189話
ボクは、アイラ様たちのもとへ戻るために歩き始めた。
ただ、すぐに見知った後ろ姿を見た。
「兄?」
そこにいたのは兄に見えた。
ボクはその後ろを追いかける。
どうしてか、いつもの兄とは違う雰囲気に、ボクはついていかないといけないと思ってしまった。
見失わないようにゆっくりと後ろをついていく。
兄はどこかに向かっているのだろう。
その歩く姿には迷いがなかった。
どこに向かっているのだろう?
ボクがこのままついていっても大丈夫なのだろうか?
でも、気になる。
兄が何かがおかしいということには気づいていたからこそ、何が起こっているのか知りたい。
そうして後ろを歩いていたときだった。
兄を追うことに必死になっていたせいなのかはわからないが、ボクは人とぶつかった。
「す、すみません」
「おう、こっちこそすまんな」
ボクは慌てて謝りながらも、兄の後を追うためにすぐに動こうとして、腕をつかまれた。
よくわからない状況に戸惑いながら、腕をつかんできた相手である、ぶつかってきた人を見ると、どこか見覚えがあった。
「えっと…」
「なんだ、嬢ちゃんは覚えてないのか?」
そういわれて、しっかりと姿を確認したところで、相手が誰なのかようやくわかる。
刀を腰にさげているその姿は、確かに見覚えがあった。
「ラグナロクの…」
「ははは、そうワシだよ」
確か水龍の水のブレスを斬っていた人に違いなかった。
ただ、名前は知らないのでなんと呼んでいいのかわからないでいると、おじさんは言う。
「ワシのことはザンとでも呼んでくれて構わん」
「そうですか、それではザンさん。ボクは失礼します」
「ちょっと待ちな、嬢ちゃん」
「どうしたのですか?」
「ここにワシがいるのが偶然だと思うのか?」
「え?」
その言葉に、ボクは驚きながらも冷静になる。
もしかして…
「ここにいるのは偶然ではないのでしょうか?」
「ああ、当たり前だな。ワシがここにいて、わざわざ嬢ちゃんにぶつかるなんてこと、普通ならあり得ないだろう?」
「確かにそうですね」
「そうだ。さっき嬢ちゃんが追っていた男と、この国について、ワシが知っていることを教えてあげるのがいいのか?」
「わかっているんですか?」
「そうだな。ワシらはこうみえても、ラグナロクのメンバーだ。だから、ワシらはいろいろなことを知っているからな」
「だったら教えてください。さっきの男の人が何をしているのかを…」
「そうだな。ワシらも、嬢ちゃんと、その仲間である、あのヘンタイな男子には話がいくとワシらも助かるからな」
そう言葉にすると、ザンと名乗った男は、ついてこいと言わんばかりに歩きだす。
ボクはそのあとを追う。
歩きながらも、ザンは話を始める。
「まず、この剣術大会がどうして行われているのかは、嬢ちゃんは知っているな?」
「はい、次の王様を決めるためですよね」
「ああ、その通りだ。この剣術大会で優勝するやつが次の王様になるというのが、このレックスではルールだからな」
「はい」
このレックスでは、基本的に最強至上主義というのが存在しているので、強ければ強いほどよくて、逆に強くないと王様でなくなってしまう。
じゃあ、どうしたら次の王様を決める戦いが行われるのか?
それは、王様が死ぬ。
もしくは、王様が戦いで負ける。
そのどちらかだ。
そして、今回は…
「まあ、知っているのは聖騎士の数人だけという話だが、今回は両方だという話だ」
「ということは、王が負けてそのまま亡くなったということですか?」
「ああ、そういうことになるな。ワシもそれを知ったのは、今回の剣術大会が行われると聞いてからだ」
「でも、それなら今回の剣術大会は、王を倒した聖騎士が最有力候補となるのですか?」
「いや、違うな。やったのは…勇者だって話だからな」
「え…」
その言葉に、ボクは思わず絶句してしまった。
だって、勇者がこの国の王を殺したと聞いたら、だれだってそう思う。
ボクたちがあこがれているはずの勇者という存在は、確かに幻滅してしまった人もいたけれど、それ以外は強く、どことなく変な考えを持っている人はいたが、むやみに人を殺すなんてことをしなかったからだ。
それに、ボクたちが出会ったことがある勇者というのは、ただしと同じ世界から来ている人がほとんどだった。だから、そんなことをするとは思っていなかった。
だからこそ、聞いてみる。
「どんな勇者が殺したんですか?」
「ああ、黒い炎を使う男だという話だ」
「そうですか…」
「ああ、あったことがあるんだろ?」
「そうですね。この前に…」
「みたいだな。ワシもその時にいたら、この刀で、一太刀くらいはやってやりたかったのだがな」
「それは、心強いですね」
「ふむ、嬢ちゃんは違うのか?」
「違うわけではないのですが…」
「そうか」
「はい…」
剣に悩んでいて、少し答えがわかった気がする。
なんていうことを、今は言えなかった。
でも、ボクはそれよりも気になっていたことを聞いた。
「それで、先ほどの男は、何をしているのですか?」
「ああ、そうだな。それが、今回の厄介なところだ」
「そうなんですか?」
「ああ、あの男には、魔力の塊が埋め込まれている」
「それは、どういうことなのでしょうか?」
「ふむ、そのことについて説明するには、まずはここに入るか…」
そうして、連れてこられたのは、茶屋だ。
確かに、さっきまでのことと、今の話しとで、気づかないうちに口の中は乾いてしまっていた。
ボクたちは、普通に入ると、飲み物を注文して話を続けるのだった。




