237話
「ラッキーでしたね」
「はい、ただしのおかげですね」
「まあ、こういう展開は予想できなかったけどな」
「いいじゃないの、ただしは協力してあげれば」
「そうするか」
俺はそう返事をしながらも、マゴスに入るための結界に入ることに成功した。
どうやら、本当に少年はマゴスの中でもかなり重要な人物らしく、顔パスである程度簡単に通してもらった。
それにしても、便利なものだ。
入る前に説明を受けたのだが…
「マゴスの結界というのは、ワイが作ったものじゃないんだぞ」
「それでも、原理はわかるってことなのか?」
「もちろんだぞ。ワイは、結界を作った一族の生き残りだからわかるのだぞ」
「まじかよ。普通に重要人物じゃないかよ」
「だから、言ったんだぞ。ワイは天才だと」
自信満々に言う少年の名前は、ジーニアス。
そして、迎えに来た女性はアシストという名前だそうだ。
ジーニアスの祖先が作ったのが結界ということで、結界のことをわかっているからこそ、どうやれば入ることができるのかもわかるらしい。
基本的に、魔力がある人はマゴスの近くである町によって、通行証をギルドで発行してもらうことができれば入ることができるらしい。
魔力を通すことで、通行証の効力が発揮されるらしい。
これで、アイラたちの魔力がある人たちは大丈夫だが、俺と叶、そして特殊なヤミに関しては入ることが難しいはずだった。
そこで活躍したのが、俺たちが最初に出会ったときに使っていた。
迷彩服。
名前はキャモと呼んでいるそれを使って俺たち三人を隠すことで、なんとか入ることができた。
ちなみに、このキャモはしっかりとアーティファクトが使われているらしい。
それを可能にしたのは、ジーニアスのスキルによるものだった。
クラフトスキル。
それがジーニアスがもっているスキルらしい。
いろいろなものを作れるスキル。
戦いのときでも、いつでもかなり使えるスキルだ。
まあ、俺ならもっといい使い方を考えるけどな。
例えば、透視ができる眼鏡とか、簡単に風を起こせるものとか、あとは小さくなる光線を出せる武器とかな…
決してやましいことに使うわけじゃないけどな。
「ぐは…」
「ただし?」
「どうかしたのか?」
「絶対話聞いてなかったでしょ?」
「話か?聞いてたぞ」
「だったら言ってみなさいよ」
「いや、それは…」
ここで聞いていないとは言えない俺は、頑張って思い出そうとする。
なるべくあれをやるしかない。
流れ聞き、呼び戻しだ。
会社員時代に培った力。
話は半分以上聞き流しながらでも、ある程度のことを理解しているいつものやつ。
何を言っていたのかを、少しだけ思い出す。
確か、ここからどこに行くのかという話をしていた感じだったはずだ。
ジーニアスとアシストの二人はついてこいというだけで、ここからどこに向かうのだろうと不安な話し合いだったはずだ。
これで正解なはずだ。
「どこに向かうかわからないから、気になるって話だったよな」
「え?全然違うんだけど…」
「まじかよ…」
間違ったというのか?
というか、このタイミングで、その話以外にどんな話をするというのだろうか?
そんな俺の疑問は、アイラの冷たい言葉で違うことがすぐにわかった。
あれ、違ったのか?
焦る俺に対して、アイラは冷めた目をしながら言う。
「絶対に聞いていなかったでしょ?」
「いや、聞いていたぞ」
「だったら?言ってたことわかるでしょ?でも、さっき間違えたよね」
「く…どうやったら俺は正解を当てられる」
「ちゃんと話を聞いていればよかっただけでしょ!」
「ただし…さすがに話を聞かないのはダメですよ」
「すまない」
「ちょっと、シバルにだけじゃなくて私にも謝りなさいよ」
「あ、うん」
「ちょっと、謝りなさいよって、言ってるでしょ」
アイラが怒っているのを目の端で見ながらも、シバルに話しかける。
「シバル。それで、どういう話をしてたんだ?」
「えっと、いろいろなアイテムがある場所に連れていかれるという話だったんですが、どんなアイテムがあると思うと聞いたんですが…」
「そ、そっちか…」
「はい。ただしは先ほども話が少しでも合った様子だったので、何があるのかわかりそうなのではと思いまして」
「確かに、わかるかもしれないけどな」
「本当ですか?」
「ああ…でも、それは見ればになるぞ」
「どういうことですか?」
「普通に、俺がわかったのは、アイテムを見たからだからな」
「それは、わかりますよ。それと同じようなものがあるのではと思ったのですが」
「ないな。だって、箒に関しては、感で話してただけだからな」
「それでわかるのだったら、大丈夫じゃないんですか?」
「でも、適当に言ってあたらなかったら大変だろ?」
「そうですが…」
「だから、見るのを楽しみにしてたらいいんじゃないのか?」
「確かに、そうなのかもしれませんね」
俺とシバルが、納得したところで前を歩いていた二人が足を止める。
前に見えたのは大きな家だ。
ウッドハウスという感じの木の家。
小さいというわけでも大きいというわけでもない。
この家で今まで見た発明がされていたというのだろうか?
