232話
「アイラ、もう少し魔力をうまく使えないの?」
「ミライみたいに、私は器用じゃないの」
「だからって、多くの魔力を使うだけ使って魔法を行使するのも違うと思うけど…」
「でも、いざとなったときに、魔力が多くて困ることはないでしょ?」
「そうなのかもしれないけど、魔力だけじゃどうしようもないこともでてくるんじゃないの?」
「確かにそうなんだけど…」
「アイラも、スキルがわかればいいのにね」
「そうね…」
ミライと昔、魔法を練習していたときに言われたことだった。
確かに魔力を多く使うことで、私は魔法を使っていた。
そのおかげなのかは、私にはわからないけれど、修道女魔法も歴代最年少で、ホーリーと名前が入っている、聖修道女魔法を使えることになった。
魔力が多いからこそ、使えたことだと、私自身もわかっている。
懐かしい記憶。
私のスキルが何なのか、わからなくて、それでも純粋に魔力で強さをなんとかできていた。
でも、限界はいつかやってくるというのを、どこかでわかっていた。
「スキルが何かわかればいいのに」
「表示できないスキルだもんね」
「そうなのよね」
「でも、スキルがわかっても絶対にいいとは限らないけどね」
「それは確かにね。ミライはそのせいで、今はしがらみが多くなっちゃったもんね」
「本当にね。こうやって、アイラと会える時間も少なくなっちゃったし…」
そう、ミライはスキルがヨチスキルということもあって、セイクリッドでは貴重な存在となっていた。
それでも、こうやってたまに私に会いにきているのは面倒なことから逃げるという時間を少しでも取りたいからと話していた。
後は、私自身も特別な存在だということを知っていたからという話らしい。
でも、私は魔力が多い以外に特別なところはない。
スキルも自分自身でわからないのだから、余計にそう思ってしまう。
それでも私は、特別扱いを受けていることをなんとなく気づいていたからこそ、もっと成長しなくちゃいけない。
そう思って焦り、焦れば焦るほど、スキルがなんなのかわからなくなっていたのを覚えている。
ここで考えていたのも迷惑をかけないということばかりだった。
そして、自分自身が変わるということ。
誰かのために…
「遠慮しているんですか?」
「どうして、そう思うの?」
「だって、アイラ様は、そんな方じゃなかったですから…」
「何を言ってるのよ、シバル。あなたは別に私と出会ってそんなに立っていないでしょ?」
「そうですが、あの時と違いますから」
「確かにそうね」
シバルと出会ったのは、騎士と修道女の合同訓練によるものだった。
騎士と修道女は定期的に、国にいる優秀な人どうしで、行うことがある。
そのときに、二人で乗り越えた試練のようなものを共有できた私たちは、次は勇者の付き人として、出会うことになった。
そんな私にシバルが言った言葉が先ほどのことだった。
遠慮している。
何を言っているのだろうかと思ったけれど、そのあとにあった勇者の夜伽の相手をするというのが嫌すぎた私は、勇者パーティーから抜けることになった。
そのときも、実際に考えていることは違っていたのかもしれない。
私が夜伽の相手をしてしまえば、その次にはシバルが夜伽の相手をしなくちゃいけない。
だから、私が先に断って…
そうすれば、なんてことをどこかで考えていた。
それは、言い訳で、自分自身で決めないようにしていたというべきか、自分のやりたいことを我慢していた。
だって、夜伽の相手なんか嫌だったけど…
それなら、勇者が全裸になった状態でホーリバリアに閉じ込めておけばよかった。
私だったら、そうしてたのに…
今思うと、ずっとどこかで我慢していた。
だったら、我慢するのをやめる。
私は体に力を込める。
遠くにシバルの声が聞こえる。
ああ、本当に私は情けない。
あのときからずっと、今さっきだってどこかでただしのことをみんなのことばかりを考えていた。
私のやりたいようにやれていない。
私自身が嫌だ。
私が嫌い。
そんな私を否定したい。
「シバル、うるさいわね」
「ア、アイラ様!」
「だから、抱き着かないの!」
起き上がった私に、シバルは目一杯の勢いで抱き着いてくる。
そのシバルを引きはがそうとするけれど、シバルの力はどこから湧いてくるのかというほど、力強い。
それに、どさくさに紛れて、私の体のいろいろな場所を触っていることも気づいている。
すぐに私は頭をチョップする。
それもシバルが離すまで、何度でも…
「イタ。痛いです、アイラ様」
「だったらやめなさいよ」
「だって、アイラ様が起きたのが嬉しくて、仕方ないことです」
「それに関しては、私も心配かけたって思ってるわよ」
だからって、体がべたべた触るのは違うと思うのだけれど、それをシバルはわかっているのだろうか?
