200話
「ドラゴンネイル!」
「くそ!」
「ふむ、逃げるだけとはつまらないのじゃ」
「そう思うなら、僕に近づいてくるな!」
「近づかないと、攻撃できなのじゃ」
「く…」
や、やることがないだと…
俺は、まさかの展開に驚きしかなかった。
まさしくそうじゃ、そうじゃないって感じのことが起こっている。
だって、俺がかっこよく勇者と戦うという状況を想定していたのに、俺はただ見ているだけ…
一応たまにやってくるゴブリンを倒すことはするのだけれど、逆に言えば、やっていることといえばそれだけだ。
かっこよく剣術会場から抜けてきたというのに、パンツをかぶって腕を組んでいる俺を、今かっこいいとは、自分でさえも思わない。
ただのヘンタイになってしまっているこの状況をどうしたものかと思うだけだ。
だからって、ここで入るっていうのものな…
「面倒くさいな!」
「ふむ、避けるだけじゃ、わらわには勝てぬのじゃぞ?」
「ふ、僕に偉そうに説教をするのか?」
「だってそうじゃないのか?」
「頭のいい僕にそんな偉そうなことを言えるのも、今だけだということを教えるときがきたな」
そんな言葉とともに、宗次が取り出したのは、紐だった。
俺はそれを見て、すぐに嫌な予感がした。
その予想が当たるようにして、宗次はその紐に火を点ける。
「何をしておるのじゃ?」
疑問に思って、相手をなめているヤミとは違って、俺はすぐにその場をかける。
足に気を集めることで、爆発的な加速をつけ、ヤミを一瞬で片腕にもつと、そのままの勢いで少し距離を置く。
「な、なんじゃ?」
わけがわからないことが起こっているから困惑しているヤミとは違い、紐は地面に吸い込まれていくと、大爆発を起こした。
先ほどまでヤミがいた地面が爆ぜている。
理由はわかっている、爆弾を使っているのだろう。
武器として、銃を使っていたことで、火薬を作れるのではないのかと思っていたけど、そこに、あのクロという俺からすれば、ただの火を使う頭のおかしなやつと一緒にいたということを考えれば、爆弾の作り方くらいは教わっているはずだ。
それをソウゾウスキルで再現することで、地面に仕込み、地雷のようにしているってところだろう。
さすがのヤミも、先ほどまでいた場所がかなりの勢いで爆ぜたことを驚いている。
「な、何が起こったのじゃ?」
「爆弾ってやつだ」
「爆弾?なんなのじゃ?そんなもの、聞いたことがないのじゃが…」
「ま、そうだろうな」
この世界で聞くことがないというのは理解できた。
だって、こんな爆弾を使わなくても魔法があるから、それでこれくらいのことができるという理屈だ。
でも、魔法が当たり前の世界で、こういう物理といえばいいのか、魔力を伴わない攻撃というのは奇襲になる。
今回も油断しているヤミに対して、今の攻撃というか爆発をくらっていればそれなりのダメージをもらっていた可能性がある。
「油断しているから、そうなるんだぞ…」
「今のは言い訳のしようがないのじゃ」
「おう…というか、俺もただ見ているだけだったから、これくらはな」
「確かにそうじゃな」
「いや、そこはただしもよくやっていると言ってほしいところなんだが…」
「なんなのじゃ、女性ものの下着をかぶっているだけのおぬしにそんなねぎらいの言葉をわらわがかけると思っておるのか?」
「く、そんなことはわかってるけどな。なんとなく期待してもいいだろ?」
「相変わらずよくわからないことを言うのじゃな」
「仕方ないだろ!」
俺とヤミはそんな会話を完全に宗次を無視して行っていた。
だからだろう、前には怒り狂った宗次がいる。
「おいおいおいおい、僕を無視するんじゃない!」
そう言葉にしながら、持っているのはどこかで見たことがある武器だった。
どう考えても人に向けていいものじゃないそれに、俺は驚く。
「まじかよ…」
「ははは、今更僕のことを警戒しても遅い」
「なんなのじゃ?」
「さっきの爆発するものを弾にしたものだ」
「なんじゃと」
驚くのも無理はない。
驚いているのは俺も同じだった。
どう見ても、宗次が使っているものは俺が知っているもので間違いなければ、ロケットランチャ―と呼ばれる類のものだろう。
人に向けていいものじゃないはずだが…
そんなことをのんきに考えていると、宗次は引き金を絞る。
「それじゃあな!僕の未来への礎となれ!」
その言葉とともに、弾は発射される。
ゴオという音とともに発射された弾は勢いを増す。
ブースターみたいなものが後ろについて飛んでくるんだな…
なんてことを適当に考える。
いやまずは避けるしかないな。
俺は足に気をためると、避けるようにして動く。
ただ、案の定というべきか、弾は俺のことを追尾するように動く。
「予想通りだな」
「どうするのじゃ?」
「こうする!」
俺は弾に向かってあるものを伸ばす。
そう、ニーソだ。
こんなもので何ができるのか?
ヘンタイスキルがない人であれば、わからないだろう。
でも、俺はヘンタイだからな!
俺は隣にヤミをおろすと、両手でニーソを広げる。
「何をしようとしているのじゃ!」
「ふ、盾ってやつだ」
「それは盾じゃないのじゃ!」
不安そうにしているヤミには悪いが、俺は真剣だ。
これで、何ができるのかなんてことは決まっている。
しっかりとニーソで俺は弾を受け止め…
ることは当たり前だけれど、できない。
ただ、弾はしっかりとニーソに包まれることで、弾に俺は引っ張られる。
いつぞやで見たことがある、弾を操ることを俺はここでする。
できない?
そう思っているうちはできない。
ここまで、俺は特に活躍することもなく、ヘンタイとしてその場にいただけだった。
だから、こういうときくらいは活躍しないとな。
「うおおおおお」
俺は、どこかで見たことがある動きをする。
ハンマー投げのようにして、弾から出るブースターのようなもので回転をすると、そのままの勢いで空いた場所に向かって投げておく。
ドンという音とともに、地面が破壊されたけれど、気にはしない。
「おお…」
「おぬしが、驚くなじゃ」
「いや、だってここまでうまくいくとは思わなかったからな」
「なんなのじゃ、ぶっつけ本番でやったというのか、おぬしは?」
「だったら悪いのかよ」
「くう、うまくいった手前、あまり強く言えないのじゃ」
「そうだろう、そうだろう」
俺は、自信満々の顔をして、ヤミを見てから、宗次に向き直る。
「これで、終わりか?」
「くそ、なんなんだ、どうして僕の思い通りにいかないんだ!」
「それを俺に言われてもなあ」
「くそくそくそくそ…」
宗次がそう繰り返す。
そして、すぐに雰囲気が変わるのを感じた。
この感じは…
俺はどこかで感じた嫌なものを感じ、背中に嫌な汗をかいたのだった。




