265話
「なんとかなったな」
「おぬしは、もう少しやり方があったとおもうのじゃが」
「でも、ミィーアはなんとかなりましたから」
「ほら、こう言っているだろ?」
「だからと言ってもじゃな。そうやって、周りの女子が褒めるから調子にのるのじゃ」
「別にそんなことで調子にのったりはしない」
「じゃあ、どういうときに調子にのるのじゃ」
「そんなことは簡単だ。いつも調子に乗っている」
「もっとヤバいやつになっておるのじゃ」
「そうか?普通だと思うけどな」
「普通なやつは、自分で調子にのったなどと言わないのじゃ」
「そうなのか?よかったな、普通じゃないってことは、できる人間ってことになるからな」
「くう、すぐに調子にのりおって」
「いいことだろ?」
「じゃから、そんなことないって言っておるじゃろ…もうこれ以上は言わないのじゃ」
「そうか」
ヤミが何を言いたいのか、それについてはわかっている。
だからといって調子にのらないというのは、俺じゃない。
せっかくいい流れなんだ、こういうときには常に調子にのっておく。
気分がいいときに暗くなるのは、間違っているからな。
俺はしっかりとヤミの頭上に立っている。
これで、俺のヘンタイスキルは強化されている。
ドラゴンが飛んでいる。
普通であればそれは恐怖の対象なのだろう。
ただ、俺が女性の下着を被りながらも隣に同じく下着を被った女性を連れていればヘンタイとしての象徴となる。
そうなってしまえば、ヘンタイスキルが強化されるというものだ。
「こんな恰好をしてもよかったのか?」
「大丈夫です。仮面を被るって、なんだかかっこいいことじゃないですか?」
「確かにそうだな」
「はい。見ただけではミィーアだとわかりませんから!楽しそうです」
「ヒーロー的な?」
「そうです!」
ミィーアは楽しそうだ。
そんな俺たちは、天空城に向かった。
どこで戦っているのか?
そんなのは、俺のヘンタイ眼で視えている。
「師匠はどこにいるのかわかるんですか?」
「まあな、俺は仮面を被るものとして、上位にいるからな」
「さすがです。ミィーアも負けません!」
「その息だ」
そして、場所にたどり着く。
「どうじゃ?そろそろ降りるのか?」
「後少しだけ待ってくれ…」
俺はタイミングを見計らう。
そう、かっこよく登場できるタイミングをだ…
仮面を被るものとして、弟子にはかっこいい姿を見せないといけないからだ。
ヘンタイ眼で視える情報を確認すると俺は飛び降りる。
「そっちもタイミングを見て、頼んだ」
「わかったのじゃ」
「師匠?」
「任せろーーー」
俺の声は下に消えていく。
俺はそのままの勢いで下に落下した。
ガシャンという音とともにガラスでできた屋根の一部を突き破る。
ガラスが体に少しの傷を与える。
ヘンタイスキルが強化されている今であれば、気を使えば防げる傷ではあるが、あえて傷を体につけた。
理由?
そんなものは簡単だ。
俺が周りからヘンタイとさらに思われるためだ。
ヘンタイになるというのは難しい。
周りからそういう風に見られなければ意味がないのだから…
女性の下着を被った上半身が血に濡れた男が急に部屋に乱入してくる。
それは、周りから見ればおかしな状況だった。
といっても、俺たちのパーティーメンバーは俺のことを暖かく迎えてくれる。
「火よ、相手を焼き尽くす炎となせ、ファイアー」
「うお、あぶな」
「我の手に、守るための聖なる力を与えよ、ホーリージャベリン…く、魔法を使えないんだった」
「いや、使えたら俺に投げる気だったのか?」
「当たり前でしょ!」
「少しは傷の心配とかあるんじゃないのか?」
「そんなのは、ただしに必要ないでしょ!体とかに穴が開いたら考えるわよ」
「いや、ひどいな」
「優しさでしょ?」
「どこかだよ!」
アイラに酷いことを言われながらも、俺はしっかりと戦う相手を見る。
そこにいたのは、お姉ちゃん。
そして…
「なるほどな、お前が最後の勇者ってことかよ…」
何も喋らない最後の一人がいた。
俺の前世での親友だった男だ。
なんだかんだで面倒見がよく、少し変なやつではあったがいいやつだった。
ただ、あいつは俺と同じ年齢ってことはもっと上な見た目だったはずだ。
なのに、今は高校生のときに見たときの見た目をしている。
確かに、俺があいつと絡んだのはそのときが一番長かったから…
そういうことなのか?
