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魔法使いになれなかった俺はヘンタイスキルを手に入れた  作者: 美海秋
ヘンタイと過去

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244話

【逃げなさい!】

「え?」

【いいから、速く!】

「ただし、行くわよ!」


急にどこからか聞こえた声ながらも、すぐにアイラが反応して俺の手を握って逃がそうとする。

でも、それを目の前にいたお姉ちゃんが許すわけがない。

わかっていた。


「正君!」


もう片方の手はお姉ちゃんに捕まれる。

そして、覗き込んでくる目は、すでに狂気に満ちていた。


「やっぱり、やっぱり、お姉ちゃんの目に狂いはなかったよ」

「なんなの、この女」

「その言葉はお姉ちゃんが言いたいことだよ。正君。お姉ちゃんの約束を忘れてまでこんな女と一緒にいる理由ってなんなのかな?」

「ただし、知り合いなの?」


アイラに手を引っ張られるが俺は、無表情と笑顔を交互に使うお姉ちゃんの顔を見て、体はあのときのように金縛りにあったように動かない。

様子がいつもと違う俺に、アイラはおかしいと気づいてくれたのだろう。


「あなたはなんなのよ」

「だから、お姉ちゃんは正君のお姉ちゃんなのよ」

「そうなの?」


アイラに言われて、俺は首を振る。

いつものなら、綺麗な女性というだけでなびくような俺が、何も言っていないことにさらに違和感を強めてくれたのだろう、アイラはさらに強く手を引っ張る。

それによって、お姉ちゃんから手が離れる。

勢いが強すぎたせいで、俺はアイラの胸あたりに抱きとめられる形になってしまったのだけれど、アイラは気にした様子はない。

それは、どうしてか…


「ただし、震えているの…」


俺はそれに対して、そんなことはないと言いたかったが、考えていることとは違い、体は少し震えていた。

まずいと思ったアイラは、そんな俺をかばうようにして、数歩下がる。

それを見ていたお姉ちゃんは、笑顔で言う。


「やっぱり、お姉ちゃんと契約する前だったもんね。ほかの女の邪魔が入っても仕方ないよね」

「さっきから何を言ってるよ」

「別に、お姉ちゃんは自分で手に入れるから、大丈夫って話をしたかっただけだよ」

「何を…」

「大丈夫、今からお姉ちゃんが迎えに行くからね」


不敵にほほ笑む、お姉ちゃんに全員がどこか恐怖を覚えた。

そして、お姉ちゃんは手を前にやる。


「さあ、可愛い子たち、お姉ちゃんを助けてよ」

「何?」

「囲まれています」

「そんなに警戒しなくても大丈夫。お姉ちゃんの可愛い子だからね」


お姉ちゃんは、その言葉とともに、隣に立っている女性の頬を撫でる。

ただ、女性はどこか生気を失っている。

そんな人たちに周りを囲まれている。

見た目から、すぐにおかしいというのはわかる。

もしかしなくても…


「可愛いでしょ。シリョウスキルっていうの」

「じゃあ、こいつらは生きてないってことなの」

「そうよ。でもね、お姉ちゃんのスキルはどこか特別だって言っていたの」


その言葉の次には、囲んでいた人たちが俺たちに向かってくる。

アイラがすぐに反応した。


「我の前に絶対に通さない聖なる壁を作りたまえ、ホーリバリア」


バリアを周りに展開する。

それによって、死霊たちは近づくことができない。


「アイラ様」

「大丈夫よ。それより、速く離れないと、ただしの様子がおかしいの」

「ただし、大丈夫ですか?」

「すまない」


俺はシバルに肩を貸してもらってようやく立っている感じだった。

昔の悪夢がよみがえる相手。

大丈夫だと思っていたのに、こんなことになるとは思っていなかった。

ただ、このときに俺は忘れていた。

俺のことをずっと心配してくれていた存在のことに…


「お兄ちゃんをいじめたお前、許さない!」

「これは、可愛いお嬢さんだね」

「うるさい。お兄ちゃんをこんなことにした責任をとれ」

「責任はとるよ、お姉ちゃんと契約してくれるならね」

「そんなことはさせない、殺す」

「うんうん、お姉ちゃんを殺してみせてよ」


その言葉と通り、叶はお姉ちゃんに斬りかかる。

ただ、それは多くの死霊によって簡単に防がれる。


「邪魔!」

「そうはいってもね。お姉ちゃんにとっては可愛い子たちなのよ」

「届かないじゃない」

「ごめんなさいね」

「く…」

「叶!」

「大丈夫だよ、お兄ちゃんを苦しめるこいつは叶がやるから!」


叶は力強くそう言って、死霊をなぎ倒す。

ただ、一体、また一体とお姉ちゃんとの間に死霊が来て、距離は届かない。

俺はそこで、おかしいことに気づく。


「これだけの騒ぎなのに、周りに人がいない?」

「ほんとね。どうしてなの?」


そう、これだけの死霊がいるのにも関わらず騒ぎにもならないし、そもそも誰も姿を見ることすらない。

町の中だというのに、ここだけ閉ざされた空間になってしまっているような感じだ。

嫌な予感がする。

どうにかして、ここから逃げ出さないといけないことは頭ではわかっていた。

それでも、体がうまく言うことを聞かない。

その間にも、死霊たちは増えているようで、俺たちをさらに囲むように集まっている。

まずいと思っていたときだった。


「おぬしら、こっちじゃ!」

「ヤミ」

「行くのじゃ、ドラゴンネイル」


ヤミが何かに気づいたかのように、後ろに向かって攻撃をする。

すると、バリンという音とともに、周りの景色が割れた。


「なんだ、お姉ちゃんのお楽しみは今日はここまでかな」

「待ちなさい」

「大丈夫。お姉ちゃんとはすぐに会うことができるからね」


お姉ちゃんはそう言いながらも、死霊の後ろに隠れながらも、割れゆく世界から去っていく。

俺はそれを見ながらも、緊張の糸が切れたように意識を失うのだった。


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