231話
キツイ。
私はそう感じていた。
人数の差は圧倒的に私たちが有利だというのに、戦況はキツイと感じる…
その理由はわかっている。
相性がかなり悪いというべきか、私たちの使える能力を知っていてここにいるというのがよくわかる。
ずっと怒りながら剣を振るっているドンの攻撃は、体や武器の大きさを変えるもので、攻撃が範囲が読めないし、攻撃を防ぐために、幾度か私もバリアを張ってはいるけれど、それも破らてしまう。
「魔力の差っていうのを理解したか?」
「何を!」
「わかっているんだろ?魔力が少ないということはこういうことだろ!」
「我の前に絶対に通さない聖なる壁を作りたまえ、ホーリバリア」
「無駄だって言ってるだろ!デカくなれ」
大きさを変えた剣によって、私が作ったバリアは簡単に破壊される。
「ぐ…」
「なんだ?魔力の使いすぎで、頭が痛くなったのか?」
「だったら、なんだっていうのよ!」
「は!これだから、脆弱なやつらは!ご主人様に改造してもらえればいいのによ」
「そんなこと…」
痛みが走る頭を押さえながらも、私はドンの攻撃を避けるために動こうとするが、自在に武器の大きさを変えられるドンには、意味がない。
ただ、そのタイミングでシバルが盾を構えて私の前に立つ。
「シバル!」
「任せてください、アイラ様!」
「あっちは大丈夫なの?」
「はい」
大きくなった剣を防ぎながら、言うシバルのことが気になってもう一人の方を見ると、そちらではヤミが戦っている。
さすがは魔王ということだろう。
ある程度の攻撃は簡単に防いでいる。
その合間を縫って、エルがゲートを作ろうと試みているが、それをウレが毎回破壊している。
「くそ、ゲートを毎回破壊しやがって、面倒くさいんだよ」
「そ、そんな怒られると悲しいのです。でも、やらないといけないことなんです、すみません」
そんな言葉とともに、空間に黒い何かが現れて、そこに亀裂が入る。
その瞬間に一瞬強風のような、風がその黒い何かに向かって吹く。
まるで、黒い何かに吸い寄せられるように…
かなりの勢いなので、一瞬とはいえ、体の態勢が崩れるのもあるが、そのせいでヤミも攻撃はウレに当たっていない。
エルも、スキルが通じないことに苦虫を嚙み潰したような顔をしている。
といっても、いくつか普通の魔法も放ってはいるが、これまでのバーバルの魔法を見てきたせいか、威力が弱いとどこか感じてしまう。
「よそ見とはいい度胸だね!」
「アイラ様!」
「く…」
ヤミたちの方を見ていたこともあって油断していた私は、シバルの動きをちゃんと見ていなかった。
私を守るようにして防御をしてくれていたシバルだったけれど、逆にいえば、ちゃんと動けない私は狙われる対象でもあった。
だから、気づいていなかった。
ドン事態が大きくなっているということに…
気づいたときには、私はなんとか体制を変えて攻撃をよけようとしたが、それを範囲という形で上回ってくる相手の攻撃にさすがのシバルも自分を防げるが、後ろまで攻撃の範囲があったせいで、油断していた私はその攻撃を受けた。
地面を転がる私に、ドンは言う。
「戦場は戦うところだ!よそ見をしているやつなんて、いらないんだよ」
「だったら、叶のこともしっかりと見ておいてよね」
「く!魔力がないから気づくのが遅れるなんてことを、オレが言うと思ったのか?」
「そうね。でも、少しは傷がつくでしょ!咲き誇れ、華」
「今のままなら当たるな」
「そうでしょう?」
叶は大量の刃を出現させる。
これで、多少なりともダメージが入るだろう。
そう思っていたのに、次の瞬間にはその場にドンはいなかった。
「そういうことね」
「は!察しがいいのはいいが、手負いで一撃が入らなかったなら、もう意味はないだろ?」
「叶!」
「叶のことはいいから…」
「そういうわけにはいかないでしょ」
「は!間に合うかな!」
叶の攻撃を体の大きさを変えることで避けたドンは、そのまま負傷によって動きが鈍っている叶に攻撃を仕掛けようとする。
私は体を起き上がらせるよりも先に手を伸ばす。
「なんとかするにきまってるでしょ!」
「アイラ様」
「私は大丈夫だから!我の前に絶対に通さない聖なる壁を作りたまえ、ホーリバリア」
頭に大きな痛みに耐えながら、なんとかバリアを叶の頭上に作る。
「そんなもん、一撃で破壊できるぞ」
「く…」
もって、いけるでしょ、私の体。
ただしがいないんだから、私がやらないといけないんだから…
「はああああ!」
「おらあああ!」
なんとか防ぎきったことを目の端でとらえながらも、私の意識は途切れた。
※
「アイラ様!」
シバルの声が響く。
アイラは気を失ったのか、地面に倒れている。
「今のを防ぐなんてやるな」
「シバル、アイラを!」
「でも、師匠」
「いいから!」
叶はシバルをアイラに向かわせる。
といっても、叶も傷が治っているわけでは全くない。
動くたびに少しの血がでている。
「は!そんなになっても戦うとか、とどめを刺されてもオレには怒るなよ」
「叶は、そう簡単にやられませんよ」
「そうだといいな」
手負いの叶とドンが戦う中で、シバルはアイラを抱きかかえる。
「アイラ様!アイラ様」
声をかけるが、目を覚ます様子はない。
そのタイミングでもう一つの戦いのほうでは、大きな黒い球体がウレの頭上にできていた。
「なんじゃ、まずいものじゃな」
「あたいのゲートでも、防げそうにないよ」
「ごめんなさい、悲しいけど。少しは活躍しないと、ドンちゃんに怒られるのは嫌だから」
「どうするのじゃ」
「あたいに聞かないでくださいよ」
このままでは、どちらもまずい。
シバルはそう考えてアイラを連れてどちらかの加勢に向かおうとしたときだった。
「こういうときには出番ですねえ」
「ワシも少しはやるしかないか」
その言葉とともに二人がこの場にやってきた。
そして、ピエロはうやうやしくお辞儀をする。
「さてさて、わたくしめのマジックをお見せしましょう。種も仕掛けもございますからねえ」
ピエロのその言葉によって、黒い球体が消える。
「ごめんなさい。でも、どうやったの?せっかくの成果を上げられるチャンスだったのに、悲しい…悲しい」
「こちらこそ、計画を壊してしまって、すみませんねえ」
「ピエロ…」
「いつもの、生意気な感じはどこにいったんですかねえ」
「う、うるさいんだよ。あたいだってうまくいかなったら、こういうときだってあるからな」
ピエロが来たことによって、エルの元気が戻る。
そして、叶のもとにはザンがやってくる。
「ワシが斬る」
「は!オレの魔力より低いから、意味ないだろうがよ」
「なるほど…」
「わかったか?」
「でも、確かに斬ることは今のワシにはできませんね。ならはじくまで」
その言葉の通り、ザンはドンの攻撃を弾く。
大きくなった剣や、拳、足など関係もなくはじく。
ただ、逆にいえばはじくだけで、ドンを攻撃するということは、まだできていない。
それでも戦況が変わったのは、確かだった。
だからといって、このままでは魔力が多い方が勝つ可能性が高い。
それはみんなわかっていた。
何か手はないのか…
そう誰もが考える。
そんなときシバルがぐっと握りしめたアイラの手が少し動くのを感じたのだった。




