251話
何か夢を見ている。
俺の元に女性がくる。
どこかで見たことがある女性だった。
不敵にほほ笑む女性は俺に言うのだった。
「ほら、契約しましょう?」
「うわああああああああ…」
「なんじゃ、起き方が騒がしいのじゃ」
飛び起きたところで、そんな声が聞こえる。
そこには、ヤミが俺のことを怪訝な顔で見ていた。
さすがに悪夢を見て起きたなんてことを言う気にはなれなかった。
ただ、俺がかなりの汗をかいているのを気づいたヤミは、飲み物をもってきてくれる。
「寝起きといえば、これを飲むとよいのじゃ」
「これって…」
「なんじゃ?苦手かの?」
「そんなことはないけどな…」
注がれていた飲み物は、香りが完全にお酒だった。
実際に先に飲んだヤミは、飲むという。
「くう…おいしいのじゃ」
まさしくお酒を飲んでいる人の言い方だよな。
この世界では、俺のことは未成年じゃないのか?
俺は、そんなことを考えながら、飲み物を見つめる。
飲もうとしない俺に気づいたヤミは、近づいてくる。
「なんじゃ、わらわが注いだ飲み物を飲めないというのかじゃ?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどな」
「だったら飲むのじゃ。それがおぬしが少しは前に進むために必要なことだと、わらわが思うのじゃ」
何を大袈裟な…
今の状態じゃなければ、そう思っていただろう。
でも、今の俺は何もかもがダメになっている状態だということをなんとなく理解していた。
ヤミも、わかっていて飲ませようとしているのだろう。
俺は意を決して、飲み物を飲んだ。
飲むたびに、どこか体が熱くなるのを感じながらも俺は意識を失っていた。
※
「よお、また来たのか、俺」
「お前は…」
「なんだ?」
「いや…」
そこにいたのは、俺だった。
この感じは、少し前にあったことがあるな。
俺は、力に飲み込まれそうになったときのことを思いだして、またそうなっていることを理解した。
「ここに俺がいるってことは…」
「そうだ。ヘンタイスキルだったか?そんなものはもう使えないぜ」
「やっぱりそうなのか…」
「わかってるなら、わかるだろ、使えない理由がよ」
「…」
理由はわかっている。
それは、ヘンタイとしての興奮をしなくなってしまったから…
いや、そうじゃない。
恐怖が、そしてそれを振り払うための怒りがすべてに優先されるようになってしまったからだ。
俺は誰かに興奮するということもない、ただの恐怖が俺を支配していた。
潜在的に植え付けられてしまった、恐怖と怒りのせいで俺は女性のことを避けてしまっていたというのはわかっていた。
でも、だからこそ…
「どうしたら、俺は変われるんだ?」
「その問いは俺にするのか?」
「どういうことだ?」
「俺は俺だ。その答えは俺にはわからない。どうしてかわかるか?」
「それは…」
「俺はお前だからだ。お前のわからないことが、俺にわかるはずないだろ、同じなんだからな」
「確かにそうだな」
今更ながらに、誰に答えを求めようとしていたんだ。
ここにいるのは、俺自身。
潜在的にいた俺なのだ。
自分に聞いたところで、答えなんか出てくるはずはない。
でも、だったら…
「答えはどうやったら出るんだよ」
「それを考えるのが今の時間じゃないのか?」
「そうだな」
頭を悩ませる。
答えを求めようと考えると、わからなくなる。
でも、答えを出さないと、ヘンタイスキルは発動しないだろう。
俺はただ、悩んだ。
※
一方、体の方はというと、ヤミに見守られていた。
ただしと注いだものは同じ、でもヤミには意味のないもの…
「うむ、落ち着きの酒とはよく言ったものじゃが、こんなことになるとはさすがのわらわも知らなかったのじゃ」
そう、気持ちを落ち着かせてくれるお酒。
これはそういうものだった。
実は、研究所から出る前に、あの少年からもらっていたものだった。
いいにおいがしていたこともあり、ヤミは一口飲み。
美味しいだけのお酒だと思い、それをただしにも飲ませたという感じだったのだ。
「まあよい。こういう時間も、こやつには必要な時間じゃからな」
そんなことを考えて、大きくあくびをする。
どうやら、お酒が回ってきたようだ。
「久しぶりに飲むと、こんなにすぐ酔うものじゃったか?」
ただ、さすがに眠気が急にやってきたことにより、ヤミは不思議に感じる。
そして、違和感がなんなのかすぐにわかる。
「なんじゃ、これは煙なのかじゃ?」
気づけば、薄い煙のようなものが足元にたまっている。
ヤミは慌てて魔力を高める。
ドラゴン化。
体の一部をドラゴンの形にすることができるこれは、魔力が戻ることによってできるようになったことだった。
それによって、翼をはためかせる。
勢いよく風を発生させたことによって、足元に溜まっていた煙は拡散する。
「こういうことが起こるということはじゃ」
「なーんだ、お姉ちゃんが迎えに来たのに、女の人と一緒なんてね」
「おぬしは…」
「ふふふ、お姉ちゃんはお姉ちゃんだよ」
そこに現れたのは、一人の女性。
ただしがこうなっている元凶。
そして、ヤミは状況がよくないことに気づく。
「大丈夫だよ。お姉ちゃんが、今度こそ導いてあげるから」
「面倒なやつとばかり知り合うというのも、一つの才能じゃな」
自分のことをお姉ちゃんと呼ぶ女性は、手を前にやる。
それだけで、女性の後ろから人が前に来る。
「加減はなしじゃ」
ヤミは魔力を高めた。