どこか尻尾を振るような嬉しい顔をしているので、わかってないんだろうな。
まあ、今はシバルのことはどうでもいいんだった。
私はやりたいようにやる。
嫌いな私にならないために…
体の中に魔力がさらに湧いてくるのがわかる。
「これが、私のスキルね…」
ちゃんと自分で自覚できるようになったのはこういうことだったんだ。
ケッペキスキル。
これまでは不潔だと思うことに対してケッペキスキルが発動してたんだと思う。
ただしの姿を見て、どこか力がわいたのも、ケッペキスキルが発動したからなんだろう。
で、今は私自身のこと正そうとしていることに対してケッペキスキルが発動してるってことになるんだね。
「アイラ様?」
「何?」
「アイラ様の本気を見せてください」
「任せて!」
私は本気でやるって決めた。
これまでの私自身を正して、新しい自分になる。
「はああああ!」
私はスキルで強化された魔力を解放する。
遠慮なんかしない。
誰かのためじゃない。
自分のために!
弱いって言われたままじゃ嫌だもんね。
上がった魔力に気づいたドンが私に気づく。
「おいおい、どうなってる。その魔力!」
「そんなの決まってるでしょ、私自身が変わったからよ」
「変わっただと?それだけで魔力が上がるわけが…やっぱり、あいつの仲間はおかしいやつばかりなんだな」
「そう思う?」
「ああ!だからこそ、オレの技をぶつけるに相応しいっていうのかこのやろう」
「きなさいよ!」
「おいおい、どういう展開だ、これ…」
先ほどまで戦っていたザンが頭を抱えるが、それを無視してドンは巨大化する。
これまでよりもさらにドンは巨大になる。
そしてその巨大な拳が振り下ろされる。
「いくぞ!巨人の一撃!」
「我の手に、守るための聖なる力を与えよ、ホーリージャベリン」
「は!そんな細い槍で何ができる!オレをさらに怒らせたいのか!」
「ふん、私は別にそんな気はないわよ。だって、私の力はこんなもんじゃないんだから!」
槍に魔力を注ぐ。
これまで我慢していたものを解き放つ。
「はああああ」
「は!槍が巨大化するだと!」
「私の魔力をなめるんじゃないわよ!」
魔力を受けた槍は巨大化して、そのままドンを包み込む。
光が辺りを包み、ドンが吹き飛ぶ。
「く、いいじゃねえかよ」
「それはどうも」
「は!オレをやりな」
「それはやだ。だから、ここにいなさい。我の前に絶対に通さない聖なる壁を作りたまえ、ホーリーバリア」
バリアによって、ドンを囲む。
これで、こっちはどうにかなったわね。
「叶、ごめん…遅くなったわね」
「何?覚醒しちゃって…でも、お兄ちゃんが見てる前じゃなかったから、叶はべつ…」
「叶…ありがとう。我の周りを聖なる光にて癒しを与え給え、ホーリーヒール」
さすがの傷によって気を失った叶に回復を施す。
回復をしながらも、ヤミたちの方を見る。
そっちではまさに、ピエロがウレを倒しているところだった。
「どういう原理なのか、わからなくてごめんなさい」
「いえいえ、簡単にわかるようでしたら、わたくしめが準備をした意味がありませんからねえ」
「だったら、準備不足でごめんなさい」
「そういうことでしたら、その言葉を受け取りましょうかねえ」
その言葉とともに、ウレを拘束した。
なんとかなった戦いに、私たちはようやく終わったことに安堵しながらも、もしただしがあっちでパンツなんかを被っていたとすれば、私は一発殴らないと気が済まない。
そんなことを思いながら…




