258話
「やったわね、シバル」
「はい…なんとかなりました」
「ごめんなさい。迷惑をかけて…」
「別にいいって…そのおかげでシバルがどんな思いで戦っているのか、わかったしね」
「いえ、その…はい」
少し照れているシバルを見て、私はどこか誇らしくなる。
レックスのときには、あれだけ自信をなくしていたというのに、今は自信を取り戻しているからだった。
やっぱり、成長するというのは、自分では恥ずかしいことなのだろうけれど、いつも一緒にいるシバルのこととなると、嬉しい。
ほのぼのとしていた私たちに、ゆっくりと近づく人影があった。
「そっちも終わったかぞ」
「うん、って…」
私は驚いた。
そこには、ジーニアスと、ジーニアスに背負われているアシストがいた。
ジーニアスは簡単に背負ってはいるけれど、アシストとの身長差を考えても、ここに連れてくるまでにそれなりに疲れるはずなのに、それはなかった。
ゆっくりと寝息を立てているアシストにジーニアスは勝ったということなのだろう。
「以外にやるんだ」
「当たり前ぞ。ワイはこう見えても強いぞ」
「本当に?」
「本当ぞ。それに、今回は絶対に勝てる自信があったからぞ」
「どういうこと?」
「簡単なことぞ、ワイがアシストの能力をわかっていたからぞ」
そう言うと、戦いの内容を教えてもらった。
それは、簡単なものだった。
アシストのスキルは、相手の居場所を見破るスキルのようなもので、相手に気づかれないようにするのが大前提のスキルというもので、戦闘スタイルも基本的には隠れてからの奇襲を行うのが普通の戦いかたになるらしく、今回のように正面きって戦うことについては、苦手ということらしい。
確かに、それはそうなのかもしれない。
そして、最後に確信をもってジーニアスは言う。
「だからこそ、アシストは最初からこうなることをわかっていて、メイニアに協力していた可能性があるぞ」
その言葉で、私たちは疑問に思ってしまう。
この言い方は、ジーニアスとメイニアがまるで仲が良いと思ってしまったからだ。
ジーニアス本人もそのことに気づいたのだろう。
ごほんと咳払いをすると、ゆっくりとアシストを地面に寝かせて口を開く。
「そうぞな。ワイの話を少し聞いてもらうことになりそうぞ」
「ということは…」
「そうぞ…ワイはあることを隠していたのだぞ」
ジーニアスはそう言うと、話を始めた。
※
小さいころから、クラフトスキルを使うことができたジーニアスは特異なスキルでありながらも、実用性が高いものとして魔法の国で研究に没頭していた。
ただ、そんなジーニアスも一人で研究しているというわけではなかった。
そこにいたのは、幼馴染のメイニアとミィーアだった。
メイニアとミィーアは、ジーニアスと同じよう特異なスキルをもつものだった。
メイニアにはドールスキル。
無機質な人の容姿をしたものを動かせるというものだった。
それが備わっていた。
そして、ミィーアには…
「サイセイスキルとはぞ、すごいものぞ」
「うん、ミィーアもね。すごいスキルだと思ったんだよね。これで、二人の研究を手伝えるようになるね」
「いや、今でも手伝ってもらっておるぞ」
「そうよ。無理させても仕方ないことでしょ」
「そんなことを言わないで、ミィーアだって、二人の役に立ちたいんだよね」
嬉しそうにミィーアは言う。
そんなミィーアは、ジーニアスが作り出す研究成果を試す役として、役に立ち、メイニアが動かした人形の相手をすることで、新しいデータを取ったりしていた。
少しの傷程度では、ミィーアが治ってしまうということもあり、二人は心配をそれなりにしながらも、研究を一緒にしていた。
そのまま三人で、仲良く研究をしていくものだと、ジーニアスは思っていた。
ただ、一人…
メイニアを除いては…
メイニアは焦っていた。
ジーニアスと自分自身は特異なスキルだとはしながらも、実際は自分のスキルがどれだけ使い物にならないものなのかということを気づいていた。
それは、確かに人形としてものは動かすことはできる。
でも、それだけだった。
魔力を流し続けなければ、人形は動き続けない。
普通の魔法使いより、ほんの少しだけしか魔力が多くないメイニアは、人形を動かすことだけしかできないスキルでは研究として弱いものだということを気づいていた。
