263話
「こんな形で会いたくはなかったですけど、仕方ありませんよね」
「…」
「答えられない。そのことをボクはわかっています。でも、少しでもあなたと話していたかっただけです」
シバルの兄が好きであったであろう相手。
こんなタイミングで再開するとは思わなかった相手。
でも、シバルは戦うことになったとしても、嬉しいと思っていた。
姉だと慕っていた彼女に、自分が強くなったところを少しでも見てもらうことができるのだから…
シバルは彼女を観察する。
操られているからだろうか、シバルが彼女を見たのは病弱なところばかりで戦うことなどできるはずもないような感じだった。
それなのに今は、剣を構えている。
「こんな形で、ボクが少しでも成長しているのを見てもらえるのは最高のことです」
「…」
彼女は喋ることはない。
そして、彼女はシバルに剣を構えて向かってくる。
シバルはそれを簡単に受け止めた。
剣の腕は素人という感じだった。
戦ったことがないから仕方ないということなのだろう。
ただ、シバルは膝をついた。
体の力が急に抜け始めたことに驚きながらも、なんとか剣を弾くと少し距離をとる。
「どういうことでしょうか?体から力が急に無くなって…」
そう考えたとき、シバルはハッと気づく。
対策を考えないといけない。
シバルはそう気づいたけれど、それを許さないように彼女は剣を振るってくる。
受け止める。
それをしてしまえば不利になる、シバルはすぐにその考えを持つと、盾で受け流す。
剣筋は滅茶苦茶なおかげで、シバルは攻撃を簡単に受け流すことができた。
ただ、問題点はあった。
それは、剣が触れるたびに体の力が抜けていくということだった。
シバルは、それがスキルのせいだということにすぐ気が付いた。
「このスキルのせいで、体が…」
そして、彼女の体が弱かったのも、このスキルが影響したものだということをなんとなく感じた。
素人の剣筋とはいえ、当たるたびに体の力が抜けるのは戦いにくくて仕方ない。
普通の人であればそう思うし、早々に決着をつけるために焦って行動をする。
それが普通の人たちであり、そんな人たちをうまくかわして、さらにスキルで相手の力を弱めて勝つというのが、彼女の戦い方だった。
だからこそのとっておきという存在だったのだが、シバルは力が抜けるその感覚を楽しんでいた。
「ふひ…こんなことなら、もう少し早くお姉ちゃんと戦うことができていたら…」
シバルはそう考えていた。
ドエムスキルによって、シバルは体の力が抜けることにどこか快感を覚える。
普通であれば、攻撃を受ければ弱体化するはずの相手は、今は攻撃を受けるたびに力を増している。
ドエムスキルの一番相性のいい相手。
ただしがこれを見ていればそう口にするかもしれない。
そんな戦いだった。
力が抜ける感覚を快感として、さらなる力を生み出してシバルは攻撃を完璧に受け止める。
「ふへ、この感覚。ボクは大好きです」
「…」
彼女は何も喋らない。
といっても、シバルのこんな姿を見ることになれば、どんな反応を返されるのかわからないので、これでよかったのかもしれないが…
シバルはさらに力を高める。
快感といっても、単調な攻撃はドエムスキルを持っているシバルとしても飽きがくる。
そして、シリョウスキルで生き返った彼女もどこか限界がきている。
素人が振るっているようなものであり、さらには力をうまく弱めることができない相手ということもあって、完璧に防がれるてしまうと、その手は気づけば痺れを起こしていた。
ガンという音とともに剣は弾かれる。
「終わりですか…」
シバルはどこか残念そうに言う。
それが、ドエムからくるものなのか、姉と慕っていた彼女との戦いが終わってしまったことのせいなのかはわからないが、シバルは彼女に両手を置いた。
バーバルに使ったものと同じもの。
それを使用する。
魔力を体内に流して、シリョウスキルでつながっている魔力の糸みたいなものを切っていく。
集中していたときだった。
「強くなったね」
「!」
その言葉とともに、彼女は笑顔を作る。
そして、その顔はすぐに生気を失った。
シバルは彼女を抱きしめながらもうなずく。
「はい」
その言葉は自分に言い聞かせるように…
同じタイミングでアイラは、光の槍で男を貫いた。
シリョウスキルで操られていた体は、力を失ってゆっくりと倒れる。
ただ、男性から何かが一つものが落ちる。
気になった私は、それを開けてみた。
「そっか…そういうことね」
それを見て、私はどこか納得する。
どこか見たことがある気がするというのも、本当に戦いにくかった理由もそれで理解した。
私はそれをポケットにしまうと口にする。
「じゃあね、お父さん」
私はシバルの元へと向かう。
そっちでは、シバルも同じように戦いに勝てたのだろう。
ゆっくりと彼女を地面に置いて立ち上がる。
私たちは二人で顔を見合わせた。
「シバル行ける?」
「アイラ様こそ」
「大丈夫よ」
「ボクもです」
二人でうなずきあうと、私たちはお姉ちゃんと呼ばれる彼女に向き直る。
それを彼女は楽しそうに笑ってみていた。
「お姉ちゃんの中でも強い死霊たちだったのに、簡単に倒せるなんて、二人ともすごいんだね」
「まあね。でも、褒められても、私たちは嬉しくないからね」
「そうみたいだね。正君のお友達ってことだから、あんまり乱暴はしたくないんだけど、お姉ちゃんだって少しはやらないとね。正君ともう一度会うために…」
「どうしてただしに執着するのかはわからないけど、私たちがあなたを倒すからただしに会うことはないんだから」
「ふふ、だったらこの人に勝ってお姉ちゃんを満足させてよね」
彼女はそう言って、後ろに下がる。
後ろから現れたのは、私たちと同じくらいの年齢の男性だった。
見てもそれが誰なのかはわからない。
どういうこと?
私はわけがわからずとりあえず魔法を使うべく魔法を唱える。
「我の手に、守るための聖なる力を与えよ、ホーリージャベリン」
右手に光の槍が出来上がるはずだったけれど、何もできない。
「どういうこと?」
「アイラ様?」
「シバル、少し魔力を使ってみて」
「はい!」
シバルも魔力を使って何かをしようとしたのだろう。
ただ、何も起こらなかった。
これはもしかしなくても…
「ふふ、お姉ちゃんもびっくりなんだけどね。魔力を発動できなくなるものなんだよ」
「これは確かに厄介な能力ね」
「はい」
私はシバルと顔を見合わせる。
確かに厄介なスキル。
でも、私たちにはちゃんと武器がある。
だから戦える。
そして、前に進みだそうとしたときだった。
豪快な音が鳴り響いたのは…




