。では、もっと攻撃を増やしますかねえ」
「全部防ぎきってみせるからね」
レメはそう言って服を再度大きく広げる。
それによって、何かが服に当たるというのだけはわかる。
ただ、それだけで何が起こっているかわからない。
「く…」
「守っているだけでは何もできませんからねえ」
「わかっているって、そんなこと」
レメはそう言葉にするが、何もできない。
自分のスキルをわかっているからこそ、兄であるピエロの攻撃を防ぐこともうまくできていないということをわかっている。
ただ、ピエロの攻撃は、基本的に最初に置いている形である設置型が多い。
新しくできることも、そのマジックスキルからできることである、種も仕掛けもある、見破られてしまえばどうってこともないことばかりのものだ。
それでも、戦闘という場合においては、相手がその種に気づくまでの間に新しい仕掛けを相手に踏ませることで、その仕掛けを気づかせることなく攻撃をつなげられるという利点がある。
今もワイヤーでレメに気づかせないように攻撃をしながら、攻撃の音と攻撃を加える位置でレメが動く方向を限定させてそこに予め設置していたマジック。
ただの仕掛けを発動させて連続した攻撃を繰り出しているというものだった。
このマジックスキルには、かなり単純な弱点がある。
今回のように、最初から準備をしている場合を除いて、ほとんどの場合は、最初にはマジックスキルでは攻撃ができない。
それは、最初に設置をできていないからだ。
できていないのだから、攻撃なんてできるはずもない。
だから、ただしといたときには何もできないというときも多く存在していた。
だが、今回のように最初から設置できている場合には、すべての状況において対応できる存在になっている。
もし、この状況のピエロを簡単に倒せる存在がいるとすれば、それはこの場所をすべて破壊してしまうような存在となってしまう。
そんな存在だからこそ、ピエロはエルによって連れてこられるはずだったただしと戦うはずだった。
でも、今目の前にいるのは、妹のレメだ。
ラグナロクとして情報を集めている時点で、確かにレメは強くなっていた。
ただ、それは普通よりもというだけだった。
レメのスキルも普通とは少し違うもの、だったからこそ、ラグナロクでそれを伸ばすことができればさらなることもできていたのかもしれない。
だけど、それはレメがラグナロクのメンバーになるということを断る前までの話しだった。
防御しかできないレメを見て、ピエロはこれまで使っていなかった魔力を解放する。
妹に引導を渡すために…
「レメ、わたくしめの最強の攻撃をして差し上げますからねえ」
その言葉とともに、ピエロが作りだしたのは、ワイヤーで作りだしたピエロの人形。
「ワイヤーマジック」
ピエロが言ったタイミングで、ワイヤーのピエロは手から多数のワイヤーをレメへと伸ばす。
魔力によって、強度を増したそれはレメを貫くはずだった。
ただ、このときピエロはわかっていなかった。
どうして、レメのことを多くの人がただしだと間違っていたことに…
攻撃が届く前に、レメは服を防御にしながらも下着を脱いでいた。
本当に最終手段ということは自分でもわかっていた。
でも、勝つためにはやらないといけないことをレメはわかっている。
「ヘンシン!」
しっかりと魔力を込める。
そして、下着を頭にかぶりながらも、レメはワイヤーをすべて躱していた。
その姿を見たピエロは驚く。
「どういうことなんですかねえ、その姿は…」
「どういうって、見た目通りだ」
「なるほど、どういう仕組みなのか、わたくしめにもさっぱりわからないのですが、これは、楽しくなりそうですねえ」
口調は完全にただしと同じもの。
そして、いつの間にか被ったパンツ姿も全く同じだった。
脱ぎたてということもあって、かなりのヘンタイスキルが発動しているのが、ヘンシンスキルによってそれを使っているレメもわかっていた。
自分のパンツで興奮しているという事実に、違和感を感じながらも早くしないといけないことをわかっているレメは早速突っ込んでいく。
ヘンシンスキル。
これは、この最終形態だとレメは思っていた。
最後に触れた相手に変身するという、最初のものと同じでありながらも違うこのスキルはレメ自身が相手になりきるというもの。
ただしと入れ替わりとしてやっていたのも、これの応用だった。
自分というものに、ヘンタイスキルによってただしという側を被せる。
すべてにおいてただしと同じことができるという利点があると同時に、かなりの欠点ももっていた。
それは、長時間使えないというものだった。
スキルはかなり強力で、確かに強い。
ただ、自分を相手に変身させるということは、相手になりきるということだ。
もし、自分自身がただしの思考と一緒になってしまえば、戻ってこれないということになってしまう。
だからこそ、すぐに攻撃に移った。
「はああああああ」
「く、速い!ワイヤーマジック!」
「視えてる!」
「な、ぐはあ…」
レメはピエロを殴っていた。
ヘンタイスキルによって、強化されたレメはただしと同じように魔力の流れというものが視えている。
だから、どこにどんな攻撃が待っているのかすらもわかってしまう。
すべての攻撃を躱して攻撃をするなんてことは、今のレメにしてしまえば簡単なことだった。
「くくく、素晴らしいですねえ。そんな隠し技をもっているなんてねえ」
「確かにそうね」
「くくく、どこか苦しそうですねえ」
「だったら、どうなの?」
「いえ、わたくしめも攻撃をもらえばやられることはわかっていますからねえ、次の攻撃が最後ですかねえ」
「だったら、レメが勝つ」
レメは拳を握りしめる。
時間がない。
今回ヘンタイスキルによって変身しているのは、外見とスキル。
これまでできるようになってから、幾度か相手に変身してやってきたけれど、ここまで消耗が激しいとは思っていなかった。
それだけ、ただしという人間が特別なのだということを、レメは思い知らされていた。
「はああああああ」
「種も仕掛けもありますからねえ」
「そんなこと、わかってるわよ」
「そうですねえ」
ピエロはそういって、両手を広げる。
何もしない?
レメは何も阻まれることなくピエロを殴っていた。
殴りながらも、レメの姿は元に戻る。
「どうして、兄さん!」
「くくく、仕方ありませんよねえ。レメは、わたくしめの妹なのですからねえ」
「それは、でも…」
「くくく、誰に影響されたのかはわかりませんがねえ、わたくしめも、どこかあの男ならやってくれると信じているのですよねえ」
「それは…」
レメは最後に言葉を言おうとして気絶する。
成長したことに喜びを覚えながらも、パンツを被った妹を抱きしめたまま、傷んだ体のせいで起き上がれないピエロは、口にする。
「この状況、どうすればいいのでしょうかねえ」
ただ、どうしもうないということを理解しながら…




