278話
「あいつら、隠れる気とかないのかよ」
「ううーん、そういうところが面白いとは思いませんかねえ」
「思わねえからな。あたいはああいうところが嫌いなんだ!」
「ん?気になるのですか?」
「気になるか!いや、気にしないとダメだけど!」
「うーん、本当に忙しいですねえ」
「うるさい」
そう言いながらもエルは見張りをしていた部屋の椅子へ腰を下ろす。
エルとピエロはそのスキルから、そういうことに向いていたこともあって二人で行っていたのだが、リベルタスの都市へ入る前にはしゃいでいるただしたちを見て、文句の一つも言いたくなってしまったのだ。
エルもあたいたちが監視しているのだから、それをかいくぐるくらいのことをしなさいよと考えてしまっていた。
でも、ただしたちを見ているとそんな小細工など意味がないという風に、都市へ入ってくる。
それを見て、エルはラグナロクがこれから行うことを思いだしていた。
「こんなに正面切って入ってきたら、あたいらの作戦が台無しになるんじゃないの?」
「確かにそうですねえ、さすがというべきですねえ」
やばいと口にするエルに対して、ピエロの口調は対して変わらない。
どう考えても慌てる様子がないピエロを見て、エルはため息をつく。
「はあ…本当にそう思ってるのか疑問にしか思わないんだけど」
「仕方ありませんねえ、わたくしめはこういう喋り方ですので…」
「そうですか…」
「ええ…それで、作戦は行えそうですか?」
「やるしかないでしょ、ここまでやってきたんだし」
「さすがは、エルですねえ」
「はいはい」
ピエロの適当な誉め言葉を、エルは聞き流しながらも作戦を思い出していた。
そして、昨日のことも…
昨日のことについては、エルとエンドの二人しか知らないことではあるけれど、だからこそ作戦が納得いかなかった。
監視しているからこそわかるが、今日はもうあいつらは都市へは入ってこない。
時間も遅くなっている。
ここから見える限りでも、山の上という見晴らしがいい場所ということもあるのだろうが、そこで一泊してから都市へ入るということは最初からエンドの作戦で聞かされていたことだった。
それは、昨日の夜にただしを話し合いに連れてきたときに場所をある程度特定したからだった。
「あいつの言ってたことはやっぱり役に立つか…」
その事実に、エルは小さく声にだす。
そう、少し前にエルはただしに言われていたことだった。
エルのスキルはゲート、行ったことがある場所をしっかりと思い浮かべることによって、その場所と今いる場所をつなぐことができるものだ。
ただ、ラグナロクでゲートを使ったときも何度か問題は起こっていた。
それは繋いだ先の状態がわからないということだった。
それによってモンスターがいたことも少しの回数はあった。
そんなときにただしに提案されたのが、ゲートを展開するときにこれまではただ黒い穴にしていたのを、黒い穴からその先を視ることができるのではないかというものだった。
そう言われて、最初はできなかったけれど、ゲートの開く場所のことを正確に想像することによって、ゲートを開く場所に思い浮かべたもの以外のものがあるとわかるようになった。
それは、ゲートを開く前に違和感として、感じ取ることができるようになったということになる。
これができるようになることで、ゲートを開いた先に何があるのかがわかるようになった。
そう、ゲートの先がわかるそれを使うことで、エルはあることをしないといけない。
ゲートを発動するために魔力を高める。
そして、繋ぐ場所を思い浮かべるが、魔力の揺らぎを感じる。
「いるみたいね…」
「そうですか、じゃあ、任せましたねえ」
「はいはい、わかっているわよ」
ゲートを繋ぐ。
ただ、繋ぐ場所は今エルがいる場所ではない。
ただしたちがいる場所と、違和感を感じた場所。
そう、ただしたちがいる場所にモンスターがいると思われる場所にゲートを繋ぐ。
これをすることで、モンスターを急にただしたちの場所へ向かわせることができる。
「おお、成功してますねえ」
「はいはい、よかったじゃん」
見張っているピエロからそんな声が聞こえるけれど、エルは集中していた。
いつものように自分の場所から思い浮かべた場所を繋ぐというのは、簡単にできるようになっていたけれど、今やっているゲートのやり方は遠くの場所と遠くの場所を繋ぐというもののため、集中していないとゲートが閉じてしまう可能性が高いからだ。
どうしてこんなことをするのかというのは時間稼ぎが必要だったからだった。
エルたち、ラグナロクがこれから行う世界の解放と終焉へ向かうために必要なことを進めるための…
ただ、ただしたちがそんなものを簡単に超越してしまうほどの存在だということを、改めて認識させられるのだというのをすぐに理解させられた。
「あー、ダメみたいですねえ」
ピエロから、そんな呑気な声が聞こえる。
エル自身も感じる魔力から、どうなっているのかがわかる。
モンスターたちから感じる魔力が一つずつ無くなっている。
これは、倒されていっていることを表していた。
「やっぱり、雑魚は意味ないってことだろ」
「そうみたいですねえ、それじゃあ本来のことをお願いしますねえ」
「本当に注文が多いな!」
「それは、わたくしめじゃなくてエンドに言ってほしいものですねえ」
「はいはい!」
そう、モンスターを無理やりゲートで連れてきたところで、ただしたちのパーティーメンバーの脅威になることはまずない。
それは、最初からわかっていた。
だから時間稼ぎを行うための手段と考えていた。
でも、モンスターも一瞬で倒されていることを考えると、時間稼ぎにもなっていない。
そこでもう一つの計画だった。
モンスターをただしたちはすぐに倒すことはできた。
ただ、倒すことに意識を向けていたからこそ、それぞれ離れている。
「ああーもう…こういう集中することが大嫌いなのに!」
「難しそうですかねえ?」
「いけるわよ!」
エルは集中することで生じるイライラを何もしないピエロにぶつけるかのように吐き捨てるとゲートを発動した。
ただしたちパーティーを分断させるためのゲートを…




