25話
「正義が…正義を…わたしの正義のためには仕方ないことなんだ」
「それでも、俺は他人を巻き込むことを許すことはねえな」
「それでも、わたしはもうモンスターを使ってでもあの勇者を倒すことに決めた以上、ここで立ち止まるわけにはいかないんだ!」
「そうかよ…」
俺は下に落ちていたものを拾った。
それを見ていたアイラが言う。
「ねえ、ただしなの?」
その言葉にふっと笑うと答える。
「いや、違うな。俺はただのヘンタイさ…」
そして俺とジークは向かいあう。
構えをとるジークは声を張り上げる。
「くそ、こんなヘンタイにわたしがやられるなどということはありえない。ああ神よ、正義の名の下に、わたしのセイギスキルを強化してあのヘンタイを打ち砕かせよ」
「それで力が強くなるのか?」
「黙れーーーー!変な恰好をしているだけの君とは違うのだよ。わたしの強さは正義の名の下に証明されるものですから!」
「そうなのかよ…」
【いいえ、違うわ。あんな自分の行いを肯定する意味でしか正義を名乗れないようなセイギスキルの使い手じゃ、本当に選ばれたスキルがかわいそうね】
「ふ…確かにな」
「何を一人で喋っている!」
「いんや、たださ、自分の正義を相手に押し付けるだけじゃ、それは正義とは言えないってことだけは覚えておく方がいいぞって思ってな」
「うるさい!わたしの正義は絶対なのだ。そうだ、ほら、先ほどよりも力が湧いてくる!これで、このヘンタイを打ち砕き、わたしの正義を実行する」
「ふ、なら俺はそれを打ち砕いてやるさ」
そして、俺は拾っていたアイラのブラジャーを頭に被る。
その行為にジークは、またわなわなと肩を震わせる。
「ふざけているのか貴様!」
「いんや、俺はいたって真面目だ。知らないのか?これが猫耳ってやつだ」
かなりふざけたようにそう答える。
体がさらに強化されるている俺は余裕をもっていた。
それに対して、ジークは剣を構える。
「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな…」
何度も繰り返し口にするジークを見て、俺も構えをとりながら言う。
「ふ、もう御託はいいだろう。俺がふざけているのかどうかについては、お前の剣と俺の拳をまじあわせればわかるだろ」
「ふっふっふっ…そうですね。わたしの正義が君を砕く」
「いや、俺のヘンタイ度がお前を上回っているから、大丈夫だ」
お互いに視線があい、地面を蹴る。
ジークの技はわかっている。
あのときに使っていた奥義というやつだろう。
俺にだって自分の体に染みついた技というものがある。
本当にいつの間にか覚えていて、すっかり忘れていたはずなのに、どことなく体に染みついていた技。
昔すぎて忘れてしまったはずの技。
「はああああああああ、聖騎士剣術、奥義、ホーリーソード」
「うおおおおおおおお、カイセイ流、二の拳、シューティングスター」
ホーリーソードがどんな技なのかというのはなんとなくわかっている。
この世界でいう魔法と剣術を組み合わせ何かなのだろう。
だったら魔法が使うことができない俺が何をできるって?
拳だよ!
俺にはこれしかないだろう。
でも拳でなら相手を黙らせられるはずなんだ。
それになんとなく思い出した。
胡散臭い男が言っていた言葉。
気の巡りというのが人にはあり、それを使うことにより何かさらなる強さを得るというものだ。
まあ、理屈は思い出せないし、何かそんなことを言っていたような気がするというようなあいまいなものだったけれど、今はそれでいい。
俺はありったけの速度で前にいき、両手を腰で引き絞り、そのまま地面を蹴る。
そして弾丸のように両手を前に突き出した。
こんな感じだったはず、確かシューティングスターは自分を弾丸に例えて相手を打ち砕く技。
「はああああああああ」
「うおおおおおおおお」
そして俺の拳とジークの剣が当たる。
当たった瞬間は互角。
それに対してジークは笑う。
「何をそんなに笑っているんだ?」
「ははははは、わたしの強さは、正義はお前のようなヘンタイに勝てるということを確信したからだ」
そして俺は押され始める。
相手の力が上がっている、それはわかっていた。
「ははははは、どうだわかったか、神に認められたわたしの正義が勝つ!」
それに対して俺は考えていた。
神なんてものは本当に俺のことも考えていないような身勝手なやつだというのに…
俺なんかヘンタイになることを強要されているしな…たぶん…
でも、だからこそイラっとくる。
「神から与えられたか何なのかは知らないが、正義、正義、本当にうるさいやつだな」
「なに…なんだこれは⁉」
「本気をだしただけだ!」
俺は押されていた剣を押し返した。
何もまだ全力でなかったのはお前だけじゃないということだ。
俺のスキルはヘンタイ。
この場の人たちがヘンタイだと認識してくれることでも、さらなる力を得るんだ。
俺はスキルでました力をもって、そのままジークを殴り飛ばした。
「ぐは…」
吹き飛ぶジーク。
といっても、まだ体は動こうとしている。
それを見ていた俺は地面をけった。
「正義マンは寝てろ!」
その言葉とともにジークにとどめの一撃を繰り出そうと距離を詰めようとしたときだった。
黒い穴がどこから吹き飛んだジークを吸い込む。
さっきのやつか?
ど、どうする?
迷っていたときだった。
【しゃがみなさい】
俺はその言葉で地面に滑りこんだ。
次の瞬間には俺の頭があった場所に何かが通過する。
危なかった。
スターの言葉がなければ確実に当たっていただろう。
そして、俺の頭上を飛んでいったものにはどことなく見覚えがあった。
「弾丸か?…」
「ほう、今のをかわすのか」
「誰だ!」
「ふ…その恰好何か面白いスキルをもっているのか?」
「急に出てきたやつに教えられるかよ」
「確かにそうだな。ただ、我らの野望のためにもこいつは回収させてもらう。それじゃあな」
「ま、待て!」
そうして俺たちの戦闘は終わった。
ただ、余韻に浸っている場合ではなかった。
俺は声をかけられる前に森へと帰る。
そして服などを着替えて、少しして森から戻ったのだった。




