247話
「どうして、こううまくいくのかな」
「天才が計画したことたぞ、当たり前ぞ」
「そう言われればそうなんだろうけど、それを言われるとちょっと癪よね」
「でも、これで本線に進めるぞ」
「確かにそうね」
そう、私たちは簡単に勝ち抜くことができていた。
なんでか?
簡単なこと。
シバルとアシストが最強だったからに違いなかった。
私たちは何もしなかったというわけじゃなかったけれど、何もできなかったという方が正しいのかもしれない。
身長の差で、私たちが触るよりも早く触れる二人は、その運動神経をもって私たちが触るよりも早く触ってしまうから、私たちが何もしなくても勝てる状況が続いた。
そして、そのまま予選は勝っちゃったわけなんだけど…
「このまま移動するの?」
「警戒されたら意味ないぞ」
「そうなんだけど、さすがに私たち風邪ひいちゃうんだけど」
「確かにそう言われればそうぞ」
「でしょ?さすがにこんな薄着だとね」
勝ったあとは、マゴスの首都へ移動できることになった。
それも、勝利者特権という感じで、無料で連れて行ってくれるのはいいのだけれど、水中球技の恰好で行かないといけないというものだ。
当然、私たちは水着の姿で向かわないといけなくて、さすがにこんな恰好で行かないといけないの?と思ってしまった。
といっても、ジーニアスの言う通りで、警戒されてしまうと意味がない。
それなら、この恰好でも少しは仕方ないことなのではないのかな。
毒されたような感じになりながらも、私たちは乗り物に乗せられて、移動することになった。
「すごい乗り物」
「車みたいなものだよね。すごい」
「叶はわかるの?」
「うん。叶の世界にも似たようなものがあるからね」
「そうなんだ」
「うん」
乗り物は、ジーニアスが研究所に向かうために乗った地下にあったものと似たようなもので、この乗り物のほうが、少し揺れはマシになったような気もする。
だけど、アシストの方を見ると、うぷうぷと言っているので、さっそく気持ち悪くなったのだろう。
それを見ないようにしながらも、外を少し眺めながらも私たちは首都へつくのを待った。
「あっという間に着きましたね」
「そうね。普通の馬車よりかは速いわね」
「叶たちの世界にあったやつに比べれば遅いけどね」
「そうなの?叶の世界はすごいんだね」
「そうだよ。叶たちの世界には魔力がないからね、それが普通なんだよ」
「なんとなくそれはわかるけど、どんなものかは見てみたいわね」
「そうだね」
叶がそう言ったところで私たちは首都へと降り立っていた。
箒で空を飛んでいたり、私たちが知らない乗り物を乗っていたりと、首都はさらに魔法使いの国という見た目をしていた。
「すごい」
「本当ですね」
「ふふふ、これもワイの研究成果を公開しているからぞ」
「さすがです」
ジーニアスが得意気に言い、アシストが褒める。
最初はわからなかったすごさも、これを見れば本当にすごいということがすぐにわかった。
それほどまでに、魔法使いの国では、私たちが知らないものが当たり前になっていることに驚く。
これは、ジーニアスがさっき言ったことに関係している。
研究所に向かう途中で、揺れる中説明をいくつか聞いていたうちの一つで、それがジーニアスがいくつかの研究を無料で発表しているというものだった。
マゴスでは、魔法研究というものが行われており、私たちセイクリッドにあった修道院を魔法に変えたもの。
魔法学園というものがあり、魔法を使った研究成果というものを、卒業のときに提出するものらしい。
そのあとに何になりたいのかを選んで、次の道に進むというものと聞いた。
ジーニアスのように研究者として、かなり優秀な存在は、特に研究者としての道を進んでいっているということだった。
そして、毎回のように新しい何かを発明しているということだった。
ただ、それも単純なものにしているらしい。
今飛んでいる箒なども、下から見ているだけで、一人一人違うものに見えるのは、それが進化しているからということらしい。
「こういうのがすごいのはわかるけど、共感はなかなかできないかな」
「ボクたちだとそうなのかもしれませんね」
シバルのその言葉で、ただしなら、この状況を喜んでいたんじゃないのかなと考えてしまう。
それでも今はここにいない。
それに、私たちもここで関心だけしている場合じゃない。
この後にもいろいろあるのだから…
「それでは、この中にお願いします」
各町ごとに勝者だけを集められた私たちは、建物の中に入ることになった。
建物の中は、見た目だけで言うと、旅館などの宿泊施設のようだ。
「今日はお疲れ様でした。明日のために英気を養ってください」
その言葉とともに、私たちは解放される。
流れから、明日本線が行われるということで間違いないのだろうけれど…
「怪しいわね」
「アイラ様?どうかしましたか?」
「え?おかしいと思わないの?」
おかしいと感じた私はすぐに警戒をしているが、シバルは私が何を言っているのだろうと疑問に思っているようだ。
どうしておかしいと思っているのか?
それは、私たちがまず水着姿のままだということだった。
普通だったら、こんなところに連れて来られれば、建物に入って最初にやることは着替えだ。
それなのに、ほかの人たちはみんな何も気にすることもなく、案内されながら食事を楽しんでいる。
操られている?
そんな感覚になってしまう空間をおかしいと感じているのは、私だけなの?
叶の方を見ても、シバルと同じように食事に向かっている、これはアシストも同じだった。
ジーニアスならと思ってみると、その場で立ち尽くしている。
私はジーニアスに近寄る。
「ジーニアス」
「!君は大丈夫なのぞ?」
「よくわからないけど、そうみたいね」
「そうなのかぞ…ワイもこれをもっていたから大丈夫だったぞ」
そう言ってジーニアスが見せてくれたのは、一つの指輪。
私がそれを見ても、どういうものなのかはわからないけれど、すごいものというのはなんとなくわかる。
「それはどういうものなの?」
「これはぞ、周りからくる魔力を少し遮断するものぞ」
「ということは、何かの魔法を受けているってことでいいの?」
「そういうことになるぞ。これが魔法によるものなのか、スキルによるものなのかはわからないぞ。魔力が伴っているものということぞ」
「それくらいは私だってわかるわよ」
何かをされているのは、さすがに周りを見ればわかる。
それに、私に効かなかった理由というのも、正直なところわかっている。
なぜなのか?
それは、私がこの何かを使っている人よりも魔力が高いからだろう。
ケッペキスキルがどういうものかわかったおかげなのかもしれないけれど、これまでも多かった魔力がスキルを使うことでさらに魔力が高くなっているみたいで、それで防げている。
スキルがわかると使えるようになるなんて、もっと早くわかるようになっていれば、これまでの苦労もなかったのかもしれなかったけど…
でも、水着っていうふざけたような恰好のおかげでケッペキスキルが発動しているので、こういうのをうまくよければすべてよしと言うって、ミライあたりが言っていたような気もする。
そんなことを考えていても、このままだったら何もできないということはわかっている。
「ジーニアス。私たちは何をすればいいと思う?」
「決まっておるぞ、この何かをやっているものと戦うしかないぞ」
「そうなるよね、やっぱり」
「心配するなぞ、ワイも手伝うぞ」
「そういう問題じゃないんだけどな」
私よりも魔力が弱いといっても、こんなことができるということは、かなりの相手だということ。
それなのに一緒に戦うのがジーニアスだということを考えると、頭を抱えたくなるのは私だけなのだろうか?
「よし、行くぞ!」
その自信満々はどこから来るのか?
疑問を覚えながらも、私は元気に進みだしたジーニアスについていくのだった。




