222話
「おいおい、戦ってるぞ?」
「え?」
「どうしてこうなってんだよ!」
俺は、二人を抱えたまま里の中心である、封印された木の根という…
まあ、聞いたらよくある隠れ家という感じの名前の場所から出ていた。
最初は暴れていた二人だったが、エルは早々に諦め、エメもさすがにそれを見て同じように何かを少しいうだけで、そこまでだった。
それは、隠れ家から出た瞬間によくある大ジャンプではないが、そのままの勢いで、その木に登ったからだった。
最初は高いとか、うわああああああとか叫び声が聞こえたが、しっかりと木の枝に乗る頃にはその声も聞こえなくなっていた。
そして、木の枝から見る光景に、俺は声をかけると、二人も驚いているようだった。
それもそのはずだろう。
先ほど、アイラから戦うなという話が出ていたというのに、アイラたちというか、主にヤミと叶が先頭に立ってモンスターと戦っているように見えたからだ。
「あれはいいのか?」
「よくないからな。さっさとあそこまで行くぞ!」
「ええ…」
「なんで嫌そうにするんだよ」
「だってな、あそこまで遠いしな」
「なんでだよ。ここに来るまでの方が遠かっただろ!」
「でも、ゲートで行けば一瞬じゃないのか?」
「おまえ!いいこと思いついたみたいな感じで言うな。最初からそれでよかっただろ、ここまでくること事態おかしかったからな」
「まじかよ…」
「どうして、そこでがっくりした感じになるんだよ」
俺は少しがっくりした感じを見せると、それにエルはかみつき、エメは笑う。
「おい、エメ…笑うなよ」
「ごめんなさい。でも、エルが楽しそうにしているのを見ると、なんだか嬉しくって」
「何を言ってんだ。こいつのことであたいが楽しいはずないだろ?」
「そうかな?」
「そうだ。あたいが、こんな男にからかわれて、うれしいはずないからな」
「そっか」
「だから、ニマニマと笑うな!」
エルは、エメに笑われて、どこか不機嫌そうに言うが、実際は顔を少しそむけるだけで、楽しそうだ。
そこで俺は思っていたことを言う。
「やっぱり、目はその方がいいぞ」
「え?あ、ありがとうございます。そっか、わたし、目のこと忘れてた」
エメはそう口にする。
そう、ここまで俺が掴んでいたということもあるが、エメの目は糸のようなもので封印されるということもなく、ここまで来ていた。
そのことにエメ自身は驚いていたけれど、俺としては普通のことだと思う。
魔力が高くて特殊な目を持っている。
それに関してはうらやましいとは思うけれど、正直それだけだ。
まあ、俺がその目を持っていたら、自分のハーレムを作るためにいろいろやるだろうからそれがいいのかと言われてしまえば、どうなのだろうと思ってはしまうが、その目のせいでいろいろ制約があったのだとすれば今は関係がないということだけは言っておく。
だってだ…
「精霊の目があろうがなかろうが、俺には効かないしな」
「それは、あんたが魔力がないせいだろ…」
「いや、違うな。俺には美少女の綺麗な目を見れなくなるということがそもそもないからだな」
「そんな理由かよ。というか、それなら酷いことだけどな。エメがもし、可愛くないってあんたが判断したらどうしてたんだよ」
「そんなのは簡単だ。かわいくするまでだな」
「くそ、あんたに聞くほうが間違ってたよ」
「そうか?」
「当たり前だ。エメも、こんな適当な男が言うことなんか気にするなよ」
「うん、わかってるよ」
「なんだ?嫉妬か?」
「違う!いい加減にしてくれ!もうやだよ。あたいのカッコいい感じなのが、おかしくなるだろ…」
「大丈夫だ、エルは可愛いぞ」
「そこが大丈夫じゃないんだ」
「ふふ…」
「こら、エメも笑うな」
「だって、本当に…ふふ」
「おい、あんたのせいでおかしなことになってるだろ!」
「おい、危ないぞ」
怒りだしたエルに体を揺さぶられて、思わずそう言うが、すでに後の祭りだった。
「あ…」
「って、ふざけるなーーーー」
そう、気づいたときにはエルのことを落としていた。
そんな声とともに落ちていくエルを少しだけ見るが、すぐにエメに言われる。
「た、助けないと!」
「そうだな」
「ということでしっかりと捕まっててくれよ」
「は、はい」
驚きながらも、言うことを素直に聞いてくれるエメをしっかりとつかむと、俺は垂直のような感じで下に向かう。
これは降りるというよりも落ちると言ったほうが強いかもな。
そんなことを思いながらも、俺は高速で下に向かう。
「うひょひゃひゃや…うひーーーー」
どこかそんな声が隣から聞こえるような気もするが、気にしないようにしておく。
そして、俺はエルをなんとか逆の手で抱きかかえると、地面に着地した。
「お、お前、ふざけるなよなああ…ぐすん…」
半べそをかいているエルになんと返していいのかわからず、俺は何も言えないでいると、エメから楽しそうな声が聞こえる。
「楽しい!すごい楽しい」
「そ、そうか」
「エ、エメ?」
そのテンションの高さに驚く俺とエルだったが、エメの顔がかなり無邪気なことに俺は何も言えなくなる。
話をちゃんと聞いていないから、予想でしかないが目のせいであまり外での楽しさというのを知らなかったんだろう。
だから、こんなにも楽しそうに笑う。
楽しそうだ。
だったら、やることは決まっている。
「しっかりつかまっていろよ」
「はい!」
「いや、あたいはまだ心の準備ができてないんだけど!って聞いてるのかよーーー」
エルのそんな絶叫を再度聞きながらも、俺は音のする方へ向かっていく。




