227話
【ただし!】
「ただしさん」
「大丈夫だ、視えている!」
「うれしい、この攻撃をとめられるなんて!」
「不意打ちなんて、卑怯だけどな」
「そう?そんなにうれしい?」
「いや、うれしくないって言ってんだろ…ちょっとはいいことあったけど」
【ただし?】
「はい、なんでもありません」
手刀で、笑っている女性を気絶させたところで、何かをヘンタイ眼でとらえた俺は、かけていた。
すぐに、エメの隣に近づいて攻撃を、右手で止めた。
ところまではよかった。
ただ、問題は近づきすぎたせいで、反撃しようと攻撃しようとした左手が触れたことだろう。
ラッキースケベなイベントがあったおかげで、しっかりとヘンタイスキルは強化された。
それはいい。
問題点は、せっかく攻撃を防いだというのに、怒られる状況を作ってしまったという点だろう。
それと…
「ごめんなさい」
「いや、仕方ないことだな」
奇襲によって、エメの発動していた精霊の目で操っていた悪魔の拘束が解けた。
そして、悪魔はすぐに目をつぶされた、この女性によって…
「うれしいよね!よね」
「完全に狂気だな」
「そんなこと言わないでよ。傷ついちゃうなお姉さん。うれしいけどね」
「いや、怖いよ」
ただ、この女性たちの存在がどういうものなのか、完全に理解した。
この女性たちは、おそらく精神を犠牲にすることによって、普通よりも強い魔力を手に入れた人たちということなのだろう。
どことなく、バーバルと似ているというのも、バーバルを作るために必要だったと考えられる。
ちぃ…
俺だって、少し感情がなくなるくらいで魔力が手に入るなら、いいと思ってしまう。
【ゼロは、ゼロにしかならないわよ】
く、心を読むなよな。
というか、そんな悲しいことを言わないでほしい。
少しくらいは可能性があると思うくらいのことは、考えてもいいだろうと思ってしまう。
違うのか?
そんな、完全に戦闘と関係のないことを考える。
一応警戒は解いてはいないが、悪魔も女性も動くことはない。
だからこそ、俺は気になることを聞けるチャンスだと思い、質問する。
「なあ」
「うーん?」
「お前たちは、ここに何をしにきたんだ?」
「うん?お姉さんに質問とはうれしいね」
「うれしいって思うなら、答えてくれ」
「しょうがないな。これは不意打ちを防いでくれてうれしかったから、まずは一つ目だけね。それはもちろん、ご主人様の最高傑作を取り戻しにね」
「なるほどな。ちなみに、ほかにもあるんだろ?」
「それは、教えるためには、お姉さんと戦わないとね」
「なんで、そうなるんだよ」
「もちろん、お姉さんを喜ばせるためにね」
その言葉とともに、女性は駆ける。
速い!
素直にそう思うほどに、女性の姿はヘンタイ眼で追えるが、そこまでだ。
ちっ、やっぱりヘンタイスキルのかかりが弱い。
さっきの胸を触ったことで、少し強化されたとはいえ、その程度でどうにかなりそうじゃない。
それに…
いてえな…
俺は右手から血がしたたり落ちるのを感じた。
先ほどの攻撃のときに、完全には防ぎきれていなかったからだった。
でも、そんなことは考えてられない。
まずは、この戦いをなんとかしないといけない。
高速で動く女性と戦おうとしたときだった。
「こちらは僕が!」
その言葉とともに、イルが近づくのがわかる。
ただ、それは愚策だった。
「ぐは…」
「なんで…」
「楽しいことばかりだから、倒れてる暇ないもんね」
そんな言葉とともに、イルは倒れていたはずの女性に斬られていた。
どこか予想はできたことだ。
普通の人とは違う。
だから、速く拘束したかったのに、それができなかったせいでこうなったと考えるのが妥当ってところか…
それにしても仕込み笛とは、なかなかマニアックな武器だな。
あの笛にあんな使い方ができるとはな…
それに、悪魔の存在も気になるな。
悪魔は目を潰されたことによって、エメの精霊の目ってやつも使えない。
