283話
アイラに体を揺さぶられながらも俺はなんとか口にする。
「いや、ほら言うだろ。敵を騙すなら味方からってな」
「それはわかってるわよ。そうじゃなくて、さっきの言葉に私は違和感を覚えてるの!」
「そう言われてもな…」
レメという女性になりきることで、少しは女性に対しての理解ができたというだけなのだが、正直にそれを言って何か間違ったというのだろうか?
だって、それ以外に何かを感じなかったのだからだ。
アイラたちの戦いを見ても、いつも通りだなとしか思わなかったし、確かに女性というものに俺が惹かれる理由がわかったのだから、それでいいと思うのだが、違うというのだろうか?
といっても、このままというわけにもいかない。
急な俺の登場に相手の男三人はポカーンとしているし、しょうがない。
騙したことがダメだったのだろう。
俺はことの経緯を話すことにした。
「まあ、これはレメが提案してきたことでな」
「だからって、レメになりきってたの!」
「いや、話を聞いてくれよ」
「だって、おかしいでしょ?もしかして、レメのスキルが本当は体を交換できるものだったっていうの?」
「違うからな!」
混乱していて、まともに話しを聞いてくれないアイラには何を言ってもダメだと感じた俺は、シバルに目線を送って助けを求める。
シバルは俺の視線を受けて、何かわかってくれたのだろう。
アイラに言ってくれる。
「アイラ様。レメとただしの体が入れ替わったということではないと思いますよ」
「どうしてそう思うのよ」
「それはだって、ただしに自分の体を任せるなんてことができますか?」
「それは…できない…」
「だから、先ほどの姿は、見た目だけを変えるものと考えるのがいいと思いますよ」
「なるほどね。それなら少しは納得したけど、私たちが普通に間違えるくらいのことができたのはなんでなのよ」
「それについては、ただしに直接聞くしかないですね」
「じゃあ、説明いい?」
シバルの言葉で、なんとか持ち直したかのように見えたけれど、胸ぐらを掴まれたまま俺はさらなる尋問にあうことになる。
説明と言われても、俺も詳しいことはわからない。
なんとなく、レメのスキルからこうなるのではという予想くらいはたてることはできるが、その説明で納得してくれるのかという不安はある。
といっても、このまま何も話さないというのも、事態が悪化するだけなのはわかっていたので、俺は説明をすることにした。
「これはレメのヘンシンスキルで入れ替わることができたってだけだ」
「そんなのができるっていうの?」
「できてたんだから、そうなんだ。まあ、どうなったのかというのは、俺もされた側だから詳しいことはわからないけどな、なんとなくの予想くらいはできるからな」
「だったら、その予想を早く言いなさいよ」
「いや、ただ単に俺の体にレメの見た目をくっつけたってことだ」
「どういうこと?」
「だから、お互いに体としての見た目を上から貼り付けたって感じだ」
「それにしては、声とか口調もレメに似ていたような気がするんだけど」
「そこについては、魔力で見た目に引っ張られる何かがあったんだ」
「ただしは、魔力がないのにそうなるの?」
「ああ、別に俺は魔力がないだけで、魔法とかはくらうからな」
「確かにそうだった。ということは別にレメに女性の何たるかを教えてもらってそうなったというわけじゃないんだ」
「そうだよ。というか、女性のなんたるかって、なんなんだよ」
「それは、その知らなくてもいいことだから」
アイラはそう口にすると、掴んでいた手を離して少し視線を逸らした。
俺はシバルに手を貸してもらうことで立ち上がったのだが…
「もういいのか?」
「えっと、すまん…」
「はは!別によい。ワシらはただ楽しませてもらったからな」
完全に存在を忘れていたザンにそう言われて、俺たちはようやく再度武器を構える。
ただ、俺は構えをとらずに腕を組んだ。
「うん?戦わんのか?」
「そうだな。俺はできれば戦いたくはないな」
「どうしてかを聞いてもいいか?」
「簡単なことだ、ザン…あんたたち、ラグナロクが何をしたいのかがわからないからな」
「じゃあ、逆に言えばワシらの野望を聞いて、納得したら戦わなくて引いてくれるのか?」
「そうだな。納得すればになるけどな」
「だったら、簡単だな。まずはワシらを倒してみろ」
「どうして、そういうことになるんだよ」
俺は思わずそう聞き返した。
だって、仕方ないことだ。
納得さえすれば、俺だってここから手を引くと言っているのに、ザンは戦うと言う。
かなり矛盾していると思うのだが、どうなんだろうか?
