206話
完全にやっていることはいろいろアウトだと思うのだけれど、どこか見慣れた光景だと思ってしまうのは、俺自身もやっているからなのか…
いや、俺はずっとつけているわけじゃないからな。
違う存在だよな。
俺は、自分にそう納得させようとしていたけれど、頭に声が響く。
【ねえ、女性のパンツを被らせるのが、あなたの周りでは流行ってるの?】
「(知らないよ。というか、被せたのは俺じゃないからな)」
そう、実際に頭にパンツを被せたのは俺じゃない。
話によると、全身傷だらけでありながら、かなり恰幅のいいおっさんであるジンバに被せたのは、ミライたちなんだそうだ。
確かに、こちら側に今いる、セコ・パンツ被ったバージョン…
面倒くさいので、セコパンツは、セイクリッドでの一件によって、パンツを被せられることによって、ソウゾウスキルによっていうことを聞かせられる存在となった。
そんなソウゾウスキルを使い、ジンバも同じ状態になり、横にいる宗次についても目を覚ませば同じ状態になるだろう。
なんといえばいいのか、こんなにも女性もののパンツを被っているやつを見ることになるとは思わなかったな。
そんなことを考えながらも、俺はこの男たちの処遇について、みんなと話すことになった。
「まずはどうするかだよな」
「はい、この国、レックスを任せるのが一番いいとボクは思うのですが…」
「そうだな」
「はい…」
俺とシバルの意見は決まっている。
セコパンツと同じように、基本的には誰かの命令を聞ける状態にして、レックスの国事態を普通のものにするというのが一番いいだろう。
野菜などの栽培をしているのはいいことだしな。
その効率化も含めて、宗次のソウゾウスキルでものを作れば、もっと野菜を作る時間を短縮できたり、量を作れたりするだろう。
そういう意味では、ここで宗次を無理やりではあるけれど、仲間にしたのはよかったと思ってしまう。
問題はだ。
「誰を次のトップにするんだ?」
「それについては、兄にしてもおうと思っています」
「ああ、兄ね…」
シバルにそう言われて、俺は兄であるツインの方を見るが…
そこにもしっかりとパンツを被った人がいた。
どういう表情をしていいのかわからないが、ここはしっかりとした挨拶をするべきだよな。
「えっと、少しぶりですね…」
「えっと、はい…」
いや、なんと言っていいのかわからねえ…
どう会話をするべきなんだ?
シバルたちの話しによると、ツインについてはソウゾウスキルで操られているというわけじゃなくて、力を抑え込むためにパンツを被っているらしい。
どういうことなのか、俺にはわからないが、一応これでもヘンタイ眼が使えるので、それを使ってみてみたが、確かに体の中にある何かが魔力とつながっていて、それが暴走すると何かが起こるということだけはわかる。
まあ、俺には魔力がないので、見えるだけで何かができるとは思わないが…
ただ、操られていなくて普通にしているというのに、女性の下着をかぶっているというのも、どうかと思う。
そう、俺は思っていたのに…
「すみません、俺が不甲斐ないばかりに、皆さんに迷惑をかけたみたいで…」
「いや、いいんだよ。俺もあいつらがあそこまでのことをするとは思わなかったからな」
「そうですよね。俺も強くなることに固執しすぎたせいで、強さの本質をわかっていませんでした。それをシバルに気づかされてしまって…本当に未熟だと思います」
「そうなんだな」
めちゃくちゃ好青年になってる!
ただ、恰好だけは変だけどな。
いや、そんなことで偏見をもってはいけない。
そんなことを考えることはしてはいけない。
俺がやっていることのほうが、もっとヤバいのだからな…
よかった点としては、かなりいい人だということがわかったことだな。
後はこれからのことについて話し合えば、いいだけだな。
「まずは、このレックスのことだな」
「はい、かなり消耗はしてしまいましたね」
「復興については、そこにいる勇者を有効活用することで、ある程度はうまくいくと思うぞ」
「そうですね。こちらとしても、レックスにあったこれまでの野菜の育て方法を解放して、効率化を図るつもりです」
「なるほど、それはいいな」
「これまでのことも含めて、聖騎士としての役割も見直すつもりです」
「それがいいな。この国事態の能力は高いからな、あとは経験をつめばになるからな」
「そうですね」
どうやら、しっかりとこの国のことをわかっているみたいだ。
話も通じる。
最初から、こうだったら何も争うこともなかったのにとは思うが、戦うことで、お互いが見えることもある。
結局、喧嘩をしなければ本音を語り合えないというのは、どこの世界も同じことなのではないのかと思う。
いいことなのか、悪いことなのかはわからないが…
「ちなみに、この勇者たちとは何をしようとしていたんだ?」
「それは、簡単に言ってしまえば、レックス…そして、この世界を手中に収めるために必要なことですね」
「それを、モンスターを使って行うってことだったのか…」
「はい。今となっては間違っていたとしか思えませんがね」
「まあ、間違っていたと気づけるのならそれでよかったんじゃないのか?」
「確かに、そうですね。それでも、この国の人たちを傷つけてしまったのは、いけないことでしたからね」
「でも、そのおかげで、周りのやつらは成長したと思うぞ」
「そうなのでしょうか?」
「ああ、少しな」
これについては、嘘がなかった。
これまで模擬戦という形でしか戦ってこなかった人たちが、しっかりとした意味での、戦いをできたのだから、悪いことだけではなかったと思うしかない。
それに、これから魔王であるヤミを復活させることになったときに、まだほとんど出てくることがない、魔族の存在たちが気がかりだ。
この世界で戦ってきたのが、ほとんど人たちの争いだからな。
確かに魔族と少しは戦ったが、それについては、これからのことと考えるのが普通なのかもな。
それに、今回も少し絡んできていたラグナロクの存在も気になるところだ。
それでもまずは…
「あの黒い塊はもらっていいんだよな」
「はい、こちらでは持て余してしまうものですから」
「そうだよな。ちなみになんだが、あの黒い塊はどうやって使っていたんだ?」
「はい、それについてはアーティファクトがあります」
「そ、そうなのか」
実は少し予想はしていたことだけど、俺のように魔力がない場合に黒い塊をどうにかするためには、魔力を遮断することができるようなアーティファクトを使えればと思っていたが、簡単に見つかったな。
まあ、それがないことには、さすがに使えないよな。
悪用される前に、壊さないとな。
俺はそう思っていたが、すぐにツインは言う。
「そのアーティファクトについてなんですが、持ち出されているみたいです」
「まじかよ」
「はい、持っていった人については、一人しか心あたりがありませんが…」
「クロか…」
「はい」
これは、本当に面倒なことになりそうだな。
結局俺の行く先には、クロがいることになりそうだ。
正直、頭のおかしいやつとは戦いたくないんだがな…
そう思ったときだった。
【大丈夫よ。ただしだって、十分おかしいから】
そんな声が頭に響く。
うるさいとしか思えない。
というか、そうしたのは、お前だろと言いたい。
「聞いておきたいことはこんなもんかな」
「そうですか、ありがとうございました」
「ふ、何を言ってる?本当にその言葉を言われるのは、この世界を救ったあとだ」
「そうですね」
決まったな。
格好いいことを、ツインに言う。
それを聞いて、ツインは俺に頭を下げる。
確かに格好いいことを言った。
ただ、言われた相手が女性もののパンツを被っているということを除けばになりそうだが…
「どういう儀式?」
アイラにそう言われるくらいには、おかしな状況だったのは言うまでもなかった。