ただ、操るものが解けたことが影響しているのか、その場で動くことはない。
この状況を見ていたエメは言う。
「ただしさん…逃げましょう」
「といってもな…」
「戦うことがうれしいことでしょ」
「ちっ」
俺はなんとかかわす。
逃げたいのは、確かにそうだ。
でも、こんなおかしなやつばかりが周りにいるのだから、逃げるというのも難しい。
それにだ…
俺は血が少したれる右手を、握る。
「かわすだけじゃ、うれしくないよ」
「だったら、これでどうだ!」
俺は地面を殴りつけた。
それによって土が舞い上がる。
これで、スピードが少しは遅くなる。
そう思っていたが…
「難しいことってうれしい、うれしいよね」
「まじかよ」
その土を完全に避けながら、俺に近づく。
ただ、俺の土によって動きは限定的になっている。
少しは読みやすくなった。
「そこを貫くのが、うれしいよね」
「はああああ」
「うひひひひ」
俺の拳と女の剣がぶつかる。
ヘンタイスキルが完全に発動しているわけではない。
それでも、いつもはそれなりに拮抗する力も、完全に押される。
「く…」
「真っ向勝負はうれしいね」
「俺は全くしたくないけどな」
「でも、この攻撃を防いだら、目的をもう一つ教えてあげられるよ」
「だったらやるしかないな」
俺は右手の力を少し弱める。
そのまま、うまく力を使って攻撃をそらそうとしたところで、剣の速度が速くなる。
なに!
そらせないことに気づいた俺は気を集中させる。
人差し指に力を込める。
一つの指に集中させることで、勢いがでる。
俺は、デコピンを行った。
キンという音とともに、剣ははじかれる。
「なに、今のは!知らないことをされるなんてうれしい」
「こっちはぎりぎりなのに、余裕とか最悪だろ」
「ちゃんとした殺し合いができるなんて、うれしいことでしょ?」
「いや、全くうれしくないな」
俺はそう言うが、女性は笑っているだけだ。
くそ、本当にずっと笑っているから俺もおかしくなってしまいそうだ。
でも、なんとかはなったな。
「じゃあ、目的は教えてくれるのか?」
「そうですね。攻撃を防ぐっていう、うれしいことがあったからね。教えてあげる」
「それはどうも」
「ここにいるエルフの数人をさらうってこと」
「さらう?」
「もちろん。ご主人様の研究に必要なことだからね。うれしいことにね」
「なるほどな」
この女性たちも、あの女に何かしらをされたことで魔力が増えたことを考えると、エルフというもともと魔力が高い人たちを、同じように何かをして魔力を増やすと考えるのが自然だろう。
でも、そうなるとここに連れ去られればまずい存在が一人いる。
「だったらエメのことを連れていくのか?」
「連れていけたらうれしいね。でも、魔力がすでに我々より高いんだから、難しいね」
「結局は魔力が低いとダメなのか?」
「うれしいことに、この世界は魔力が高ければ強いことになるからね」
「魔力が高いね…」
「そうです。だから、我らは魔力が高くなった選ばれた人ということになります。うれしいことに」
「だったら、エメがいるんだし、ここから去ってくれ」
「それは、我らがこれを聞いてからです。魔力の怪物さん。ご主人様と一緒にこの世界を変えましょう」
そう言葉にして、女性は手をエメに向ける。
ただ、エメは笛を持っている女性から目を離すことはせず言う。
「いえ、わたしはそんなことに興味はありませんから」
「だったら、やるしかないね」
「もっと、楽しませてよ」
そんなことを言いながらも、女性たちは武器をそれぞれ構える。
俺はエメの近く合流した。
「やるしかない感じだな」
「はい、すみません」
「いやー、なんとかなりませんかね」
「男は守らないからな」
「これは手厳しい」
イルは分身する。
俺は拳にしっかりとナックルをつけた。
「やる気になってくれて、うれしい。我はイワウ」
「もっと戦いを楽しもうよ、ラクと一緒にね」
笛の音が戦いの合図になった。