俺が未だに武器を構えないところを見て、ザンは問答無用とばかりに剣を振るう。
ただ、俺はそれを避けるだけに徹する。
「さすがだ!」
「ふ、今の俺は一時の悟りを開いているからな。そんな攻撃は簡単に躱せる」
「わけのわからないことを言っていても強いってことか」
「まあ、そんなところだ!」
俺はそう言葉にして、ザンの攻撃を躱す。
ザンのスキルは、これまで見てきたことでなんとなくわかっている。
ザンの名前の通り、ザンスキルだ。
斬れないものがないとばかりに、すべてのものを斬ってしまうスキルといったところだろう。
斬れないようにするためには、シバルのように魔力盾。
絶対に守るという盾を用意するくらいしか手段はない。
俺のように、魔力がないと避けるくらいしか手はない。
それはザンもわかっているはずで、攻撃をしながらも、俺が反撃をしてこないのかと少しの余裕を見せているくらいだ。
ただ、俺は反撃しない。
だって、まだ内容を教えてもらってないからな。
ザンもそんな俺のふるまいが気になったのだろう、剣を振るうのをやめる。
「本当に、ワシらの目的を知らないと戦わない気か?」
「当たり前だ。そもそも、自分たちを変革者だって思いたいのなら、それくらいは教えてくれたって問題ないだろ?」
「ふは!確かにそうだな。目的を知らされないままだと、ただの盗賊となんら変わりはないと思われても仕方ないってことか」
「ま、そういうことだ」
ザンは理解してくれたようで、もっていた剣を一度鞘にしまう。
そして、話しをする。
「ワシらが、エンドと一緒にやること、それは簡単なことだ」
「神様を殺すってやつか?」
「まあ、そういうことだ。知ってるじゃないか」
「それくらいのことはな。ただ、神様を殺す理由がわからないんだよ」
「それも簡単な話しになるな。ワシらは神様が理不尽に奪ってきたものを取り戻すために、必要なことだ!」
「なるほどな。神様を殺すことで、それができると?」
「ああ、ワシはそう思っている」
ザンはそこまで話すと剣を抜く。
「さあ、どうする?ワシらと戦う気になったか?」
「どうだろうな…俺は別に神様を殺すことに興味はないしな」
「だが、神様に召喚されたのだから、神様を殺されないように守ったりするのだろ?」
「いや、俺にはそういう興味はないな」
「なんだと…」
ザンは愕然としている。
俺が本当に興味がないということが態度でわかったからだろう。
確かに俺は神様にこの世界に転生させれた存在なのかもしれないが、神はスター以外が全員男なのだ。
それに、その男どもに召喚されたという勇者たちは俺に迷惑をかけるしかない存在だ。
だから、神様を殺されようが基本的には興味がない。
構えようともしない俺にザンは斬りかかる。
「なに!」
「だから、俺は戦う気がないんだって」
俺は振り下ろす手を左手で掴むことで、ザンの攻撃をふさいだ。
両手で剣を振るっているザンと、片手で完璧に防いだ俺の力は右手を振りぬく。
「ぐは…」
「なあ、まだやるのか?」
「当たり前だ。ワシらのやることを防ぐかもしれない存在とは戦う必要があるからな」
「そういうもんかよ」
「だから、ここで戦うしかないんだよ」
「そういうものか…だったら、俺のやることは決まってる。シバル頼んだ!」
「はい!」
「え?聞いてないんだけど!」
俺はシバルにそう声をかけると、思いっきり地面を蹴るのだった。




