217話
「ねえ、ただしなら一人でも逃げられたのに、どうしてしなかったの?」
「いや、逃げたところでな、この場所のこと何も知らないしな」
「別に、ただしならいつものヘンタイパワーですべてのことをなんとかできそうなのにね」
「買い被りぶりだ。それに、それを言うならバーバルも、何かを隠しているだろ?」
「ふふ、どうかしらね」
俺たちは連れていかれた。
そして、されたことは縄に縛られて、入口辺りの木に貼り付けられるというところだった。
完全にやられている行為は磔の刑ってやつだな。
こんなの、本の中でしか見たことがないよな。
現実にやられていることを考えると、なかなか滑稽だな。
エルフの長たちは、これで逃げられない供物の完成だと言っていたが、俺は別に逃げられる。
ただ、逃げないのはバーバルが隣にいるからだった。
それにバーバルの雰囲気がどこか違うことが気になっているので、このままにするというのも何かよくないことが起きそうで、あまりよくないと思ってしまう。
この後何が起きるのか…
磔になりながらも、それを考える。
まあ、モンスターが来るのは確定しているといえ、後は…
【どんなモンスターが来るのかってことよね】
「まあ、そういうことだな」
【余裕みたいね】
「今までのことを考えるとな、これくらいのことが起きても普通だろ。まだ、今回は頭に袋とか被せられてないからな、ちょっとマシではないかって思ってるしな」
【そう】
「ああ。ちなみに、この後来るって話のモンスターとかって、どれくらいの規模かわかるのか?」
【うーん、それなんだけどね。このエルフの里っていうのが特殊な場所のせいであんまりわからないのよね】
「まじかよ、使えないな…」
【へえ、そんなことを言う余裕があるの?】
その言葉とともに、俺たちが磔にされている目のまえの霧が晴れていく。
同じタイミングで、空が夕日の色になっていく。
くそ、モンスターが来る量は今の感じだとわかってなかっただろうけど、タイミングはわかってたんだな。
仕方ないか…
俺は磔から抜けるべく、右手を広げる。
「来い!」
そして、叫んだのだが…
右手には何もない。
あれれー、おっかしいな…
俺の予想ではこうやって右手を広げれば、その中にアイテムである女性ものの下着が入っているはずだったというのに、それがないだと?
【何をバカなことをしてるの?】
「いや、こうやってすれば何か起こるとかあるだろ?」
【そうなの?】
「そうなんだよ。というか、どうしてお前が疑問形なんだよ…」
【だって、わかったら、あなたと一緒になるでしょ?それはさすがにね】
「いやいや、普通に考えてこのスキルを活かすためには必要なことなんだから仕方ないだろ?」
【そうかもしれないけど、それに加担するのが嫌なのよ】
「嫌って、スキルのせいなんだから仕方ないだろ、このままモンスターの生贄になっていいのかよ?」
【大丈夫でしょ、隣を見て】
俺はそういわれて、隣で同じように磔にされているはずのバーバルがいない。
気づけば、ゆっくりと前に歩いていっている。
「バーバル?」
「ふふ、ただしはそこでゆっくりしててね」
その言葉とともに、バーバルは手を前に向ける。
エルフの里は森に囲まれていう。
それは入口も例外ではない。
それをわかっていながらも、バーバルは魔法を唱える。
「火よ、相手を焼き尽くす炎となせ、ファイアー」
炎が飛んでいき、そのまま森に火がついた。
モンスターたちはまだやってこない。
でも、どこかで聞いた音が聞こえてくる。
そして、すぐにモンスターたちの声が聞こえてくる。
「ギャギャ…」
「ギャギャ!」
ただ、燃えているところに突撃したということもあるのだろう。
しっかりと声はモンスターたちの声は聞こえている。
それもゴブリンのものだ。
「ふふ、もっともっと燃えてもらいましょうか!火よ、相手を焼き尽くす炎となせ、ファイアー、ファイアー」
その言葉とともに、炎がさらに放たれる。
モンスターたちは見えないが、苦しむ声だけが聞こえる。
それでも、どこからか、嫌な音色が聞こえる。
「なあ、さっきから聞こえるこれはなんだ?」
【よくない音色よ、よくないね…】
よくないもの?
そういわれて、そしてどこか聞いたことがあるということで思い出した。
この音色のことを…
「モンスターを操ってるっていうのか?」
【そういうことね】
「それなら、どうしてバーバルは前もって行動したんだ?」
【知っていたからじゃないの?】
「やっぱり、そういうことか…」
俺はなんとか磔から抜け出そうとするが、さすがにヘンタイスキルを発動していない状態では、そんなことがうまくいくわけではない。
何か嫌な予感しかしないな。
俺はなんとかしようと再度力を込めたときだった。
磔の紐が何かによって斬られる。
「うわ…」
急な出来事のせいで、前のめりに地面に落ちる。
「いって…でも、今のは…」
【あなたの妹ね。それと嫌なことが起きているから】
「何が…」
怒ってるっていうんだ?
と言おうとしたが、すぐに俺たちがいる入口ではなくいくつかの場所で火柱があがる。
それも、黒い色のだ。
「まじかよ」
それで、すぐに誰が来たのか、そしてこの霧をといたのが誰かなのを理解する。
予想はしていたが、クロで間違いないだろう。
でも、気になるところがあった。
エルフの里でこんなことをするメリットがクロにはないということだ。
ゲームだとして、この世界のことを楽しんでいるように思えるあいつに、この里を襲うメリットがない。
そう思っていたときだった。
「あは!いい感じじゃないバーバル!」
そんな言葉とともに、そこには一人の女性が現れる。
魔法使いというには全く違う恰好。
服は白いコートのようなものを着ている。
その姿は…
魔法使いというよりも、研究者と呼ぶにふさわしい見た目だった。
そして、その女性はバーバルの肩に手を置く。
嫌な予感というのをこのとき俺は思い知ったのだった。




