229話
夢を見ているようだった。
俺はヘンタイスキルを使うために、スターから下着をもらうはずだった。
それを受け取ったと思っていたのに、確か見えたのは粉々になった下着。
その瞬間に、俺の中にある何かがきれた。
何かわからないけれど、俺の何かがきれたと思ったときには、どこか他人が体を動かしているようだった。
自分がわからない。
そう思っていると声が聞こえる。
「おいおい、さっさとやるぞ」
「誰だ!」
「何を言ってんだ?俺はお前だろ?」
「はあ?」
暗闇にいると思っているのに、声だけが聞こえていた。
その暗闇に俺は言う。
「何をやるって言うんだよ」
「そんなものは簡単だ!壊して、壊して、壊しつくすんだよ」
「はあ?俺はそんなことをやりたいと思ったことないぞ…」
「本当にそうなのか?」
「いや、まあ…確かにリア充爆発しろくらいは思ったことがあるかもしれないが、それだけだろ」
「いいや、そんなものですまないのがお前だろ」
「なんだと?」
「わかるだろ?昔から、虐げられてきた過去を…そして理不尽な過去を!」
「…」
「何も言えないみたいだな」
「ああ、言えないな。だって、俺にはそんなものないからな」
「何を言っている?あるだろう!過去のことを忘れているのか!」
「確かに、死ぬ前はいろいろあったな。でも、今は生まれ変わった存在だからな」
「生まれ変わったところで、お前の過去は消えない。そのことはわかっているだろ?刻まれた恐怖から打ち勝つためには、やるしかないことをわかっているのか!」
「わかってる。でもな、だからこそ俺は自分自身のスキルがヘンタイになってしまったんじゃないのかと思ってるからな」
「は!だったら、お前はヘンタイだということを認めるというのか?」
「どうだろうな?でも、ヘンタイでも、ヘンタイじゃなくても俺は…」
「なんだ?」
「そんなしがらみに縛られることはないんだよ!」
その言葉を言ったとき、俺の視界が暗闇じゃなくなる。
目の前にいたのは、昔の…
転生する前の俺だった。
「だったらわかっていると思うけど、お前の試練はこれからだぞ」
「ああ…なんとなくわかっている」
俺はそう口にして、このよくわからない状況から解放された。
「ただしさん!」
【ただし!】
「なるほどな…」
「よかった、よかったです」
【心配させないでよね】
「すまない」
俺はそう言いながらも、顔に温かみを少し感じる布を被せられるということを感じた。
これはエメのものだろう。
なるほどな、これで俺は元のヘンタイに戻ったというところなのだろう…
感謝しないとな。
「ぐ、怖い気配が消えた?これはうれしくない、うれしくない」
そんなことを考えていると、目のまえに倒れていたイワウがそんなことを言う。
俺はそのイワウの頭に向かってチョップをした。
「な!」
「ただしさん?」
「ま、妹を叱るときも、これくらいはしたからな」
俺はどこから自分がおかしくなっていたのか気づいていた。
パンツを粉々にされたから?
いや、違うのだ。
俺はたぶん、ラクを最初に昏倒させたときからだ。
どこか思い出したような気がする。
俺は構えをとった。
それを見て、イワウは頭を少し押さえながらも距離をとる。
「怖さが消えた、うれしくない」
「そうなのか?」
「そうだよ。さっきの強さは、うれしかったのに!我が望んだ強さなのに!」
「は!だったら、今の俺が弱いのか、試してみればいいだろう?」
「弱いにきまっている!」
そして、すぐに剣を構えて速度を上げる。
イワウのスキルはなんとなくわかっている。
自分の速度を調整できるスキルというものだろう。
魔力が高ければ、その速度も上がると考えるのが自然だ。
だったら俺のすることは決まっている。
「さっきのあなたはこの攻撃を止めれましたからね。我をうれしくさせるなら、それくらいはしますよね!神速斬り」
速すぎるせいで、声もどこか遅れて聞こえるが、俺はそれをかわした。
「うん?」
「どうかしたか?」
「まぐれ?それを確かめるために、神速斬り」
速い。
ただ俺は、その攻撃を再度避ける。
それも、ある程度完璧に…
「どうして?うれしいことだけど、気になる」
「どうしてだろうな」
「教えてくれないということは自分で気づけってことだね。なるほど、それはうれしいことだよ」
「うれしい、うれしいうるさいな」
「だって、うれしいことは仕方ないでしょ!」
「だったら、少し静かにさせてやるよ」
「へえ、できるならね」
イワウは距離をとる。
速度を魔力で調整できるといっても、ある程度の距離をとらないと、一瞬で近くに来てしまい、距離感が難しいということなのだろう。
だからこそ、俺にはわかる、イワウの動きが…
速度があがるということは、ある程度攻撃のやり方が限定されてくるということだ。
それに…
俺にはヘンタイスキルがある。
これによってあげられた身体能力で、攻撃はある程度かわすことができる。
といっても、イワウもそのことはわかっているだろう。
だったら、俺は地面を殴る。
速度には、いつものように地面を殴ることである程度の牽制ができるはずだ。
でも、そのことはイワウも予想済みだろう。
「神速斬り」
「速いな」
「でも、避ける!うれしい」
「まあ、動きを限定させたからな」
地面を殴ることで、予想した通り、殴りつけた石などを避けるために、回り込んで攻撃をしてきたイワウを今度は避けただけだ。
そして、よければ再度攻撃はくる。
でも、基本的に一撃目は縦、二撃目は横という風に決まっていることが多い
だから、一撃、二撃と簡単に避けられる。
速いからこそ、その速度に任せた攻撃になっている。
魔力が高いからこそ、その力に任せて攻撃をするというのが、イワウたちだというのがわかる。
スキルを使うというのが、どこかわかった俺は、そうじゃない。
相手の動きも含めて、俺はしっかりとヘンタイスキルを強化する。
神速斬りとして、剣が振られるたびにしっかり揺れるその双丘に、俺はありがたさを感じながらも、俺は頭にあるものを思い浮かべる。
それに、スターがやれやれと声が聞こえる。
【本当に、いろいろ面倒くさいのね、ただしは】
「仕方ないだろ」
【はい、受け取りなさいよ】
「助かる」
俺の手には、紐が握られていた。
それをしっかりと手に握る。
「紐?そんなもので何をするのかな?」
「それはお楽しみだ」
「それは、うれしくなりますね」
魔力が上がるのを感じる。
俺はしっかりと紐を構えた。
「ただしさん」
「大丈夫だ」
魔力の多さに気づいたエメから声をかけられるが俺は心配していなかった。
だって、しっかりとした武器があるのだからだ。
「神速斬り乱舞!」
攻撃がくる。
そのタイミングで、少し前に行く。
そして、向かってくるイワウと俺は交錯した。
「な、なんで…」
「ふ…こう見えても、俺はヘンタイだからな」
そう言葉にしながらも、俺はイワウを縛りあげたのだった。




