257話
「火よ、相手を焼き尽くす炎となせ、ファイアー」
「全然ボクには効きません」
「火よ、相手を焼き尽くす炎となせ、ファイアー」
「だから、効きませんよ。バーバル!」
シバルは、バーバルから放たれる炎を完璧に防いでいた。
両手による盾によって、片方剣をもっていたときよりも防御力はましていた。
これまでは剣を持つことで、倒さないといけないと最低でも思っていたけれど、シバルのスキルはドエムスキルということもあって、守ることのほうが向いていた。
だからこそ、両手に盾を持つことによって、バーバルの攻撃を完璧に防ぐことができていた。
そのことに気づいたのだろう、バーバルの動きは止まる。
シバルは待っていたかのように前に突撃した。
盾は確かに防御に使うものだ。
けれど、盾と剣を使う剣術では盾による攻撃もある。
その一つが今繰り出そうとしているものである、シールドバッシュの両手バージョンだった。
「火よ、相手を焼き尽くす炎となせ、ファイアー」
接近するシバルに、再度バーバルは炎を放つが、シバルは突進しながらも盾で完璧に防ぐ。
この時点で勝敗は決まっている。
スキルが使えていることもあってシバルの方が優勢だった。
ただ、シバルはこの状況になることを実は知っていた。
だから、バーバルに叫ぶ。
「バーバル!こんなものじゃ効かないって言ってますよね!」
攻撃を防ぎきったシバルはそのままの勢いで近づく。
ただ、そのタイミングでバーバルも魔法を放つ。
「火よ、その炎を火柱にして相手を燃やせ、ファイアータワー」
バーバルの周りに火柱が立ち上がる。
これによってシバルは簡単に近づけなくなるはずだった。
ただ、シバルのスキルはドエムスキルだ。
通常のものと違うということを、感情を失ったバーバルにはわからないことだった。
普通であれば近づけないような火柱。
そこからシバルの盾が出てくる。
バーバルは慌てて距離を取る。
それと同時に火柱は消えた。
「捕まえられませんでしたか…でも、バーバル。あなたとの約束がボクはあるのです。その約束を守るまで、諦めません」
距離を取ったバーバルに再度シバルは近づく。
バーバルをシバルが殴ろうとしたときだった。
そこにいたバーバルは陽炎のように消える。
「火よ、その熱で陽炎を起こし幻影せよ、ヒートヘイズ」
どこかから、その声が聞こえる。
そして、魔力の高まりを感じる。
シバルは、何か魔法が来ることを察知すると、盾を握りなおした。
陽炎が収まったときに、バーバルは手を前にして魔法を唱えていた。
「火よ、火よ、火よ、その炎は降り注ぐものとなりて敵を焼き払う炎となる、終焉の業火を我が召喚する、メテオファイアー」
それとともに、頭上からは隕石のようなものが降ってくる。
ただ、シバルも魔力をしっかりとためていた。
「ボクは、レックスのときに決めましたから…多少の傷はボクにはご褒美。だけど、誰かがボク以外の誰かが傷つくことだけは嫌ですから!」
魔力を隕石に向けて構える。
これまではできなかったことだけど、今なら絶対にできる技。
魔力を盾として、盾の前に作り出すイメージ。
盾に魔力を宿すのではなくて、完璧に魔力の盾として、独立させるイメージ。
シバルはイメージしていた。
思い描くのは、アイラが戦いのときに作っていた、バリアと同じものでありながらも違うもの。
バリアと違うのは、盾と同じように動かせるもの。
そんなものができれば、それは剣術としても奥義となるような魔力を独立させていく。
隕石が降り注ぐ中で、シバルは盾を完成させた。
「ボクがこの盾ですべてを守ってみせるから!プロテクトシールド」
それは持っている盾と同じ見た目をした魔力の盾。
隕石は盾に当たる。
ただ、盾は壊れることもなくそこにあって、シバルもしっかりと立っていた。
「さあ、バーバル。観念してください」
シバルはその言葉とともに、ゆっくりと近づいていく。
バーバルは後ずさりをしながらも魔法を唱え続ける。
「火よ、相手を焼き尽くす炎となせ、ファイアー、ファイアー、ファイアー…」
連続する炎をシバルは盾で完璧に防ぐ。
バーバルは近づかれないようにするために、必死になって魔法を放つが、シバルは一歩ずつに近づいていく。
ただ、魔法の連続使用しすぎたバーバルは、急に頭を少し押さえてふらつく。
「バーバル!」
シバルは慌ててバーバルに近づく。
バーバルは無意識に手を伸ばし、シバルはそれをつかんだ。
一瞬ビクッと体を震わせるバーバルの体をシバルは抱きしめた。
「バーバル!バーバル!」
「…」
「バーバル!バーバル!」
シバルは呼びかける。
それにこたえるかのように、バーバルはゆっくりと口を開く。
「シ、バル…わか…いるでしょ…こうな、たら、わた…くしを…」
「わかってます。だからこそ、ボクは強くなったのです」
バーバルのこと。
その違和感について、シバルはバーバル自身と、それに気づいていたヤミから聞いていた。
ヤミが言っていたのは、あやつは人間としては違う存在じゃぞと言っていた。
バーバル自身は、わたくしがおかしくなったら、その手で殺めてほしいということ…
だけどシバルはそうしない。
なんでなのか?
それは、守る力がついたからだった。
ドエムスキルは、確かに自分を痛めつけること、傷つけることで効果を発揮するものではあったけれど、ドエムであるからこそ、ほかのメンバーの痛みを全部自分で引き受ける。
それができないのなら、ドエムとしてシバルは隣でみんなと笑うことができないのだと考えていた。
「アイラ様でもない。ボクがなんとかしてみせます」
そして、シバルは魔力を込める。
守るために…
うまくいくかはわからない。
シバルはそう考えていた。
だけれど、シバルの魔力は特異なものだった。
普通であれば、修道女魔法でない限り、魔法の属性というものがある。
でも、シバルはないからこそ、無属性の魔力を纏った剣で斬ることで、すべてのものが斬れる魔法剣をつくることができた。
無属性の魔力。
それは、アイラが使っているホーリージャベリンと違うけれど同じことができた。
魔力剣。
シバルはそれを、体を伝ってバーバルの体に作り出す。
体の中、これまで会っていたことと違う魔力の流れを魔力剣で斬った。
そして、シバルは集中力が途切れてしまったのか、力が抜ける。
ただ、その体はバーバルによってしっかりと抱きしめられていた。
「わたくしのこと…助けなくてよかったのに…」
「嫌です。ボクはそんなことを望んでませんから!」
「アイラの騎士じゃなかったの?」
「アイラ様の騎士です。でも、バーバル…あなたとボクは仲間ですから」
「そっか、そうよね」
「はい」
「だったら、その…助けてくれてありがとう」
「はい」
シバルとバーバルは二人で笑いあう。
その光景を見ながら、アイラはゆっくりと二人に駆け寄ったのだった。




