254話
「何をしておるのじゃ」
「ちょっと、肉体美を見せるためにな」
「なんじゃ、ヘンタイすぎて頭もおかしくなったのかじゃ?」
「仲間にさすがにひどくないか?」
「そう思うのじゃったら、ヘンタイだと思われないような行動をするのじゃ」
「いや、ちょっと上着を脱いだだけだろ?」
「そのちょっとが、普通の人間がやることじゃないと思うのじゃ」
ヤミにそう言われるが、何が間違っているのかわからない。
だって、俺がやることに必要なことなんだからだ。
ヘンタイスキルを発動するために必要なこと、それは俺自身がヘンタイの思考になることだと思っていたけれど、それだけじゃないことを思いだしていた。
そう、最初のころ…
周りに人が多いときに俺はヘンタイになっていた。
あのときに俺はヘンタイになっていたが、それだけのスキルの強さが決まっているわけじゃなかった。
ヘンタイの恰好をすると、どこか安心する。
普通じゃない思考だけれど、俺はそう思っていた。
それはどうしてなのか?
目の前にいるお姉ちゃんの影響なのだろうということを今は気づく。
普通じゃない恰好をしていれば、俺のことをもうお姉ちゃんが追ってこなくなるということを、潜在的に考えていたのだろう。
だからこそ、ヘンタイになっていても自分が恐怖に思っていてヘンタイスキルが発動していないのだと考えていた。
でも、違う。
俺はヘンタイだ。
もう、慣れてしまってきているので、なんとなくわかるかもしれないが俺はヘンタイなことが好きなのだと再認識した。
じゃないと、真剣にパンツを欲しいなんてことを言わないだろう。
それなのに言ってしまうということは、ヘンタイに俺はなっているとしか考えられない。
だったら、俺がヘンタイスキルを発動するときに一番必要なことはなんなのか…
それは…
「俺はヘンタイだ」
「わかっておるのじゃ」
「いや、わかったのはそれだけじゃない」
「ヘンタイなのを再認識したのかじゃ」
「そういうことじゃないんだがな…」
ヤミの言葉はさすがに酷いと思ってしまうが、俺が再認識したのは確かにヘンタイならどうなるかということだ。
自分がヘンタイになれば、ヘンタイな恰好をすればすればヘンタイスキルが強化されるものだと思っていた。
確かに、それで間違ってはいなかった。
でも、それは俺自分自身がヘンタイだと認識することと、プラスで、周りからどう見られているのかでプラスされるものだということを気づいた。
だから、俺がパンツを被ったところで、見慣れてしまっていたパーティーメンバーでは強化は受けないし、自分自身がヘンタイと思える状況じゃないとスキルも発動しなかった。
だから俺は上着を脱いで上半身裸になったのだ。
といっても、これだけじゃ足りない。
「これももらう」
「お姉ちゃんのパンツ使ってくれるんだ」
「まあ、あるものは使うだけだ」
俺は手に取ったそれを右腕の肘にかけて装着する。
パンツアーム。
勝手に今俺が考えたことだった。
「おぬし…いろいろおかしいのじゃ」
「確かにおかしいかもな」
「そうじゃろうな」
「ただな…」
俺は地面をけった。
ヘンタイスキルを発動していた俺はそのまま相手の一人を殴り飛ばす。
一人を殴り飛ばされたお姉ちゃんは微笑みながらも俺に言う。
「ダメでしょ?お姉ちゃんの可愛い子たちを殴ったらね」
「そう思うなら、まずは自分のことを見直すんだな」
「なんで?お姉ちゃんは普通のことをしているだけだよ。ねえ、正君はお姉ちゃんの一部になるだけなんだから!」
お姉ちゃんは右手を前にやる。
それだけで従えていた数人が俺に向かってくる。
「「火よ、相手を焼き尽くす炎となせ、ファイアー」」
二人が魔法を放つ。
ヘンタイスキルが発動している俺だったが、いつ切れるかわからない状況だということを理解している。
だからこそ、やることはわかっている。
避けるしかない。
俺は炎を避けた。
それを見ながらも、隣にヤミが追いつく。
「おぬし、どうして避けるのじゃ?」
「そんなこと、わかってるだろ?」
「ああ、そういうことじゃな」
すぐに、ヤミは理解してくれる。
そう、ヘンタイスキルは確かに発動している。
でも、これは俺がヘンタイだと自分自身に言い聞かせてなっているものじゃない。
ヤミがお姉ちゃんが少しでもヘンタイだと思っているから発動しているスキルだった。
だから、ヘンタイだとどこかで思わなくなってしまった時点でスキルが消えてしまう可能性が高い。
そんな俺たちを見たお姉ちゃんはどこか面白くなさそうに言う。
「お姉ちゃんをほったらかして、二人でなんでもわかったようになるのはズルいよ」
「だったら、お姉ちゃんのこと教えてくれるかな?」
ただ、俺は言い返していた。
お姉ちゃんは俺のその言葉を聞いて、目を見開いていた。
理由はわかっている。
転生する前からも、彼女はおかしかった。
自分のことをお姉ちゃんと言って、俺のことを聞き、お姉ちゃんは自分のことを話しているようで、話すのは周りのことばかりだ。
そこに自分の本当がない。
今ならそれがわかる。
だからこそ、聞いてほしくないことだと俺は考えていた。
ビクッと体を震わせるとお姉ちゃんは動かない。
俺はこの隙だと思い、ヤミの手を取る。
「どうするのじゃ?」
「当たり前だけど、逃げるぞ」
「どうしてじゃ?」
「嫌な予感がするからだ」
俺のその言葉が終わったタイミングだった。
どす黒い、どす黒い何かがお姉ちゃんの体から出る。
「なんじゃ、あれは…」
「わからないけどな。言った瞬間からおかしかったんだ」
「ここは逃げるしかなさそうじゃな」
「ああ」
俺たちは研究所から逃げ出した。
※
お姉ちゃんと自分で呼んでいる彼女は、自分の中から出るどす黒い何かを我慢できなかった。
自分などとっくの昔に言えるような存在じゃないということを、わかっているからだった。
「本当に、正君は…これだから」
彼女のその言葉は研究所に静かに響く。
声は誰にも響かない。
おかしいということに彼女は気づかない。
彼女は目から涙を流しながら顔に笑顔を貼り付けて、研究所を後にした。




