190話
「魔力の塊というのは?」
「そうだな…それについては、嬢ちゃんはそういうものがあるということを知っているのか?」
「魔力の塊があるってことをですか?」
「そうだ。これについてはワシもよくは知らないな」
その言葉を聞いて、もしかしてというものが一つだけは当てはまったが、それは魔力がない人にしか扱えないものという話を聞いていたので、違うだろう。
それに、そんなものを使ってどうしようというのだろうか?
そについては、すぐにザンが答える。
「その魔力の塊をあの男は持っている。そのおかげかせいか、体には無限ともいえる魔力が湧いているってことになるな」
「そんなことになれば、体は耐えられないんじゃないのですか?」
「ああ、確かに嬢ちゃんの言う通りだ。でもな、そこに新しい勇者である男が、あるアーティファクトを作ったらしい」
「それって…」
「ああ、制御装置ってものらしいな。それを使って魔力の塊を制御しているって話だ」
「そうですか…」
魔力の塊というのは、わかる。
その制御装置を作るというのも…
でも、わからないのは、それをなぜボクの兄がやっているのかというところだった。
「どうして、あの男がそれをやる必要があったんですか?」
「ああ、それはな…どうしても王になる必要があるらしいぞ」
「!」
それについて、ボクには心当たりがある。
あの、大好きだったお姉ちゃんが死んだことについてだろう。
でも、だからこそボクは兄を王様にするわけにはいかない。
ただ、疑問もあった。
「でも、それだけのことがわかっているのなら、どうして先ほどは止めたのですか?」
「それはだな。あのままついていってれば、勇者たちと出会うことになったかもしれないからだな」
「勇者に出会う前に止めることができれば、それでいいんじゃないんですか?」
「ふむ、確かに、それができればワシらも苦労はしないな」
「それだけじゃないんですか?」
「ああ、後ろに、あいつがいる。ジンバがな」
「それは…」
「なんだ、驚かないということは、あいつのことを、嬢ちゃんは知ってるんだな」
「はい…」
ジンバ。
それは、ボクと兄があの事件があった後に保護された相手だ。
強気ものが生き残る国。
それがレックスではあったが、さすがに兄はあの出来事で、三人の男たちを剣で切り殺した。
そのことについて、多少の罰があるはずだった。
それをもみ消したといえばいいのだろうか、なしにしたのが、当時から聖騎士になっていた、ジンバという男だった。
強さを求めている。
そう本人は言っていた。
その言葉のとおり、兄はジンバという男の相手をすることによってさらに強くなった。
兄のスキルは二刀。
二振りの剣を持つことで、スキルを発動できる。
だから二振りの剣をもち、攻撃をすることが一番強いことを学んだ兄は、強さというのは相手を一方的に切り倒してしまうことと思っている。
そして、この王様を決める戦いに勝つために、兄は最初から頑張っている。
そのことは知っていたけど、そこまでやる必要があるのかと思ってしまう。
それに、あの王様が負けるなんて…
「どうしたんだ?」
「あの王様が殺されたというのが、信じられなくて…」
「確かにな。ワシもあいつがやられるとは思わなかったからな」
「そうですよね」
そう、レックスにいた王は強かった。
この目のまえにいるザンと同じように、刀と呼ばれる武器を愛用していると聞いていて、当たり前だけれど、レックスでは最強だった。
だというのに、あの男にやられた。
確かに、黒い炎を使う勇者というのは異質だった。
でも、それだけで王が簡単にやられたというのだろうか?
戦ったところを見ていないので、どうなのかはわからない。
ただ、剣術大会が開かれたということは、現に王がいなくなったということなのだから、本当のことなのだろう。
「でも、それならザンさんはどうしてここに来たんでしょうか?」
「それは決まってるだろ、嬢ちゃん…ワシがあのジンバをなんとかするためだな」
「え?」
その言葉を聞いて、ボクはわけがわからない。
ジンバは、一時的とはいえ、ボクたちに剣を教えてくれたりもした、言ってしまえば恩人にあたる人だ。
だというのに、どういうことなのだろうか?
「簡単なことだ。このことをしている黒幕がすべてジンバだからな」
「そんなこと…」
ありえないと言おうとして、思いとどまる。
どうしてか?
どこか思い当たる節があったからだ。
そのことをザンもわかったのだろう。
「思い当たることがあるんだな?」
「はい。ボクは一時的とはいえ、お世話になっていましたから…」
「なに!ということは、二刀流を使う男は…」
「はい、ボクの兄です」
「そうか、嬢ちゃんの…」
「はい…」
そう、兄がレックス内で起こしたことについては最低でも処罰の対象であったが、それをジンバが後ろ盾したのだ。
稽古をつけるという理由だ。
普通であれば、人を殺した兄には罰がある。
でも、それまでに殺された男たちが、女性に悪さをしていたことや、レックスの国事態が弱肉強食であったからこそ、すでに聖騎士であったジンバに、誰も反論することもなかった。
ただ、ボクは兄と違って、最初からスキルがわかったわけじゃない。
だからこそ、弱かったボクはすぐにジンバとの訓練をさせてもらえなくなった。
それは、ジンバが強さだけを求めているからに違いなかった。
そんな中でも、ボクはなんとか強さを身に着けるために、自分で訓練をしていた。
そんなときに見てしまった。
ジンバがあきらかに、あのときお姉ちゃんを襲ったのと同種の男たちとあっているところを…
そこから、ボクはこの国を出るために、訓練を頑張った。
そのかいもあってか、ボクはこのレックスを出た。
スキルもわからないボクに、ジンバは特に執着することもなかった。
だから、セイクリッドで出会ったときにも、ジンバは自分の興味ではなく、兄から言われていたであろうことを言ってきただけなのだろう。
だったら余計に、ボクは…
「兄を救いに行きます」
「嬢ちゃんは、やめておけ」
「どうしてですか?」
「そんなこと、ワシが言わなくてもわかるだろ?」
「それは…」
言いたいことはわかっていた。
ボクが助けにいく兄は、すでにボクが知っている兄ではない。
それは、後ろ姿だけでわかっていた。
それでもボクは…
そこまで考えたところで、ボクは気づく。
「あの…」
「なんだ?」
「明日の剣術大会を見ていてください」
「何をだ?」
「すぐにわかります」
そう、ボクは思い出した。
あと一勝すれば、ボクは必然的に兄と戦うことになる。
そして、ただしも…
ザンは、それを思い出したのだろう。
「まさか…」
「はい、ボクがただしにお願いしてみます」
ボクはそう言葉にすると、席をたつ。
ザンが何かを言っていたような気もするが、ボクはそれを聞かないまま、その場を後にした。