いや、普通によくない予感がするな。
「ついたぞ」
「この家でいろいろなものを作ったの?」
「そうだぞ、天才のワイは場所を選ばないんだぞ」
自信満々に言うジーニアスに対して、俺はさすがに反論する。
「どう考えても、地下か空に部屋があるとかだろ?」
「ほう、どうしてそう思うのだ?」
「簡単だ。こんな狭いところじゃ開発とかできないからな。最後の実験くらいなら、これだけ何もない場所のほうがいいかもしれないけどな。開発は違う場所でしているってのが自然な考え方だ」
「は!さすがはワイと同じ思考を持つ男だ。研究所の秘密をすぐに気づくとは」
「察しがよかったら、さすがに気づくだろ…」
「確かに、家に入れば気づくこともあるとは思うぞ。でも、外から見ただけでそれに気づくとはなかなかぞ」
「それは…」
ここから木の家の窓が見えるのだが、そこから見える景色が、何もないからだ。
いや、何もないと言えば聞こえは悪いけれど、開発なんてできるわけがないだろうと思ってしまったのだから、仕方ない。
ただ、俺がこうやって気づいたことで、ジーニアスはさらに上機嫌になる。
「やっぱり、面白いぞ」
「そりゃどうも」
「助手第二号は、決まりだな」
「ま、待ってください、ジーニアス様」
「どうしたぞ、アシスト?」
「ジーニアス様の助手には、このアシストがいるじゃないですか」
「でもな、アシスト。ワイの研究にはここからさらにいいものを作るためには必要なことなのぞ」
「それはわかっています。ですが、出会ってすぐの人に手伝ってもらうようなことではありませんよ」
「だが、ワイの研究のことを理解できるものでなければ、そもそも意味ないんだぞ」
「そうなのですが!」
アシストはそう言いながら、俺の方をキッと睨む。
アシストが来てから、俺がジーニアスと話をすると、どこか睨んでいるように感じていたけれど、どうやら気のせいじゃなかったみたいだ。
ジーニアスが俺のことを助手にしたいという話をしているときからすごい睨んでくるんだよな。
さすがに、これだけ睨まれて、喜んで引き受けるというのも言えない。
それに、何をするのかを聞かないとできないしな。
「不安そうだぞ」
「当たり前だろ、急に助手になれとか、研究を手伝えとか、かなりおかしくないとできないだろ」
「いいんだぞ、ワイの発明がわかるというのは、それだけですごいことだからなんだぞ」
「そんなに優秀なら、わかるだろ。俺にだってやることはあるんだ。マゴスに入れてもらえたことは助かったけどな、やることがあるんだ」
「なんぞ、重要なことなんだということは、目を見ればわかるぞ」
「だったら…」
「だからこそぞ、ワイの研究を手伝えばこいつをやろう」
そう言って、ジーニアスが取り出したのは、木の箱。
どこか見たことがあるそれは…
「あれはわらわの」
「まじかよ」
「これが、研究の報酬ぞ。君らには必要なものぞ」
「確かに必要だな」
ヤミがすぐに反応したことからわかるように、あれはヤミの力が封印されている箱に間違いない。
なんとなく見たことがあるものだと思ったけど、あれが報酬とはな。
これは、話だけでも聞いたほうがよさそうだ。
俺はジーニアスに向き直ろうとしたところで、叶が逆にジーニアスを睨む。
「お兄ちゃんの必要なものなら、叶がとってこようか?」
「殺気ですか?」
ただ、その視線からかばうように、アシストが叶とジーニアスの間に入る。
睨み合う二人。
俺は叶にチョップする。
「イタ。お兄ちゃん、痛いよ」
「痛くしたんだ」
「なんで、そんなことをするのよ」
「だってな、話を聞いてからでもいいだろうと思ってな」
「でも、今力尽くでとっても別に大丈夫じゃん」
「確かにそうかもだけどな、この国にいるバーバルにも会いたいんだ、こんなところで無駄に争いを起こしたくないんだ」
俺の真剣な瞳を見て、さすがの叶もすぐに反省する。
「うう…お兄ちゃんが、そういうのなら仕方ないけど」
「ああ、だからまずは話を聞かないとな」
俺はそう言いながらも、叶の頭をポンポンとする。
叶から、うへへへと少し気持ち悪いような声が聞こえているような気がするが、気のせいだろう。
「ようやく、話がまとまったか?」
「ああ、とりあえず話を聞かせてくれ」
「よかろうぞ。ワイの研究所へ、ようこそぞ」
俺たちはそうして木の家に入ることになった。




