193話
「行くぞ、聖騎士槍術改、人馬一体、三の型、重乱れ突き」
「はあああ!」
俺は相手の多数の突きを剣で完璧にはじく。
なんてことはできない。
わかっている。
だって、完全に技を極めているような、ジンバと違って、俺は剣をかじったような動きだ。
だったらどうするのか?
答えは簡単だ。
俺は、体術と組み合わせることで、その攻撃を避ける。
避けられない攻撃は剣ではじく。
少しの攻撃は確かに体をかすめるが、それは服だ。
体は完璧に避けている。
ジンバも、肉を切ったという感覚がないからだろう、乱れ突きが終わった後に、ジンバは再度馬を走らせる。
「おら!」
「ふ!」
そして、攻撃も剣ではじく。
基本的に、俺が剣でできることは受け流しのみ…
そのことがジンバもわかったのだろう、つまらなさそうに笑う。
「なんだ、攻撃をいなすことしかできないのか?」
「そうだな。剣ではこれしかできないな」
「なんだ、つまらんな!」
「確かに剣だけならな!」
俺は懐からあるものを取り出す。
そして、それを剣の鞘につけた。
それに周りからはどよめきが起こる。
理由はわかっている。
何を鞘につけたって?
ただのニーハイソックスだ。
ヘンタイ的二刀流を見せるときがきたな。
それに対して、ジンバはというと、さすがに俺が何をしているのか理解ができなかったのだろう。
「何をしているんだ?」
そういってくるが、俺はしっかりと構えをとるという。
「試してみればいい」
その言葉によって、ジンバは再度槍を握りなおすと突進してくる。
「行くぞ!聖騎士槍術改、人馬一体、一の型、重一閃」
「ヘンタイ剣、からめ手!」
「なに!」
そして放たれた攻撃に対して、俺はヘンタイ剣。
今さっき考えた名前の技を繰り出す。
それは、ただ受け流した槍に、鞘のニーハイソックスを絡めるというものだ。
といっても、それは簡単に引きちぎられる。
「何がしたいんだ?」
「いや、俺のやっていることだからな?」
「もしや、無駄なことにも意味があるというのか!」
「ふっ!」
俺は意味深に笑っておいた。
まあ、全く意味はない。
ニーハイソックスで何かできないかと考えた結果がこれなので、一瞬に破られたことに対して俺は逆に戸惑っている。
やっぱり、腕とかに巻き付けないと全く意味がないということに…
普通に弱い相手であれば、これで武器を奪い取るなんてこともできるかもしれないけれど、相手は最低でも強さは同等だと、俺が思いたい相手なので、布切れとしか機能していない。
そうだよな。
やっぱり無力化した後か、石とかを入れて投擲として使うくらいしか使いみちがないのか?
く、この黒のニーハイソックスには何もできないのか…
俺はがっくりと項垂れそうになるのをなんとか耐えながらも、どうやって戦うのがいいのかを考える。
といっても、すぐにいい案が浮かんでくるはずもないよな。
そんなことになれば、簡単に勝てる可能性もあるかもしれない。
そんなバカみたいなことを考えているとは思わず、ジンバは俺のことを警戒している。
まあ、さっきのよくわからない発言のおかげなのだろうけれど、ありがたい。
これで、俺の装備がなんとかできるな。
俺は、鞘を投げ捨てた。
横目でチラッと見ると、シバルはツインといい戦いをしている。
といっても、どこか嫌な予感もしている。
だからこそ、早めに対処が必要だよな。
俺は考える。
そこで一つだけ思いつく。
これは黒いニーハイソックスを使うことでできる技だ。
俺は、さっそくそれを試すべく、再度ニーハイソックスを取り出す。
ジンバはそれに警戒する。
ふ、警戒すればいい。
俺のこれは、警戒したところで、意味をなさないからな。
そして、俺はニーハイソックスを投げると、一面に広がるようにして切り裂く。
「秘儀、目隠し!」
決まった。
俺は勝手にそう思っていた。
そう、俺はこのときに、今更ながらにジンバの強さの要因が馬にあることがわかったのだ。
だったらどうするのか?
