223話
「すごいことになってるな…三つ巴か?」
「呑気なことを言ってないで、止めにいけよ」
「ええ…」
「なんで嫌そうにするんだよ。必要なことだろ、なあエメ?」
「でも、予言とは違う感じにはなっていますし、様子を見るというのもいいかもしれません」
「そう思うよな」
「はい」
「く…エメ、あたいを裏切りやがって…」
そう、俺たちは叶たちが戦っている場所の近くから、隠れる形で覗いていた。
そんな現状は、叶やアイラのメンバー、ゴブリンたちモンスター、そしてエルフたちという三つ巴の戦いになっている。
どうしてこういう状況になっているのかがわからないが、これを見ている俺たちが止めに入らないのは、この状況が予言と違うからというのもあった。
ここに来るまでの間に、簡単に説明を受けたが、予言ではエルフの里に来たモンスターを俺たちが相手するせいで、モンスターたちとそれを連れてきた、あのマッドサイエンティスト的女たちと戦い。
さらには、その女と合流したクロとも戦うことになってしまうというのが、予言だった。
そして、行われるのはパーティーの壊滅…
さらにはエルフの里壊滅という流れだった。
そもそも最初の予言では、俺が登場する予定ではそもそもなかったらしい。
クロが、アーティファクトを使い魔力を無効化して、このエルフの里に入ってくるというのが最初の予言だったらしい。
そこから予言がいくつか変わり、俺が入ってくることとかになったらしい。
ただ、エルフの里の人たちは、予言魔法を使うにしてもかなりの魔力を使うため、ここにいるエメと違ってそこまで頻繁には使えないものらしい。
そうなると、エメの魔力がどれほどすごいものなのかが気になるところだが、そこまでは聞けなかったし、聞いたところで、ゲームのように魔力量がマジックポイントみたいな感じでわかるわけではないのだからだ。
だから、最初の予言であった、最初に入ってきた男…
そのときにはクロだったようだが、そのクロを捕らえることで、この里が壊滅するということは防げるはずだった。
まあ、そのときに入ってきたのが、俺だったから、そもそもそこでその予言は間違っていたようだが…
ちなみに、エルフの予言魔法を知っている女というのも、あのマッドサイエンティストの女ということらしい。
「いろいろ間違っている予言を信じているあいつらは大丈夫なのか?」
「どうでしょうか…」
「ふん、エメを殺そうとしたあんなやつらは、別に滅んでもいいんだけどな」
「そういうことを言うのはダメですよ」
「そうだぞ、滅ぶのはダメだ」
そう、だってエルフはよくも悪くも美男美女がそろっているのだからだ。
美女が多いのだから、滅んでしまうことになってしまえばその美女たちがいなくなると考えれば、俺は耐えられる自信がない。
「なあ、また変なことを考えてないか?」
「そんなことは全くないぞ」
「絶対あっただろ、そう思うのなら、こっちを見ろよ」
「はは、そんなに見つめてくると、勘違いするだろ?」
「は?」
「いえ、なんでもないです」
ちょっと言ってみたかっただけだというのにここまで、怖い目で見られるとは思わなかった。
それほどまでにエルの目は怖いものだった。
ちなみにそれでもしっかりとエルフの血を受け継いでいるエルは、かなりの美形だ。
まあ、胸はないけれど…
「おい、どこを見てんだよ」
「気になっただけだろ?」
「今気になるのは、あたいの方じゃなくてあっちの戦いだろ」
「でも、なんか動いてないしな」
「確かにな」
「ですが、そろそろ動きそうですよ」
そう、三つ巴になぜかなっているせいか戦いが始まらず、全員が見つめあっている状態だ。
普通だったら、叶やヤミが最初に動きそうだが…
よく見ると、アイラがバリアを張っているせいなのだろう。
それで、攻撃ができていないという感じだ。
仲間を守っているというよりも、敵を守っていると見えてしまうのが、どこか滑稽ではあるが…
ただ、そのバリアもそろそろ破れるのだろう。
どうしてそんなことがわかるのかという理由については、簡単だった。
モンスターもエルフも、どちらも注目しているのが、アイラたちだったからだ。
何をしたのかと考えるくらいにはおかしな光景だった。
だって、ここを襲いに来たはずのモンスターと、襲われるはずのエルフたちが共闘しているのだからだ。
さすがにこの状況は予言と違いすぎる気がするのだが、いいのだろうか?