といっても、戦闘においては魔力が切れない限りは戦い続けられる軍団を作れるということもあって、魔法使いとして研究を行わせるよりも、戦闘を行わせる存在にするべきだという声を聞いたことは一度ではなかった。
そこで、研究をやめていればメイニアはきっと今でもジーニアスとミィーアとは違う形としては笑いあっていたのかもしれない。
けれど、メイニアはある禁忌に手をだしてしまう。
それは、魔石の存在だった。
魔石はモンスターを倒すと中にあるものだった。
人と見た目は全く違うのに、モンスターは自我をもっているのも、個体によって魔法を使えるのも魔石から魔力が発生していると考えた。
だからこそ、考えた。
魔石を人の体に取り込むということを…
そしてことは起こった。
新しい研究を試す、そうメイニアに言われて、ジーニアスたちはメイニアの研究所に連れていかれていた。
ただ、研究前にお茶をごちそうになったとき、ジーニアスとミィーアは眠りについていた。
目を覚ますと、ジーニアスは体を縛られていたけれど、目の前の状況をすぐに理解して叫んだ。
「何をしておるぞ!」
「何って?決まっているでしょ。研究よ」
「そんなことは研究とはいわないぞ」
「うるさい!こうしないと自分の研究が続かないんだよ!」
「メイニア!」
「名前で呼ぶな!これで、偉大な研究者になるんだから!」
ジーニアスはなんとか止めようとスキルを発動する。
クラフトスキルによって、縛られていた鎖は解ける。
ただ、それよりも早くメイニアはミィーアの体内に魔石を埋め込んだ。
その瞬間だった。
近寄ろうとしたジーニアスと近くにいたメイニアはミィーアから放たれた高密度の魔力によって吹き飛ばされた。
「ミィーア!」
「ははは!」
手を伸ばすジーニアスとは違い、メイニアは嬉しそうに笑う。
「これで、研究は成功した!」
「メイニア!」
狂気に満ちたメイニアを殴ろうと、ジーニアスは近づこうとしたときだった。
ミィーアから、さらに魔力が膨れ上がるのを感じた。
そして、次の瞬間だった。
体が弾けた。
「ミィーア!」
「は?」
そこからの記憶をジーニアスはあいまいにしか覚えていなかった。
気づけば、クラフトスキルでミィーアをなんとか生きられる状態にしていたことだけはわかった。
そして、今でも彼女をなんとかもとに戻す方法を探している。
※
「まあ、そんなことぞ」
「あんた…」
「なんぞ?」
「そんなことがあったの?」
「まあぞ、だからこそワイはなんとかしたいのだぞ」
ただ、そこで私は思い出す。
「魔石を埋め込まれているのよ」
「そうぞ」
「だったら、どうしてバーバルたちは無事なの?」
「それはぞ。感情ぞ」
「感情?」
「そうぞ、魔石の暴走を抑えるために行っていることぞ」
「そういうことね」
だから、エルフの里で戦ったときにいた彼女たちは魔力が高い代わりに、感情の表し方が一つしかないという、違和感しか感じない人になっていたということなのだろう。
でも、さらに疑問があった。
「じゃあ、バーバルはどうして普通なの?」
「それは、ワイにもわからないぞ」
「そうなの?」
私はバーバルの方を見ると、シバルが心配そうにバーバルを見ていた。
バーバルは、少し照れながらも言う。
「わたくしのことは、最高傑作だと言っていましたから、もしかしたらそのせいではないでしょうか?」
「そうなんだ」
「はい…だからこそ、そのことも含めてごしゅ…メイニアに聞こうと思っています」
「それがいいわね」
「ええ」
吹っ切れたように言うバーバルは、言葉にもどこか自信と何か変化が見えた。
そこで、私は思い出す。
「そういえば、あの暗号ってなんだったの?」
「そうぞ。ワイも忘れていたぞ」
今更ながらに、思い出す。
すぐにジーニアスはメモを見る。
一瞬言葉につまったジーニアスのことがじれったくて、私は横からメモを覗き込む。
書かれていた内容に、安堵した。
「なーんだ、そんなことね」
「なんぞ、心配じゃないのかぞ」
「大丈夫よ。ただしならね」
書かれていたのは、私たちと同時にジーニアスの研究所を襲い、例のアイテムを奪うことだった。
研究所には、今心配なただしがいる。
でも、シバルが成長した今、私たちのことをいつもヘンタイな恰好で、どこかかっこよく救ってきたただしのことを信用しかしてなかった。
だからこそ、私たちがやることは決まっていた。
「追うわよ」
その言葉に三人は頷く。
アシストと、叶は気絶していることもあり、アイラはバリアの中に入れるとメイニアを追いかけ始めた。




