210話
「リベルタスを経由しないといけないとは驚いたな」
「そうね、これはバーバルの意見よね」
「ああ、俺たちはよくわからないが、そういうことらしいな。ついでにどこかよっていくのもありか?」
「寄り道ね。たまにはいいかもね」
「ちょっと、お兄ちゃん!アイラとばかり話さないで、叶とも話をしてよ」
「ばかりって、さっきまでは叶と話してただろ?」
「そうなんだけど…なんか嫌なの!」
「そ、そうか…」
不機嫌そうに叶が言うのを、俺は少し仕方ないのかなと思ってしまった。
異世界に来る前に、俺は誰かと恋をしたということがなかった。
それは、ある女性のせいでもあったが、そんなことがあっても叶はいつも通りに接してくれていると思っていた。
でも、我慢をしていたということなのだろう。
いろいろあったからこそ、思うことがあるという叶のことをなんとなくわかっていた。
ただ、だからといって、叶とばかり話しをするというのも、今の俺にはできない。
この世界に来てから、女性というものに対して、前ほど嫌なことを思わなかったということも関係しているからだった。
まだあっていない勇者のことも気になるが、これまの冒険の疲れをいやすということも必要だろう。
ここまでいろんなことがあって休憩なんかできていなかったし、休憩ができると思っていた場所ですらずっと戦いなんかがあったしな。
ここで少し休憩が必要だろう。
まあ、俺とヤミという勇者に狙われる的のような存在が二人もそろっているので、ゆっくりできるのかはわからないが…
そうして、俺たちはリベルタスでもらった例のものを探し出して、顔パスのようにしてリベルタスへと入る。
便利すぎると、冒険をしているという気には確かになりにくいが、便利なものは使わないともらった意味がない。
まあ、言えることは楽をしたい、それだけだ。
だって、仕方ないだろ?
社畜時代にはかなりの苦労をしたのだ。
交友関係については学生時代に苦労をして、そのあとは精神をすり減らすためだけに仕事してきたのが、前の世界の俺だったのだから…
そんなことを考えているうちに、俺たちはリベルタスにある町にたどり着くはずだった。
ただ、本来は寄るはずではなかった道中にそれはあった。
よくある、ゲームの世界だったり、異世界物語でもあるような、霧が発生した。
それも、魔力がほんの少し含まれているものだ。
どうしてそれに気づいたのか?
それは、魔族であるサキュバスと戦ったせいというべきなのか、おかげだというべきなのかはわからないが、それがあったからこそ、俺は馬車に乗っている時点で、それに気づいてしまった。
「何かおかしいな…」
「どういうこと?」
「いや…」
道を馬車で走らせる。
そんな中で、霧が発生するということは、俺も車に乗っていたからわかるし、元々田舎にいたころは、よく濃霧というものがあったので、地形によって発生するということ自体は知っていた。
ヘンタイ眼が上がったおかげなのか、それとも、ヘンタイとして魔力を持った相手と戦ってきた弊害なのかはわからないけれど、どこか本能的に魔力というものを感じるようになっていたのだ。
異変に気付いた俺の頭に声が響く。
【本当に、どこまで勘が鋭いのよ】
「(いや、それとなく気づいただけだぞ…)」
【だからって、あたしら神だって気づくのは、ただしよりは遅いわよ】
「(まじかよ…)」
どうやら、俺が一番最初に気づいたらしい。
俺の第六感というものが機能し始めたということなのだろうか?