どうすればいいのかと考えている間に、バリアが解ける。
「ギャギャ」
「この、狂人ども!」
ゴブリンたちと、エルフがそんな言葉とともにアイラたちに向かっていくが、最初にヤミが前に出る。
「ドラゴンネイル、地面じゃ!」
さすがにドラゴンの爪をそのまま攻撃とだすとまずいことは、ヤミはわかっているのか、地面に手をつけるとそこをドラゴンの手に変える。
すると、地面がえぐれ、土が飛ぶ。
「いいね。叶も派手にやりたい!」
そして、それに続くようにして叶が木の枝を構える。
集中している。
そう感じたところで、ゴブリンたちは斬られ、エルフたちも魔法を発動しようとしていが、それが何かによって防がれる。
刃がどこからでも出るなんて、かなりの強い能力だが、それをしっかりと扱える叶はさすがとしか言いようがない。
俺なんかの意味のわからないスキルを考えると特にそう思う。
一瞬にして、相手のほとんどが無効化される。
さすがにチートすぎるだろ、この二人…
まあ、この世界に呼ばれた勇者と、この世界の魔王だということを考えると妥当だとも思うが、それでも強さが理不尽だと思うのは、俺だけじゃない。
「すごいですね」
「もう少し強さの自重ってやつを知らないのかよ」
「それを俺に言われても仕方ないんだが…」
「でも、お前のパーティーメンバーのことだろ?」
「確かにそうだけどな。だったら、エルも一応敵対しているんだし、止めたりできるだろ?」
「絶対に嫌だ。あたいは、戦闘するって柄じゃないんだからな」
「そうなのか…」
「そうだ。今は少し様子を見守るしかないな」
「そうするか」
俺たちは様子を見る。
といっても、先ほどのことでエルフもモンスターも手が出せない。
そう思っていたときだった。
モンスターの間から、一人の女性が現れる。
「こらこら、モンスターのみなさん、何をやっているんですか?」
そんな能天気なことを言いながらも現れたのは、髪が長く。
そして、どこかバーバルと似た女性だ。
違う点は、着ているローブの色と髪の色だろう。
黒の中に赤が紛れ込んでいるところは、バーバルと全く違った。
その女性は常に笑みを浮かべている。
「ほーら、せっかくやることを与えてあげたのに、何をしているのかな?」
そう言いながら、女性は一番前にいたゴブリンを踏みつけた。
「ねえ、ほら!ちゃんとやりなさいよ!」
そんな言葉とともに踏みつける。
でも、すぐに飽きたのか足をのけるという。
「ま、いっか…面倒くさくなったから、終わりにしよっか!」
その言葉とともに、女性は笛を取り出す。
あの笛はやばい。
そう考えたのは、俺だけじゃない。
「何それ…」
「おっと、危ないでしょ?」
「今のを避けるんだ」
「当たり前でしょ?有象無象じゃないんだからさ!」
叶の普通なら見えない刃を不意打ちの初手を避けるとは、やっぱり、これまでのやつらとは違うらしい。
そして、その女性は笛を鳴らす。
嫌な音色が、この場所を包んだ。
モンスター操るもの…
この笛はそういうものだと最初は思っていた。
でも、それだけじゃないことを理解した。
それは音色が変わっているからだ。
音楽のことはわからないが、あのとき、モンスターを呼び寄せたときと違う音色だということくらいはわかる。
そして、音色が終わるとき、モンスターたち…
多くのゴブリンが集まる。
「ギャギャ、ギャギャアアアアア」
そんな叫び声とともに、ゴブリンは姿を変える。
かなりの大きさのそいつは、地面を踏み鳴らしたのだった。




