195話
シバルが、兄であるツインの攻撃を完全に防いだところを見て、思わず口にする。
「おいおい、どうなってんだよ」
【もちろん、ただしがあの子のお尻を叩いたから、ああなったのよ】
「いや、そんな自信満々に言われてもな…」
「何をブツブツ言っておる!」
「うお!」
「く、やはり少し鈍いか…」
「みたいだな、おっさん」
俺は、シバルに向けていた目をジンバに合わせた。
俺がシバルを助けに入っている間に、馬を回収したようで、攻撃をしかけてきてはいるが、最初ほどの威力はない。
そのことについては、ジンバ自身もわかっているのだろう。
まあ、それにこっちには自称神もかえってきたしな。
俺にだけは聞こえる声にどこか懐かしさを覚えながらも、心強かった。
先ほどまでの二人を相手できたのも、この自称神である、スターの声があったからだった。
やっぱり神ということだけあって、相手の動きを見るというのは、俺よりもできるのだ。
俺もヘンタイ眼さえ使えれば、それも可能なのだろうけれど、こんなに人がいる前で、これ以上のヘンタイ度を与えるわけにはいかない。
今はそんなことよりもだ。
「何があったか教えてくれるよな」
【当たり前でしょ!って言いたいところだけど、この戦いが終わってからよ】
「は、もちろんだ!」
「何を一人でしゃべっている!」
「ふ、おっさんには関係ないことだ!」
「我に対して、その口の利き方!我はまだやれるぞ。聖騎士槍術改、人馬一体、一の型、重一閃」
そして、ジンバは突進してくる。
俺は右手をしっかりと固めた。
【やれるんでしょ?】
「当たり前だ!」
ジンバに先ほどのような自信も勢いもない。
今は、ただやられるわけがないと思い込んでいる短絡的な思考のみだ。
そこを俺は正面からぶち破る。
「カイセイ流、一の拳、トルネードスター」
「うらあああああああああああ」
「うおおおおおおおおおおおお」
二つの技が衝突する。
最初に出会ったときは確かに、俺はぼろ負けだった。
でも、それはまだヘンタイとしての自覚が足りなかったときだ。
今は違う。
俺のヘンタイスキルは強い。
そうヘンタイスキルのほうが、強いのだから!
「なに!」
「うらああああ」
「ぐはああああ」
俺の拳がジンバを吹き飛ばした。
あのときのように手が傷ついているということもない。
目のまえには槍を破壊されて右手を押さえたジンバがいる。
「意味がわからなぬ。そうして我は負けたのだ」
「さあな」
「なに!勝ったほうがわからないというのか!」
「ああ、お前のことなんか俺がわかるはずないだろ?」
「く…」
俺の方は大丈夫だ。
そう思ってシバルの方を見て、そちらも決着がつきそうだった。
※
ボクは格好よくツインに声をかけて盾を構えていた。
「がああああああ」
「ふん!そんな攻撃、ボクにはききません!」
ツインからの攻撃をボクは盾で完璧に防ぐ。
どうして完璧に防ぐことができるのか?
それは決まっている。
ボクが強くなる方法がわかったからというものだった。
そう、ボクの考えはあっていた。
でも、違っていたのが、考えの方向性だった。
ただ、それがわかった今、ボクがツインの攻撃を止められないはずはない。
だって…
「ボクは、守るって決めたから!」
「双剣、一の型、ダブルスラッシュ」
「ふひょ!」
確かに体に衝撃はある。
それでも、ボクのお尻には、それを超えるものがある。
ただしから、叩いてもらったことで背中を押された。
だから、自分の何が足りなかったのかを気づくことができた。
そう、間違っていたのはボクが兄であるツインを倒すということ…
正解はわかっている。
お姉ちゃんの手紙にも書いてあってようやくわかった。
ボクができるのは倒すことじゃなくて、守ること…
これまで、剣に魔力をのせるのに時間がかかっていたのも、結局はできないことを無理やりにやろうとしたからだった。
だから、ボクがやらないといけないことがわかれば…
「ふひ、ふひひひひひ…」
思わず笑いがでる。
そう、盾に魔力をのせることができるようになったボクは、その盾で完全に攻撃を防ぐために!
完全に攻撃を防がれた兄は、それでは攻撃力が足りないと思ったのだろう、魔力を爆発させる。
「がああああああ」
「ボクを痛めつけてみてよ」
「双剣、奥義、コマギリ」
「魔力の盾!」
ツインの攻撃はコマギリ。
両手の剣を広げて回転するという技。
これまでのボクだったら、上からか下からで攻撃することで、この攻撃をなんとかしていたはずだろう。
「でも、今のボクなら!」
「がああああああ」
「くひひひひょう」
「が…」
「ふふふ、止まりましたね」
回転を完全に止めることに成功した。
そのときだった。
「シバル…」
「え?」
「すまない…」
「ううん、ボクが守ってあげるから!」
兄が虚ろなものから、もとに戻った。
だから、ボクは盾に力を込めた。
だというのに、兄は首を振る。
「逃げろ!」
「どうして?」
ボクは聞く。
そのタイミングで、ただしの声が聞こえる。
「やめろ!」
「はは、我らのやることはここからなんでな」
その言葉とともに、何かを起動したのだろう。
「がああああああ」
兄の体から、魔力があふれだす。
それによって、兄は…
人ではなくなった。
「ああああああああああ…」
その光景に、ボクはまた思ってしまう。
間に合わなかった。
今度こそ、ボクが守ると決めたはずなのに…
ボクは…
そのときだった。
「シバル!」
力強くボクを呼ぶ声がする。
影がさす、そのほうへ顔を上げると、そこには真剣な顔のアイラ様がいた。
「アイラ様…」
「ねえ、やるんでしょ?」
その言葉に、ボクはうなずく。
そうだ…
アイラ様なら、なんとかできるかもしれない。
まだ終わっていない。
ボクは盾を構えた。
そんなボクの背中を衝撃が走る。
「ふひ…」
「ほーら、シバル。頑張るわよ」
「は、はひ!」
「ふふふ、いい返事ね」
後ろに立ったバーバルに言われて、ボクは思わずドエムスキルが発動する。
そんなボクを見て、「ちょっと、私のいい雰囲気が台無しじゃない」アイラ様はそんなことを言うが、笑う。
「それも、私たちらしいってことなのかもね」
「はい」
「ええ」
そして、ボクたちは醜い見た目になった兄に立ち向かった。




