24話
それが俺の視界に入ったときには、すぐにありったけの力でドーレを投げていた。
勢いよく飛んでいったドーレはゴブリンを吹き飛ばした。
本当に襲い掛かろうとするゴブリンがいるとはな。
これは本当にお仕置きが必要だということだろうか?
シバルと鍔迫り合いをしていたジークは、俺が投げた人物を見て、後ろに飛びのくと、驚いたように口を開く。
「な、ドーレ…」
「ふ、そいつがやられたことが意外か?」
「当たり前だろう。勇者とかであればまだしも、お前みたいなヘンタイにやられると思っていなかったのでね」
「そうなのか?でも、事実、そいつはそこでのびているだろう?」
「それはそうですが…」
納得がいかないようで、ジークは何か言いたげだ。
俺はさらに驚いているアイラに向かって着ていたコートを投げる。
ちなみに、下の服はドーレの服を拝借しておいた。
理由はというと…
ばれないようにするためだ!
ジークの鍔迫り合いから解放されたシバルはアイラに駆け寄る。
「アイラ様!」
「シバル…」
驚いている二人には悪いが、ここで俺がヘンタイスキルもちだということをばらすわけにはいかないんだ。
特に、アイラのスキルがケッペキである以上特にな。
コートを羽織ったアイラはこちらを見て言う。
「あなたは…?」
それに俺は答える。
「通りすがりのヘンタイってところさ」
そして構えをとった。
ジークの方を見ると先ほどまでの優男という印象が、あまりなくなっている。
顔には怒りが浮かんでいるのがわかった。
「よくも、わたしの部下を…わたしたちの正義の行いを邪魔するとは…」
「ふ…それは、お前が信じるものが俺のヘンタイに劣っているということだ」
「意味のわからないことを…」
「ふ、それがわからないから、自分だけの正義に酔っているんだよ、お前は!」
「なんだと…わたしは、わたしは…」
「御託はいい、こい!」
そして俺とジークの戦いが始まる。
ジークが剣を、俺は拳をしっかりと構える。
あの時は相手の武器を見ている時間があまりなかったけれど、ジークは大剣を一振り構えるスタイルのようだ。
シバルが普通といえばいいのか、片手剣と盾を使うスタイルと違うというのが今のところの第一印象だろう。
大剣を使うということは、それだけ筋力がある、ということは火力が高いということだな。
それくらいしかわからない。
あとは拳を交えればわかるな!
「はああああああああ」
「うおおおおおおおお」
ジークは上段斬りを、そして俺は右の拳を突き出した。
俺とジークの拳と剣が当たる。
ただ、俺は右手だけでその攻撃が弾けるとは思っていなかった。
だからこそ、右、そして左のワンツーによって弾く。
それでも、ジークはさすがの聖騎士長になっていただけはあったのだろう、弾かれてもそれを逆に利用するようにして攻撃をしてくる。
今度は水平斬りだ。
といっても、先ほどの上段斬りのような勢いはない。
俺は拳をあわせるように真剣白刃取りをする。
「な!だが、その無理な態勢でどこまでもつかな?」
「あまいですよ」
「何、押し返されているだと」
驚いているジークを後目に俺は大剣を押し返していた。
普通であれば押し切られるような攻撃でさえも、ヘンタイスキルを発動している俺には怖いものはない。
完全に押し切ったタイミングで、ジークも距離をとる。
そして、悪態をついてくる。
「くそ、ふざけた恰好のやつにわたしの野望を終わらせてたまるか」
「そんなことを言われても、あなたの野望を俺は知りませんからね」
「それなら教えよう。このわたしの野望は、勇者に変わってこの世界を救うことだ」
「ほう…で?」
「ああ、そのためにもわたしはこんなところで終わるわけにはいかない」
なるほど…
こいつは嫌いなタイプだ。
仕方ない。
俺はまた顔に手をあてて某中二ポーズをとる。
「そのポーズはわたしを煽っているのか!」
「ふ、どうだかな」
「くそが、聖騎士剣術、二の型、十字斬り」
別に煽っているわけではなかったが、それでも怒り狂ったジークはこちらに剣を向けてくる。
名前の通りの十字に斬撃がくる。
それでも俺が慌てることはない。
連続パンチを繰り出す。
それによって十字の斬撃を粉砕する。
「くそ、どうしてなんだ!」
「それがわからないのか?」
「なんだと…お前に何がわかるんだよ」
「ふ、ヘンタイな俺でもわかることなのにわからないと?」
「ああ…わからねえな!」
その言葉とともに、ジークは斬りこんでくる。
先ほどの剣術とは違う、力任せの上段斬り。
俺は手のひらで白刃取りをする。
「くそ…」
「そんな力任せの攻撃じゃ、俺は倒せないよ」
「くそ、くそ、くそ…」
「す、すごい」
「ええ、本当に圧倒しています」
俺がジークを圧倒していることによって、他の騎士たちの士気も上がりだす。
「うおおおおお、よくわからんが聖騎士長を抑えてくれてる。我々も行くぞ」
『おおーーー』
士気が上がった騎士たちが、ゴブリンたちを圧倒し始める。
俺が指揮官というわけではないが、相手の指揮官がジークなので、そのジークが苦戦しているところを感じ取ると、そこはモンスターということだろう。
あきらかに士気が下がり、戸惑いを見せ始めている。
これは俺がジークを倒すことができれば、ゴブリンたちもどこかに去っていきそうだ。
俺は煽るように言う。
「それでどうするんだ?」
「何がだ?」
「このままあなたを倒すことができれば、野望とやらは終わるんじゃないのか?」
「うるせえーーーー」
またジークは剣を振るってくる。
俺はそれを簡単に弾いた。
「うるさい、うるさい。わたしの正義は完璧なんだ」
「はあ、そうかよ」
「そうだ、だから邪魔をするな!」
そしてそんな言葉とともに、剣を振ってくるジークの顔を俺はカウンターで殴った。
「ふべえ…」
スキルが発動しているとしても、しっかりとカウンターで入った拳はジークを吹き飛ばす。
それでもさすがは聖騎士長というものだろう。
吹き飛ばされながらも態勢を立て直すと、地面に剣をついてとまる。
「くそ、わたしの正義が…」
「あー、もう面倒くさい。」
「なんだと」
「その正義とやらが、他の関係のない人を巻き込んでいる時点で俺はお前を許さねえ」
「何を…変な恰好をしているお前にそんなことを言われたくない」
「だったら言わせないでくれますかねぇ?こんな格好のやつに言われないように、誰にでも納得できる正義をもてよ」
「うるさいうるさいうるさい」
そう言葉にして、ジークはまた剣を構える。
何度やっても同じだというのに…
ただ、その構えには先ほどよりも切羽詰まった何かを感じた。
俺はあるものの近くに少し動きながらも、ジークから視線は外さない。
この戦いの終結が近いことを俺は感じた。