まてよ、このままいけば俺にも魔力が…
【何を考えているのか、あたしにはなんとなくわかるけど、それはありえないわね】
「(いや、こういうときに覚醒するイベントとかあるだろ?)」
【そうね。ヘンタイとしてはさらに覚醒するイベントとか、あるかもしれないわね】
「(まじかよ…)」
すぐに、俺の考えていることを見透かされるとは思わなかった。
く…
いろいろあったというのに、こういうツッコミについては絶好調ということなのか…
そんなあほなことを考えていると、もう一人の声が頭に響く。
【ねえ、二人だけで盛り上がっちゃって、いいわね】
【別に盛り上がっってるわけじゃ】
【ふふふ、まあいいわ。それで、そっちの異変についてよね】
「(ああ…)」
急に割り込んできたおネエには悪いが、本題に入ってくれて正直助かったと思っている。
自称神の方は、かなりそこまでに時間がかかってしまうからな。
ただ、そんな自称神であるスターは、後ろでそんなことないとぎゃあぎゃあと少し騒いでいる。
そんなスターを無視して、おネエは話を続ける。
【それは、エルフ族による、幻霧よ】
「(幻霧?)」
【そうね。簡単にいえば、魔力をもっている人たちを近寄らせないためのアーティファクトを使った魔法の一種というところね】
「(なるほど、だから俺は気づいたのか)」
【そうね。やっぱり察しがいい人は好きよ。そう、魔力がないからこそ、気づくことができたってところね。ちなみに、叶ちゃんについても、私から説明を簡単にしておいたわよ】
「(ああ、それは助かる)」
道理で、どこか上の空だったのか…
でも、そうなると少し気になるな。
エルフ族の里ということなのだろう。
「(これって入ることは可能なのか?)」
【へえ、気になるの?】
「(まあ、少しな)」
【そうね、入口さえ探すことができれば、入ることができると思うわよ】
「(おっけい。探してみるか)」
俺はおネエに声をかけると、勢いよく立ち上がる。
「ちょっと!」
「お兄ちゃん?」
急な出来事に驚く二人の声によって、馬車が止まる。
何かが起こったと思われたのだろう。
「どうかしましたか?」
「急に大きな声を出されるとびっくりするわね」
馬車の外から中に顔を入れてシバルとバーバルが俺たちに声をかける。
俺は、二人の手が離れたことをいいことに、馬車を出る。
馬車から降りたところで、霧がはれるというわけではないが、確かに霧の中にいるというのに、おかしいことがある。
「なあ、これって道に沿って進んでるんだよな」
「はい、そうですね。それがどうかしましたか?」
「いや、どうやって道がわかるんだ?」
「それは、少し先であれば見えますよね」
「ああ」
「石畳…街道が続いているので、それに従って進んでいますね」
確かに、進む道はこちらですよといわんばかりのように、石畳はつながっている。
霧の中を進むということを考えれば、石畳の上を進むことで、方向などを見失わないようにするという意味があるのだろう。
ただ、それがおかしいと誰も思わない。
確かに、道を外れることで、モンスターに襲われるという確率がゼロではないということを考えると、わかるのだが…
「少しだけいいか?」
「え?ただし?」
俺はすぐに馬車から走り出す。
それも石畳をそれて…
普通だったら、こうすることで石畳が引かれている場所からは完全に外れてしまうはずだった。
でも、走り出してすぐに霧に包まれて五分くらい走ったところで、俺はシバルたちのいる馬車に戻ってきた。
「た、ただし…急に走り出すので、びっくりしましたよ」
「いや、シバルすまない」
「いえ…でも、急にどうしたんですか?」
「いや、霧が濃いから、その外に出られるかと思って、確かめてみたくてな」
「そうなんですか…結果は、今のでわかりそうですね」
「まあな…普通に反対側から出てくるだけだったな」
「なに?ただしは、何かが気になるのかしら?」
「そりゃ、こんな霧だらけの場所に来たら、気になるだろ?」
「ふふふ、それは確かにわたくしも、こういう魔法が使えたらと気になりますが」
「やっぱり、バーバルには魔法のようなものってことがわかるのか?」
「ええ、かなり微量の魔力が込められた霧になっていますからね」
「やっぱり、何かあるんだな」
神たちの話しで聞いていた通り、この霧に何か秘密があるということで間違いないみたいだ
となると、やっぱり魔力を見ることを考えると、やることは決まっている。
あれをやるしかないよな。
俺は持っていたブラジャーを目の位置につける。
発動されるヘンタイ眼によって、魔力の流れが視える。
「なるほどな」
「ただし?」
奇行と思われる俺の行動に、さすがのシバルも心配そうだ。
でも、一応意味があるからな。
【何か視えたの?】
「(ああ、俺の目にはしっかりとな)」
そう、霧には魔力の流れというものがある。
その魔力の流れに逆らうとさっきのように元の場所に戻されてしまうという仕組みだ。
そして、まっすぐ石畳を進むことによって、この魔力の霧から抜け出すことができる。
これが普通に、次の町へと向かうための道筋だろう。
でも、俺がしたいのはそれではない。
今こそ、俺のこの見た目が生かされるとき…
ああ…
美男美女エルフを見たい!
そして、俺はもう一つの魔力の流れにそって体を動かす。
そう、それは…
【何、その気持ち悪い動き…】
【あれね、これまでダンスみたいな踊りをやってこなかったせいでしょうね。動きがぎこちなくなっちゃうのも仕方ないわよ】
【え?ダンスだったの?】
「(いや、俺がわかるわけないだろ、こういう動きだをすればこの霧を抜けられるってだけだ)」
そして、俺の変な動きによって馬車の周りの霧だけが晴れていく。
「これは…」
その光景にシバルが驚く。
いや、俺もこれには驚いた。
変な動きをしただけなのに、霧が晴れるとはな。
「すごいわね」
「なんじゃ、これは驚いたのじゃ」
馬車から降りたヤミとアイラもこれには驚いたようだ。
そうして、俺たちはエルフが住む場所にたどり着いたのだった。