答えは簡単だった。
馬を同様させ、制御できなくすれば、俺は簡単にこの状況を打破できるのではないかということを思いついたのだ。
結果は…
「おぶはああああああ…」
「ほう、受け流したか!」
「いや、痛いな!」
「やはり、あの程度の攻撃だとぴんぴんしているな」
そう、やられていた。
一応目隠しとして、黒いニーハイソックスを全面に広げたというのに、それは簡単に槍に吹き飛ばされた。
馬の視界を防げばと考えたけれど、ニーハイソックスではそれも意味はなさなかったようだ。
そういえば、馬に詳しい人に少しだけ聞いたな…
馬は夜目がきくってことをな。
だから、少し視界が暗くなる程度では、あまり意味がなかったということなのだろう。
だからって、そのままの勢いで槍の柄でぶん殴られるとは思わなかった。
普通に痛いが、ヘンタイスキルのおかげでなんとか痛い程度で済んでるってところだ。
どうすればいい?
ジンバを倒すとなれば、一番手っ取り早い方法が馬からおろすことだと思っていたから、それがうまくいかないとなると厳しい。
そんな俺の考えをわかっているかのように、ジンバは槍を構える。
周りには風が吹き出す。
それだけで何をやるのかはわかった。
「何をしたいのかはわかるが、我の相棒は、お前が考えているような柔なやつではないのでな」
「そうかよ」
「ああ、だから行くぞ!聖騎士槍術改、人馬一体、奥義、大車輪トルネード」
その言葉とともに、ジンバは風に包まれる。
あの技か…
ジンバを中心にした風によって、自分を中心に竜巻…
いや、これは台風だな。
そう風が起こる。
そのまま、俺に向かって進んでくる。
どうすればいい?
俺が身構えるだけしかできないでいると、懐かしい声が聞こえる。
【くるわね】
「!」
【そんなにびっくりしないでよ】
「そうだな」
【ねえ、ただし…】
「なんだ?」
【吹き飛ばしちゃいなさい】
何を無茶なことを…
そう考えながらも、ここでやらないとどうしようもないということは自分でもわかっていた。
俺はネクラからもらっていた下着を右手で握る。
この感触…
いける!
俺は右手を固めた。
そして、左手で剣をジンバに向かって構える。
そのまま上に投げた。
「?なんだ?」
疑問に思っているジンバに対して、俺はしっかりと剣を見ていた。
行くぞ!
「カイセイ流、一の拳、トルネードスター」
「なに!」
俺は剣の柄を拳で殴る。
それも、ジンバに向かっていく方向でしっかりとだ。
ドンという音とともに飛んでいく剣。
これで終わりじゃない。
俺は剣に続くように駆ける。
「カイセイ流、五の拳、スターキャノン」
そして、両手の拳をジンバに向けた。
それを見たジンバは言う。
「ほう、これを見て正面から向かってくるとはな!こい!」
「はあああああ」
「うおおおおお」
そして、剣が当たり、弾かれる前に、俺のスターキャノンがその剣の柄を再度殴る。
こちらに吹いてくる風によって、勢いは確かに弱まっているかもしれないが、俺はそれでも進む。
ジンバの魔力と俺の気が激突する。
「は!ぬるい!」
ただ、進む勢いは、徐々に弱まる。
確かにこのまま終われば、俺が負ける。
でもな…
【ただし、あなたのヘンタイ力をみせなさいよね】
「任せろ!」
俺は剣の角度を少しだけ調整する。
太陽の光が反射して、馬の目にあったった。
その瞬間だった。
「ぶるるるるる…」
「なに!」
馬は暴れだす。
暗さはダメなら明るさだ。
人馬一体は、当たり前だけれど、馬と一緒にいないと機能しない。
一度暴れだした馬は止まらない。
「くそ!我のいうことをきけ!」
「ふ、予定外のことは起こるものだろ?」
「なんだと!我が負けるというのか!」
「ああ、そういうことだな」
ジンバの起こした風は霧散する。
そして、俺は地面を力強く殴る。
ドンという音とともに、風で防げなくなった土の塊はジンバたちを飲み込んだ。
「よし…」
【騎士の子が危ないわよ】
「まじかよ」
俺は落ちた剣を手に取ると、駆ける。
そして、二刀の片方を弾くことで、それを防いだ。
「ただし…」
落ち込むシバルを見て、俺は構える。
「シバル。構えろ!」
「!」
「来るぞ!」
ツインが何か変わった。
それを見て、ジンバが笑っている。
くそ、嫌な予感しかしねえ。
【来るわよ】
「わかってるっての!なあ、シバル!」
「は、はい」
俺たちはお互いに構えをとった。