確かにお姉ちゃんの見た目も思い出したくなくて、考えていなかったが、昔の姿だ。
まるで、俺の嫌なところをえぐるようにか…
「まあ、今はそのことを考えても仕方ないか」
「どうかしたの?」
「いや、ちょっとだけ気になったことがあってな」
「そうなんだ、お姉ちゃんには言えないこと?」
「言えないことだな」
「そっか…でもね、お姉ちゃんは、正君に会えると喜んでいろいろ話をしたくなっちゃうんだ」
「だったら、お姉ちゃんの名前を教えてほしいんだけどな」
その言葉を言った瞬間に、お姉ちゃんの雰囲気が変わるのを感じる。
わかっていたことだ。
自分のことをお姉ちゃんは話したがらない。
それは名前もだった。
それは、自分の過去に何かがあると言っているようなものだった。
だからこそ、お姉ちゃんのことを知るためにも俺はここで勝たないといけない。
「ま、この戦いは俺が生んだものだからな。なんとかするしかないよな」
俺は拳を固める。
「お姉ちゃん、全部を教えてもらうからな!」
「その前に正君をお姉ちゃんのものにしてあげる」
戦いが始まる。
でも、それは一瞬で決着がつくということを俺はわかっていた。
ヘンタイ眼が強化されたことで、俺にはすべてが視える。
といっても、透けているといった方が正しいのかもしれないが…
すべてを見透かせるような気もするこの眼で、俺は相手を見ている。
「お姉ちゃんの秘密兵器でどうなるのかな?」
自信満々にお姉ちゃんは言うが、俺は気をためる。
速攻で距離を詰めると握りしめた拳を解き放つ。
「カイセイ流、一の拳、トルネードスター」
「え?」
ドンという音とともに、俺は元親友を殴り飛ばした。
飛んでいく男に、さすがのお姉ちゃんも驚いた声しかでない。
一撃で吹っ飛んだ秘密兵器に、驚くのはわかるが…
今の俺は、ヘンタイスキルをこの国中にさらしたおかげでかなりの強化を受けている。
そう、新しい生命体。
変体とでも呼ぼうかと思うくらいにはな!
「どうして、正君はお姉ちゃんのものになってくれないの?」
「それは、俺は誰のものでもないからだ」
「でも、お姉ちゃんはお姉ちゃんは…」
お姉ちゃんはそう口にする。
俺はどう返答するべきなのか考えた。
でも、答えはでない。
強くなったヘンタイ眼で視えてしまったものが余計にそう思う。
あのときはお姉ちゃんを俺は正面からしか見ていなかった。
背中に見えてしまったものに、俺はどこか納得してしまった。
お姉ちゃんが狂ってしまった理由がわかったからだ。
俺に何ができる?
何を言えばいいのかわからない。
でも、俺は…
「俺がお姉ちゃんのものになることはできない。でも、お姉ちゃんが俺のものになることはできるぞ」
考えているうちに変な言葉を口走る。
ただ、お姉ちゃんはその言葉で何かを思い出したかのようにその場でうずくまる。
「だって、だって…お姉ちゃんはこれしかなかったのに…」
その言葉で俺は何も言えない。
でも、アイラは違った。
ずんずんと近づいていったと思うと、お姉ちゃんの胸倉をつかんだ。
「いちいち誰かに依存せずに、自分の道くらい自分で進みなさいよね」
「でも、お姉ちゃんは…」
「過去に何かあったって?それは私たちに関係ないことでしょ?」
「それは…」
「過去にあったことを気にしすぎちゃ、それこそダメになっちゃうでしょ?今、ここにいるのは今のあなたなんだから」
「そうですね…」
お姉ちゃんはゆっくりと立ち上がる。
「正君、前からずっと執着してごめんなさい」
しっかりとしたお辞儀で謝られて、そこには先ほどまでの何かにとらわれていた彼女の姿はなかった。
その姿に俺が前から感じていた恐怖はなくなっていた。




