230話
「どうして、我より速く動ける!」
「いや、動いてはいない。ただ、力を利用しただけだ」
「そんなことが…」
紐を使って、避けるタイミングで紐を生き物のように扱って手に引っ掛ける。
そして、勢いをうまく使ってそのまま手を縛り、流れで亀甲縛り風にイワウを拘束する。
やったことはないが見たことがあった程度だったので、うまくできているのかわからないが、それでも拘束したイワウの胸が動くたびにぽよぽよと揺れているのを見ると、うまくいったと考えることにした。
【ヘンタイ】
「ヘンタイですね」
「く…エメに言われると、さすがに傷つくな」
【え?あたしは?】
「いや、特に、何も…」
【イライラさせるわね】
「だってな…」
こちらの戦いも終わり、のんきにそんな会話をしていると、切羽詰まった声が聞こえる。
「ちょっと、僕のほうを助けてくれませんかね」
「あなたを倒して、ラクももっと楽しみたいの」
切羽詰まった声の主は、完全に忘れていたが、イルだ。
ブンシンスキルを使うことで、うまくラクの攻撃をかわしている。
そんな姿を見て、俺は声をかける。
「頑張れよ!」
「頑張れよ、じゃないんだよ」
「いや、だって俺は別に男を助けたくないからな」
「く、確かに女性用の下着を被っている男が言ったら説得力がある」
「そうだろ?だから、頑張れよ」
「く…」
イルはなんとかブンシンスキルを使って攻撃を絞らせないようにしているが、相手も笛の音で操っている悪魔と、その合間に攻撃してくるラクの攻撃もしっかりしのいでいる。
これだったら、基本的には大丈夫だろう。
普通の攻撃に関してにはなるが…
「ああ、もうじれったいですね。ラクも楽しみたいというのにこのままじゃ楽しめませんね。いきます。音色、カマイタチ」
「ま、まじですか!」
イルが驚くのも無理はなかった。
音の衝撃によって魔力の斬撃がうまれた。
それはまさしく剣で乱舞に切り裂いたような斬撃で、範囲もかなりあるからブンシンスキルで避けることも難しいだろう。
「いや、さすがにまずいですって!」
イルは慌てているが、俺はヘンタイスキルであることを感じていた。
だから助けることもせずに、それを見ていた。
すぐにそれはやってくる。
そして、カマイタチを颯爽と現れた彼女はスカートを翻すかのようにして相殺する。
「ふふ、わたしの部下を殺されるのは少し困りますからね」
「すみません、エンド…」
現れたのは、改造メイド服に身を包んだエンドだ。
ヘンタイとして、女性が近づいてくることを感じることができないなんてことになるのはダメだからな。
だから、エンドがここにきているということはわかっていた。
イルは素直に謝るが、エンドは笑う。
「いえ、ただ…力の出し惜しみはいけませんよ」
「はい」
「それでは、わたしが相手をしましょうか?」
「いいえ、ここは僕がやります」
エンドの登場によって、イルの何かが変わった。
それを確認したエンドはゆっくりと後ろに下がってくる。
「ごきげんよう」
「ごきげんようって、そんな挨拶の仕方してたか?」
「そうですね、少しやってみたかっただけです」
どこか楽しそうに笑うエンドに、俺はどう反応していいのかわからない。
ただ、急な登場によって少し戸惑っていたラクは動きだす。
「ええ、ラクと相手をしてくれるんじゃないの?」
「まずは、イルと相手をしてください」
「でも、ラクが楽しめるかな?」
「大丈夫です」
その言葉を言ったときには、イルは五人にブンシンしていた。
何をするのか?
なんとなくこれまでのブンシンと違うことで理解した。
これまでの分身と違って一体一体に魔力を感じる。
そして、そのブンシンたちが一つに集まる。
「ブンシンスキル。融合」
その言葉とともに、イルたちが一つになる。
まるで幽体離脱からの合体だな。
そんなことをのんきに考えながらも、イルがどうなったのかがわかる。
先ほどよりも魔力があがったのだ。
それが融合した効果ということなのだろう。
「楽しそうだね」
「まあ、僕が本気で戦うっていうのはこういうことだからね」
「じゃあ、ラクを楽しませてよ」
その言葉の後に悪魔とイルが激突するが、一撃目は互角、二撃目ですでにイルの攻撃がというか拳が勝る。
俺と同じく肉弾戦で戦うので、力の差がしっかりと拳に現れている。
すぐに悪魔を上回った攻撃で、悪魔を殴り飛ばす。
「楽しい、楽しいよ」
「いいところを見せると言いましたからね」
「次はこれを防げる?音色、カマイタチ」
「ブンシン、多重パンチ」
魔力の風を、イルも自分の腕を大量にだすことで、殴り返す。
衝撃とともに、立っていたのはイルだ。
「楽しめましたよ…」
「僕は肉弾戦をあまりしたくないですから」
そう言葉にしながらも、イルはラクを殴り飛ばした。
「さすがですね」
「はい、少しはいいところがみせられましたでしょうか?」
「十分じゃないかしら」
エンドにそう言われて、イルは得意げに俺の方を見るが、ここは迷わず言っておく。
「絶対に男は褒めないからな」
俺は腕を組みながらそう言ったのだった。
「ちょっと、我をいい加減無視するなよ」
そんなイワウの言葉がこの場に響いた。
そのタイミングで、黒い穴が目の前に現れた。




