225話
ドンという音とともに、土が舞い上がる。
これによって、すぐに近づいてくるということはできないはずだ。
ただ、その考えが甘いということをすぐに気づかされる。
「ギャギャアアアアア」
声が聞こえたと思ったときには、目の前にそいつがいる。
まじかよ、土の塊なんかものともしないのか!
これまでのモンスターとは違うな、こいつ…
本当に悪魔ってことなのか?
相手が普通の人でもモンスターでもなく、悪魔だということをわかっていなかった俺は、慌てて手をクロスしてガードの態勢をとるが、悪魔はその上から問答無用で殴りつけてくる。
ドンという音とともにガードした腕に拳があたる。
「ギャアアアアア」
「くおおおおおお」
かなりの勢いで殴られた俺は、地面を転がる。
くそ、何時ぞやのオーガキングにやられたときのことを思いだしてしまうな、ここまでの勢いで飛ばされると…
まあ、今の俺は少し違うけどな。
転がりながらも、しっかりと態勢を整える。
そのまま俺は立ち上がる。
ただ、すぐに目に見える光景に驚く。
悪魔は手を前にやると、そこに魔力の塊を作り出していた。
「いい、いい!」
「ギャギャ」
嬉しそうに言う女性と同じくして、その魔力の塊は放たれる。
魔力弾ってところか。
普通では防げないな。
せめてパンツがあれば、少しは変わるのだが…
そんなことを考えていたとき、頭に声が響く。
【気づいたら、すごいことになってるじゃない】
「気づいたなら、助けてくれよ」
【え?】
「え?じゃないだろ、どう考えてもまずい展開なのに、助けないとか、それでも神様なのかよ」
【だって、ただしなら大丈夫だってこと、あたしは知ってるからね】
どうしようもない状態だというのに、スターはそういう。
何がどう大丈夫なのか?
わからないが、俺は拳を握りしめた。
魔力弾は近くまで迫っている。
そこで、俺は聞いたことを思い出していた。
※
「なあ…」
「なに?」
「ある程度の気を使うってことはわかったんだが、見た目でわからないのがちょっとどうかと思わないか?」
「うん?そんなことを気にしてるの?」
「だって、せっかくかっこよく技を決めれるようになったのに、地味だしな」
そう、気の使い方を学び、ある程度の技というものも習得した。
だけど、それは普通の肉弾戦で使うものであり、こう炎をだしたり、水を出したりできるような、目に見えてすごいというものではない。
だから、こうかっこよくできるものがほしかった。
せめて、かっこよく技を決めると、相手が爆発するようなものくらいはほしい。
そんな小学生特有の発想をしていた俺を、彼女は笑った。
「何?そんなに地味が嫌なんだ!ただしは相変わらずね」
「こういうのは男の性だと思うけどな」
「確かに、男の子はそういう派手なのが好きね」
「まあな、目に見えてカッコいいと、自慢もできるしな」
「確かに、それはあるね」
「だったら、何かこうド派手なやつを教えてほしんだが、そういうのってあるのか?」
「あるかもしれないし、ないかもしれないかな」
「どういうこと?わからないんだけど」
「だから…」
「なるほど、それならできそう」
「でしょ!」
「ありがとう、スター」
「スターじゃないって、あたしの名前は星野光だって…」
※
「そういうことかよ」
【思い出せた?】
「まあな…」
【だったら、その魔力弾くらいなんとかできるんじゃないの?】
そう言われて、俺は確かになと納得した。
あのとき言われた言葉を思い出した。
それは…
「俺があみだせばいいだけか…確かにその通りだ」
「ただしさん!」
エメの慌てた声が聞こえる。
俺は慌てることはない。
しっかりと拳を握りしめて、そこに気をためる。
「セイカイ流、一つ、気合拳!」
その言葉とともに、放たれるは気を込めた拳。
シューティングスターと違う点は、気を濃密にしすぎたせいで、飛ばした気の形が拳と同じになるところだ。
ただ、濃密だということは、濃密な魔力と相殺する。
二つの濃密なものが当たりあう。
「なに!」
「ただしさん!」
笑顔を浮かべながらも驚く女性と、相殺したことによってどこか安堵するエメの声が聞こえる。
自分で、新しい技を作ったらカッコいいでしょ!
そんな、あきらかに思いつきで言ったあいつの言葉を信用して、こんな技がカッコいいと作ったのは確かにいい思い出だ。
あとは…
「さっきの思い出したこと、説明してくれるよな」
【この戦いが終わったらね】
「おっけい、だったらさっさと終わらせる」
俺は拳を固める。
そんな俺のことを見て、女性は笑いながらも発狂する。
「おかしい、おかしい、おかしいの」
「何がだよ」
「この世界は、魔力が高いものがなんでもできる、それが正義なんだから」
「そうなのか?」
「ええ!だから、魔力が高いこっちが有利なの!」
女性は笑顔を浮かべながらも、声はどこか慌てている。
そのギャップに俺は、どこか納得した。
「魔力が多いから、どうしたんだ?人形さん」
「人形というな!魔力を増やすために、仕方ないことだったんだから」
「そうなのか?」
「ええ、ええ!だから、こうやってモンスターを使役できるんだから!」
その言葉とともに、悪魔はこちらに向かってくる。
俺は拳を固めた。
ただ、悪魔は動きをとめた。
俺は、これをやったであろう人物の方を見る。
「魔力が多いのが、強さの指標なら、わたしの方が高いですから!」
「どうして、お前が監獄からでてきてるんだ!」
「連れ出されてしまっただけです」
エメは、その精霊の目で悪魔を止めると女性と会話する。
女性は笑みを浮かべながらも、髪をかきむしった。
俺は駆けた。
「くそ、どうして魔力の強化をうけたはずなのに!」
「魔力だけじゃどうしようもできないこともあるってことだ!」
その言葉を言いながらも、俺は女性を殴りとば…
すことはせず、手刀を首にやり、気絶させたのだった。




