188話
「ねえ!」
「ううん?どうしたの?」
「どうしたのじゃないでしょ?」
強く、私はそう言葉にしていた。
ただ、言われている叶は、飄々とした様子だった。
その態度に、私はさらに言葉をぶつける。
「あなたが、あんなことばかり言うからシバルが…」
「そうなの?それに叶は関係あるの?本当に?」
「それは、あるでしょう」
「でも、だったら、どうしてアイラたちはシバルに声をかけてあげないの?」
「それは、なんて声をかけていいかわからないから…」
「ふーん、それでただ何も言わなかったんだね」
「そうだったらおかしいの?」
「そういうわけじゃないけど、ほっとくだけでいいと思っているのが、面白いね」
「なんですって…」
「だって、長く一緒にいたあなたがそう思っているってことなんでしょ?」
そういわれて、私は何も言えなくなる。
確かにそうだった。
ただしがセイクリッドに来た時、私はなんと言われた?
あのとき、普通に迎えに来てくれたと思ったのに、私はそれに甘えて手を引っ張ってくれるものだと思っていた。
でも、ただしはどうだった?
私の手を引くこともなく、今の私だとダメだとはっきり言ってくれた。
そのときはああ、見捨てられたと思った。
でも、それでよかったというのがすぐにわかった。
私には突き放されるくらいでちょうどよかったのだから…
すぐにイラっときて、自分自身を変えないと意味がないと思ったからだ。
だったらシバルは?
この、叶と戦闘訓練していたときに、私たちは何を言ったの?
ただ、優しく言葉をかけているだけだった。
シバルに対して、それでよかったのかと考えると、わからない。
でも、私が知っているシバルだったら、もっとかける言葉があったんじゃないのかと思ってしまった。
それに…
「どうして、あなたが質問されて、私にはされないのよ」
「弱いからじゃないのですか?」
そういわれて、何も言えない。
でも、イラっとする。
私が弱い?
私と戦ったことがないのに?
「ねえ、だったら、私と戦ってよ」
「うーん、叶と戦いたいの?」
「うん、私だってそこまで言われたら、弱くないってところをみせないとね」
「へえ…」
そして、シバルをほったらかした私と叶は、あきれるヤミとバーバルを置いて二人で場所を移動する。
レックスでは、剣術大会をしているということもあり、その予選会場では、今でも模擬戦のようなものが多く行われている。
そこにいるのは、基本的に剣や槍、盾を持った騎士と呼ばれる人たちだけで、私と叶のようにほとんど何も持っていないような私と木の棒を背中に持っている二人が入ってきたこともあってか、かなり注目される。
「叶は、これだけど、アイラの武器は?」
「私の武器はこれね」
いつものように、金属の棍棒を取り出す。
「へえ、連結棍棒ってものなのかな?」
「連結棍棒?」
「叶の世界では、そう言われてるってだけだよ」
「そうですか…」
「うんうん、じゃあ叶とやろっか」
「はい」
お互いに構えをとると、動く。
シバルとの戦闘訓練で、ある程度叶が何をしているのを見ていた。
だから、一撃目はある程度攻撃が予想できる。
右の横切り。
キンという金属音がして、私の棍棒が防いだことがわかる。
予想はしていたけど、本当に見えない攻撃。
でも、何かが当たったという感触があるということは攻撃はやっぱりされてるってことで間違いない。
それに、シバルを叶が助けに行ったとき、戦った人たちの服が切れていた。
ということは…
まずは、木の棒の動きを見る。
その動きを防ぐ。
「へえ、やるね」
すぐにキンという音と、叶からそういわれる。
やっぱり、何かが私の棍棒に当たってるってことで間違いない。
それに叶の動きでわかる。
木の棒の剣先って言っていいのかは、私にも疑問だけど、その先に何か攻撃がきているということくらいはわかる。
でも、それがなんなのかはわからない。
「見えないっていうのは、わからないものね」
「それでも防げてるのはすごいよ」
「そうね。だからこそ、私は嫌なことに気づいたのよ」
「へえ?何かな?」
「一歩もあなたが動いていないことよ!」
その言葉とともに、私は棍棒を投げた。
虚を突いた攻撃だと思ったそれを、叶は簡単につかむ。
「へえ…」
「うーん、叶にやるなら、もう少しいろいろしないとね」
「確かにそうね」
「それで、武器がないけど、どうするの?」
「それはね、負けでいいかな」
「負けでいいの?」
「まあ、このままやると、お互いに熱くなりそうだからね」
「叶もなると思ってるの?」
「ふふーん、足元を見れば、わかるわよ」
そう、足元。
叶は先ほどの私の攻撃で足元が動いたのだ。
それを見て、叶は嬉しそうにしている。
私も、どこかスッキリした。
そして、私は叶に近づくと、二人で互いに笑いあったのだった。
「怖いのじゃ」
「わたくしも見たくはなかったですね」
その笑顔がお互いに作り笑いだということに、見ていた二人は恐怖を覚えたのだった。
そうして、シバルがかえってくるまで時間をつぶしていたとき、それは起こったのだった。




